キーワードは「虚無感」。TVアニメ「消滅都市」オリジナルサウンドトラック、川井憲次インタビュー

2019年06月19日 18:000

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昨今のアニメ劇伴では珍しく、アナログ機材を使ってトラックダウンしました


── 最初にお話が出た、原作ゲームの楽曲のアレンジというのは、「You and Me」と「Etarnity」です。アレンジされてみて、いかがでしたか?

川井 「You and Me」は、原曲の歌の部分とシンセのいくつかを入れて、アレンジしてみました。劇伴とはキャラクターが完全に違う曲なので、劇中でいい効果を出すんじゃないかと思います。難しかったのは、「Eternity」ですね。劇伴のほかの曲とうまくなじむようにしつつ、作曲者の方のこういう曲にしたかったという気持ちをなるべく汲み取って、それを崩さないようにアレンジしようと思いました。

── 「Eternity」は、「Anime version」と「Gloomy version」の2曲が収録されています。

川井 「Anime version」のほうが原曲に近いのですが、本山さんの指定通り、後半は音を厚くしました。出だしはピアノで、前半をチェロでやって、後半はどんどん楽器が増えていって壮大になっていきます。「Gloomy version」は敵側をイメージしたアレンジで、コードを変えて原曲の重心を落とし、重苦しくて怖ろしい雰囲気にしました。こちらはピアノとハープを使っています。

── 全体を俯瞰して、「消滅都市」の劇伴制作について、どのように感じていますか?

川井 ゲーム原作の難しさがありつつ、独特の世界観を持った作品だったので、この先もずっと記憶するだろう仕事になったと思います。とにかく「ロスト」の印象が強くて、一生覚えているんだろうなと。それから、今回も僕のスタジオにあるミキシング・コンソールを使って、アナログでトラックダウンをおこなっているんです。今、アニメに限らずほとんどの劇伴はPro Tools(プロツールス)だけで作業を行うので、かなり珍しいと言われました。もちろんPro Toolsは使っていますが、ただのレコーダーとして使っています。


── アナログ機材を使うのと、PC上でやるのと、音は変わるのでしょうか?

川井 実はそこは、僕にはよくわからないんです。海外の有名なエンジニアが、アナログならではのメルト(melt)があるという表現をしていましたね。つまり、アナログを使うと音が溶けると。僕はそこまでは言及できないのですが、いい感じでなまってくれているような印象はありますね。とにかく、延々とアナログ回路を通って出てきた音が、「消滅都市」の劇伴です。

── 最後に、川井さんは長いキャリアをお持ちなので、さまざまな年代のアニメクリエーターとお仕事をされてきたと思います。今の若いクリエーターの感性や仕事の仕方について、何か変化を感じている部分はありますか?

川井 いえ、僕はそれは感じていないです。クリエーターはどの時代の人でも前を向いて作品を作っていて、その姿勢には年齢も関係ないと思っています。ただ、プロデューサー、監督、音楽のディレクターといった人たちがみんな若くなっていくのは確かで、自分も絶えず変化し続けなければいけないと思っています。たとえ話なんですけど、どんな料理にもお醤油をかけちゃう人っているじゃないですか。あれと一緒で、今日はイタリアンだと思って作っていても、気がついたら醤油を使っているようなことが、作曲家にもあり得るんですよね。やっぱり自分の好きなものを作ろうとすると、どうしてもそこから外れないというか。

── しかし、川井さんの音楽が好きで、これぞ川井憲次というサウンド感を望んで依頼してくるクリエーターも多いのではないでしょうか?

川井 海外からの発注にはそういうケースが多いですね。この作品のときのこんなコーラス、こんなリズムを使ってほしいと。日本のクリエーターの場合は、過去の作品が引き合いに出されても、もう少し抽象的です。自分が好きな音楽を自由に作っていって、それがクリエーターの人たちに受け入れてもらえるうちは、僕の仕事は続いていくんだろうなと思っています。




川井憲次プロフィール


かわいけんじ/1957年4月23日生まれ。東京都出身。
1986年から、劇伴作曲家として活動。アニメ、映画、TVドラマ、ドキュメンタリー番組、CM、ゲームなど、国内外を問わず、膨大な作品を手掛けてきた。最近の作品に、TVアニメ「刀剣乱舞-花丸-」、「モブサイコ100」、「りゅうおうのおしごと!」、劇場アニメ「さよならの朝に約束の花をかざろう」、「SERVAMP-サーヴァンプ- Alice in the Garden」、NHK朝の連続テレビ小説「まんぷく」など。



CDデータ

■TVアニメ「消滅都市」ORIGINAL SOUNDTRACK

レーベル:ポニーキャニオン/2019年6月19日発売

3,000円(税別)


〈収録曲〉
01. これから
02. もくろみ
03. 不安
04. 妖しい
05. 模索
06. 追想
07. You and Me (Anime Version)
08. 背中
09. 緊張感
10. 絶望
11. 運び屋
12. 俯き
13. ユアたん推しです!!
14. ユキのテーマ
15. 潜入
16. 失敗
17. Eternity (Gloomy Version)
18. 劣勢
19. 虚無
20. 悲しき運び屋
21. 危機との対峙
22. Eternity (Anime Version)
23. ぶっきらぼうな優しさ
24. タクヤとユキ
25. 穏やかな日常
26. 狂気
27. 覚悟
28. 迫り来る…
29. 闘い
30. さいご



(取材・文/鈴木隆詩)

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消滅都市

消滅都市

放送日: 2019年4月7日~2019年6月23日   制作会社: マッドハウス
キャスト: 花澤香菜、杉田智和、中村悠一、朝井彩加、新垣樽助、愛美、西村太佑、中恵光城、高橋信、高橋英則、今井麻美、佐倉綾音、松岡禎丞、島﨑信長、KENN、日岡なつみ、黒沢ともよ、鈴木崚汰、てらそままさき、山谷祥生、社本悠、岩井映美里、直田姫奈、大西亜玖璃、園山ひかり、玄田哲章、津田健次郎
(C) Wright Flyer Studios/消滅都市製作委員会

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