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スタジオぬえは「トータルにものを見られる場所」
── 「地球少女アルジュナ」のDVD版では、テレビ版に実写映像やセリフが膨大に足されていました。完全にテレビのフォーマットを破壊している点が面白かったです。 河森 「超時空要塞マクロス」(1982年)のエンディングも、実写映像にしました。どんな作品でも枠を超えて、何とかして実写を入れようと試みてきました。よーく見ると一部だけ写真を使っているとか。「アルジュナ」に関しては、「超時空要塞マクロス Flash Back 2012」(1987年)と同じように、ビデオパッケージならパッケージなりの内容であるべきだと考えていたんです。単なる“再現”には、まったく、何の興味もない人間なので(笑)。「テレビはテレビ、ビデオはビデオ。ビデオには定尺ないよね?」という僕の話を、高梨実プロデューサーが聞いてくれたんです。「アニメーションでつくる余裕がないなら、実写でもいいんじゃないの?」って。
── 明らかに、河森さんが個人的に撮ったビデオ映像も挿入されていましたね。 河森 そうそう、どうしてもCGじゃなきゃいけないルールってあるの? と思ってしまう。確かに「アルジュナ」では作画もCGも使ったけど、伝えたいことが伝われば、媒体は何でもいいと思ってしまうんです。
── 「創聖のアクエリオン」では、最終回になっても新しい合体パターンが唐突に現われて、驚かされました。 河森 最終回に出てきた合体形態は、ダビングスタジオで超合金の試作品をいじっていたら、「あっ、できちゃった!」と偶然にできてしまった形態なんです。……子供のころ、宇宙開発にも憧れたけど、いちばん憧れていたのは発明家でした。「あらゆる発明は、失敗からしか生まれない」という言葉を、心から信じている人間なんです。偶然だろうと失敗だろうと、起きてしまった出来事から、新しいアイデアを見つけられるかどうかにかかっている。だから、アクシデントは大好きなんです。思わぬ失敗や予定にないことが起きてしまって、それを理由にあきらめるのもひとつの方法とは思います。だけど自分の場合、「予定にないことが起きたら、何とかしてそれを使う」のが方法というかスタイルです。
── 周りのプロデューサーは止めたりしないんですか? 河森 多くの場合、コストパフォーマンスを説明すると、納得してくれますね。結果として、僕がやらなきゃいけない仕事は発注~プロット~シナリオ~絵コンテ~完成まで2週間でテレビアニメを1話分つくるとか、先に絵を編集してセリフは後から考えるとか、常識はずれなことばかり(笑)。死ぬかと思ったけど、そういうムチャクチャな勢いって大好きなんです。あり得ない化学反応というか、「こんなカットつなぎ、普通はやらないよな」という予想外の部分が出てくる。苦しまぎれではあるんだけど、自分でも予期していなかった面白い効果が出たりするんです。
── 普通は、制作進行を経てから監督になりますよね。そういう当たり前のセオリーを踏まなかったのが、プラスに働いたのではありませんか? 河森 そう、完全に横入りでした。新人教育の話をするようになってから気がついたことなのですが、今みたいにサイクルの早い時代に、何年も下積みしてからようやく全体を見渡せる立場につけるのは時代に合わないんじゃないか……。下積み自体は、もちろん悪くないなんです。だけど、全体を見渡すことを想定せずに自分の領域だけ見つめた下積みは、後々苦労するケースを、数多く見てきました。
たまたま、自分の所属していたスタジオぬえは企画会社であり、デザイナーがいてイラストレーターがいてシナリオライターがいて、小説家も漫画家もいる会社でした。なので、出版社の人は出入りしているし、テレビ局のプロデューサーは出入りしているし、玩具メーカーやアニメ会社の人たちも、もちろん出入りしている状態でした。つまり、企画からアニメ制作から、出版から玩具の製品化にいたるまで、すべて同時に関われる会社にいたんです。最初から全体を見られる場所にいられたことが、自分にとっては功を奏したんでしょうね。トータルにものを見られる場所にいたことが、早い時期にディレクターをやらせてもらえたことと関係しているとは思います。
ほら、メカデザイナーから監督になった人って多いでしょう? 僕のパターンと似たことが起きているのかもしれません。メカデザイナーは商品化アイテムを担当するので、クライアントさん、スポンサーさんとのやりとりに慣れています。また、メカデザインは世界観、作品世界全体と密接に関係していますよね。アニメーターがワンカットだけ任された場合でも、全体の世界観をわかろうとしているのと、関心が担当カットにしか向いていないのとでは、後に演出に進めるかどうか、大きく変わってくるでしょうね。
── 最近のアニメについて、どう思いますか? 河森 絵のクオリティは、とても上がってきていますよね。パッと見た絵の上手さは、インターネットとデジタルペインティングの普及で、急速に伸びています。日本だけでなく海外も一気に伸びているのは、世界で同時に同じものを見られるデジタル時代ならでは。同時に、“本当に新しいもの”が生まれづらくなっている理由でもあると思います。
今月31日から始まる「河森正治EXPO」の展示物を選んでいますが、自分でも途方に暮れるぐらい、大量のラフスケッチが出てきます。ひとつのメカにつき、100枚ぐらいは平気で描いていますし、変形メカだったら、さらにその何倍も試行錯誤していますから。「えっ、こんなにいっぱい描いてたっけ? これだけ描いたのにボツだったのか!」って(笑)。若い人たちも、2つか3つぐらいボツをくらってもあきらめることないですよ。おびただしい屍の山を怖れることはないと思います。
(取材・文/廣田恵介)
イベント概要
■河森正治EXPO(SHOJIKAWAMORIEXPO)
・開催日: 2019年5月31日(金)~6月23日(日)
・開催時間: 10:00~20:00 ※最終入場19:30
※期間中月曜は19:00まで(最終入場18:30) ※5月31日(金)は13:00開場
・会場:東京ドームシティ Gallery AaMo (ギャラリーアーモ)
・入場料 一般前売り1800円/一般当日2200円
●展開内容 (1)「K-40シアター」新作ドーム映像
(2)「アーカイブパビリオン」過去の作品を一堂に展示!!
(3)「アイディアパビリオン」創造のルーツを探る
(4)「デザインパビリオン」様々なデザインの展示(スケッチ、コンテ、LEGO)
(5)「フューチャーパビリオン」河森正治が描くこれから先の未来像
・主催:株式会社サテライト
・特別協賛:株式会社SANKYO
・協賛:網易ニュース ジャパン/株式会社バンダイナムコアーツ/MBS
・後援:TOKYO MX
公式サイト
https://kawamoriexpo.jp 公式Twitter
@kawamoriexpo
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