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“人型メカ”を気持ちよく動かすために……
── 「マクロス ゼロ」(2002年)では、可変メカ・バルキリーが完全に3DCGで描かれましたね。 河森 ごく一部に、作画パートも入れました。「マクロス7」のオープニングでフルCGのバルキリーを初めてつくり、「マクロスプラス」、「KENjIの春」、「地球少女アルジュナ」で、いろいろな方向へデジタル技術を試してみてわかったのは、あの当時、人に近い形のものはまだCGでアニメーションさせるのは難しいということでした。同時に、カチッとしたメカニックを表現するにはCGは向いているとわかったので、「マクロスゼロ」ではファイター形態とガウォーク形態を主に活躍させることにしました。ガウォーク形態とバトロイド形態は、ちょっと作画も混じっているんです。アーマードバルキリーは完全に手描きですよね。人型メカの演技のクオリティが、まだ理想の域に達していないという読みがあったからです。
── なるほど。人型のメカを3DCGで描くのは、次の「創聖のアクエリオン」(2005年)まで持ちこしとなったんですね。
河森 そうです。「マクロスゼロ」に参加してくれたアニメーターと話していると、軍用メカを動かしているせいか動きが地味になって、“アニメ的なタイミング”を表現しづらいことがハッキリしました。人型メカだと、どうしても動きが硬くなりがちなんですね。アニメならではの、気持ちいい動きにならなかったんです。“不気味の谷”と同じで、人型の被写体の動きに人間は敏感ですから、なかなか難しい。それで、「アクエリオン」では思い切りデフォルメできるよう、スーパーロボットにしたわけです。その結果、スタッフの上げてきたモーションは、とてもよいできでした。2クールかけて到達できればいいやと思っていたレベルを、1クールで突破できましたから。
── それは、つくりながら目に見えてわかるんですか? 河森 もう、明らかに動きが変わってきました。ラッシュを見て結果がすぐわかるので、「ここまでできるなら、じゃあ、もっと上を目指そう」と挑戦できる。それこそが、テレビシリーズの醍醐味です。「アクエリオン」は、つくっていてとても楽しい作品でしたね。
── 初期のCGアニメでは、まず手描きのアニメーターがガイドになるラフな動きを描いてから、そのうえに3DCGを重ねるような手法がとられていましたね。 河森 それだとCGアニメーターは自分の頭で考えず、ラフ原画の動きを置き換えるだけになってしまい、力量がつかないと思うんです。原画を描いたほうは「俺が描いたのはこんな動きじゃない!」と不満に思うし、動かしたほうは「どうしてこんなに直されないといけないんだ?」と、お互いにフラストレーションを抱えてしまう。なので、「アクエリオン」ではラフ原画はなるべくつくらず、CG担当者に「君たちはオペレーターではなく、ひとりのアニメーターなんだから」という話を何度もしました。
── 「アクエリオン」では、主役ロボットの顔面アップを河森さんみずから描いていましたね。 河森 ええ、人型メカの決めポーズは、割と早い時期にスタッフが習得してくれました。だけど、アップの決め顔が“決め”にならないんです。手で描く強弱がつかないせいなのか、ほんのわずかな角度の差なのか、少しデフォルメが足りないだけなのか……。アップになって、立体がハッキリしてディテールも増えているはずなのに、なかなか“決め”にならない。それが最初のころは壁でしたね。「アクエリオン」の頃は、決め顔のためにCGスタッフの労力を割くぐらいなら、僕が自分で描いたアップをそのまま本編に使って、スタッフには動きをつけることに注力してほしかった。「アクエリオンEVOL」(2012年)になるとノウハウが溜まってきて、どれぐらいディテールを入れればCGでも“決め顔”になるのか、みんなわかってきましたね。
── 最初の「アクエリオン」では、硬いはずのCGメカがやわらかく羽ばたいたり、実験的な試みもありましたね。 河森 ああいうやわらかい動きが本当に可能なのかどうか、現場で試しながら、少しずつ確認していきました。もし思いどおりの動きができなかったら、手で描くとか羽ばたく演出を避けるとか、いくつか代替案を用意しながら試していくんです。とにかく僕は、実験が大好きですから(笑)。