プラモデルやフィギュア製品を「撮影する仕事」とは――? ベテランのホビー専門カメラマン、高瀬ゆうじさんの目撃した昭和~平成のホビー業界【ホビー業界インサイド第46回】

2019年04月30日 12:000

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ネットとスマホが、写真の常識を変えていく――!


高瀬 いつも試作品で撮影するので、関節がゆるくて折れやすいので大変です。以前はレジンキャストで複製されていたからまだよかったのですが、最近の試作品は光造形なんです。光造形は塗装できないし接着できないので、もろすぎてボロボロになってしまう。3Dプリンターによる積層痕も、悩みのタネです。3Dプリントされた出力品を組み立てる人と塗装する人に分担されているので、あの微妙な積層痕を消そうという人がいないんです。

── 塗装はしてあるのに、積層痕は消してないんですか?

高瀬 肉眼ではわからない程度の痕なのですが、こちらはアップで撮りますから、どうしても目立ってしまいます。フィギュアの瞳にしても、製品ではタンポ印刷になるのに、試作品ではデカールで表現してあります。すると、インクジェットの粒子で、まつ毛などが切れてしまっている。製品できれいにつながる線なら、試作品を使って再現してあげなくてはいけない。「美少女戦士セーラームーン」の場合、ほっぺたの3本線までPhotoshopで描いています。あと、デカールはテカるし、余白も出るので、タンポ印刷っぽく消さないといけません。ポーズでは嘘はつきませんが、製品でタンポ印刷になる部分は仕上げで修正しなくてはなりません。

── それは、デジタル造形ならではの苦労ですね。

高瀬 昔は、ちゃんとタンポ印刷したサンプルを撮影できましたし、そこまで気にする人は少なかったんです。だけど、いちどPhotoshopで後処理したら、次もやらないといけません。一度、技術のハードルを上げてしまうと、次からは下げられないんです。「ROBOT魂(Ka signature)」の場合は、デザイナーのカトキハジメさん自身のこだわりでサンプル品のフィニッシャーを選択しているし、必ず撮影にも立ち会ってくれますから、僕も楽です。

── すると、ロボットやキャラクターの手足をバラバラに撮影して、後から合成したりは?

高瀬 商品として見せる以上は、それはやりません。それでは嘘になってしまいますから。かつてはパッケージを見て、その写真を見て製品を買ってくださっていましたが、今は半年以上前にネット予約が始まってしまう時代です。お客さんはネットで見た写真で買うかどうか決めるし、その写真と製品が違っていたら「ぜんぜんできてないじゃん」と、製品のせいにされてしまう。また、以前は雑誌掲載用にCMYK形式に変換して、データを納品していました。今はネットでの掲載を優先して、RGB形式のまま派手な色を生かすようにしています。ウチで撮った写真が、そのまま世界マーケットへ出ていくので、手は抜けません。


── 海外の玩具販売サイトを見ても、国内とまったく同じ正規の写真が並んでいますからね。

高瀬 「聖闘士星矢」ならメキシコ、「ドラゴンボール」だったらアメリカの人に喜んでもらえるようにポージングをつけたり、ライティングしたりして、がんばって撮っています。

── ネット時代になって、ほかに何か気がついたことはありますか?

高瀬 今だと、一般の方がスマホで簡単にフィギュアを撮って、アップするじゃないですか。それが結構、カッコよかったりするんです。iPhoneのカメラって広角レンズなんですけど、現像エンジンが手足を末端肥大気味に修正するから、すごくきれいにカッコよく撮れる。それが当たり前の写真だと、お客さんも思っている。そうやって“フィギュアを撮る文化”が育っていくと、フィギュアも売れるし、巡り巡って僕らの仕事も理解されると思うんですが……。ただ、スマホによる自撮り写真って、広角で補正がかかっているから顔がとても歪んでるでしょ? 「そんなに歪んでていいの?」と思うんだけど、今ではそれがかわいい写真とかカッコいい写真とされている。

── 写真に対する常識が変化しているわけですね?

高瀬 そう、一般の方たちの常識が変化しているのに、いつまでも一眼レフで撮った写真のままでいいの?と、ちょっと思うんです。すでにお客さんはスマホでウチの写真を見ているわけだし、スマホで現像する色が正解とされるようになったら、そっちに常識を合わせた方がいいのかもしれない。余談ですが、コスプレ姿を自撮りしている人たちは、写真が上手いですね。自分でコスプレして自分で撮るわけだから、撮られる人の気持ちがわかるんですよ。ポーズも上手ければ、キャラクターも深くつかんでいる。やりたい気持ちが前に出ている人は強いし、そういう人たちと勝負していかねばならないので、大変です。コスプレイヤーが、最大のライバルかもしれません。



(取材・文/廣田恵介)

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