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「女の子」というモチーフを分解して、パーツを組み立てなおす
古賀 台北でインタビューを受けたとき、「ピクセルリアリズム」という言葉を使いました。まず19世紀に「ピクトリアリズム」という絵画的な写真の表現様式があって、1910年代に「ストレートフォトグラフィ」という概念が登場することで廃れていきます。というのは、フィルムの登場でカメラが小型化したんです。小さくて頑丈なカメラで、どこでも撮れる図像をこそ「写真」と呼ぼうという動きが起きた。それから100年ぐらいフィルムカメラの時代が続いたのですが、現在はデジカメが登場して、さらにスマホとSNSの時代になりました。スマホで撮られたネット上にあふれる膨大な量の画像データは、ストレートフォトグラフィという意味での写真ではありません。撮った段階で最適化されて合成されているし、アプリでいろいろな加工ができるし、むしろ絵画的なピクトリアリズムの復権というか、ピクトリアリズムと同じことをスマホでやっている「ピクセルリアリズム」ではないか? 僕の作品も、スマホなどで加工された画像のゴツいバージョンなんですよ……と、台北のインタビューで話しました。
── スマホアプリの加工技術、盛り方もすごいレベルに達していますよね。 古賀 いきなり話が模型に戻っていくのですが、写真って、現実の模型なんです。撮った瞬間に時間が止まるし、平面になるので空間がなくなるし、プリントしないかぎりサイズが存在しないので、スケールもなくなります。いちど殺した時間・空間・縮尺を、意図をもって再構成しなおした作品が、僕の「水中ニーソ」にも多くあります。モデルを連写した画像を1枚にすることで、時間を再構成する。あるいは、電車などの別空間へモデルを合成することで、空間を再構成している。僕は写真を画材には使っているけど、本来、写真が殺している要素を別の文脈で“組み立てなおしている”わけです。
── 最新作の「cube」は、モデルをパーツに分けて立方体に組み上げて……と、確かに模型的ですね。 古賀 「水中ニーソのつぶ」という、実物のアクリルキューブの奥に写真を貼った作品があったんです。さらに女の子が泳いでいる空間をキューブでそのまま切り取って見せたかったんですけど、それを三次元でやろうとすると、どうしても限界があります。むしろ、空間がない写真を“組み立てる”方法論なら、キューブの中を泳ぐ女の子を立体として見せることができる。見る人が見たら、「これって平面作品なんですか?」と驚くぐらい、立体に見えます。
── 最初に「cube」を見せてもらったとき、「プラモデルと同じことをしている」とおっしゃっていましたね。 古賀 はい。すでにでき上がっている彫刻をパーツに分解して、ランナーに配置するのがプラモデルじゃないですか。「cube」は、ひとりの女の子をマルチアングルで撮影して分解して、別々のアングルから見た像をひとつの画面の中に配置しているわけです。見る人が見れば、バラバラの像が統合され、ひとつの立体物として見える。だけど、複雑すぎて構造を理解できるモデルしか撮影できない。今のところ、ひとりの女の子しか撮れていないのですが、将来的に、もっと浅いところ……たとえばタレントさんを被写体にして、同じ方法で廉価版を撮影できる可能性もあります。ガンダムという試作機ができたんだから、あとはジムも陸戦型ガンダムもできるはずじゃないですか。たとえがガンダムなのが酷いですけど(笑)。
(取材・文/廣田恵介)
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