【TAAF2019】「シンポジウム3 『動きのコンペティション』講評とシンポジウム」レポート:セリフに頼らず、「動き」だけで「痛み」を表現できるか

2019年03月15日 20:300

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2019年3月8日~11日にかけての4日間、東京・池袋にて開催された「東京アニメアワードフェスティバル2019(TAAF2019)」。その最終日となる11日(月)に、プログラムの一環として、「シンポジウム3 『動きのコンペティション』講評とシンポジウム」が、豊島区庁舎にて開催された。

このプログラムは、演技を考える力とそれを観客に伝わる動き(=演技)にする力を競うコンペティション。応募作品の上映と講評だけではなく、なぜ演技を考え表現することが必要なのか、アニメーション業界の第一線で活躍するアニメーターを中心に参加者全員で話し合いが行われた。


ここでは、アニメーターで、日本アニメーター・演出協会 理事でもあり、「アキラ」「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」「人狼 JIN-ROH」「東京ゴッドファーザーズ」「電脳コイル」「おおかみこどもの雨と雪」「百日紅」など劇場作品の原画、作画監督として活躍している井上俊之さん、そして「精霊の守り人」「戦国BASARA」「東のエデン」等多くの作品に原画・作画監督・絵コンテとして参加、その後演出家に転向し、「黒子のバスケ」「東京喰種」「スタミュ-高校星歌劇-」などに関わり、2018年「ゆるキャン△」で初監督を務めた京極義昭さんが登壇。フェスティバルディレクター・竹内孝次さんの司会進行で、忌憚ない議論が交わされた。

■第三者的な視点を常に持って描く

まずは「動きで痛みを表現する」というテーマにもとづいて制作された応募作品の中から3作品が上映され、作品をベースに講評を……という流れだったのだが、上映が終わった後の井上さんは浮かない顔を見せており、開口一番「テーマが伝わっていない」といきなり苦言が飛び出した。TAAF側から提示されていたテーマは「キャラクター・セリフにとらわれず、キャラクターの動きそのものによって見ている人に痛い体験を伝える」というもので、これは昨年と同内容のテーマだった。しかし、今回上映された3作品はそのテーマがうまく伝わっていなかったというのが、登壇者3人の率直な意見だったようだ。昨年も登壇した井上さんは、その際にも同じ感覚を受けていたという。3作品ともにパフォーマンスそのもので動きを伝えることができておらず、難しいストーリーやカット割りで伝えることに終始しており、昨年も講評の際に指摘した点が改善されていなかったことで、講評には至らないとの結論に達したようだ。日本のアニメーションは、キャラクターのパフォーマンスで伝えるということが、海外のアニメーションより明らかに劣っているという井上さん。パントマイム的にキャラクターの動きを伝えたいと思っている人自体が少ないと感じており、世界の「アニメーション」と日本の「アニメ」との違いが表れてしまっており、自分たちが作り上げてきた「アニメ」に悪い影響が出てしまっていると、過去の作品を振り返って苦い顔を見せた。
そして京極さんも「日本の『アニメ』を見てつくったんだなというのがわかる」と作品への感想を述べ、「漫符」(汗や怒りマーク、「!」「?」などの漫画的記号表現)が多用されており、動きによって表現できることがアニメーションの強みであるのにそれを生かせていないと語る。「漫符」は自然に使ってしまうが、それはアニメーションの衰退に繋がるのではと、アニメーションに秘められた可能性がもったいないと心情を語った。井上さんからも、「動きや演出でうまく伝えられないときに記号的表現を使うのが日本的アニメーションの特徴」と、アニメーション制作の第一線に立つ2人からの厳しい言葉が続く。


そんな中、井上さんは、「TAAF2019」最終日に行われた本プログラムについて、こういうプログラムこそ初日に開催し、世界の作品に興味を持った人々がその後の日程でさまざまな魅力あふれる作品に触れることができる場であるべきと、今後の「TAAF」への展望を語った。

そこから話は徐々に海外アニメーションの話題へと移っていく。京極さんはアメリカの映像制作会社・ピクサーのタイトルアニメーションを見て、アニメーションは顔や表情だけで表現するものではないのだと衝撃を受けたという。井上さんはソニーのペットロボット「AIBO」をあげて、表情が決まっていなかった旧バージョンのほうが自身の感情を投影しやすくて魅力的だった。すべてを描くことだけがアニメに必要なのではなく、本プログラムの「動きで表現する」ということがいかに大事なことであるかを、さまざまな例をあげて語っていった。
さらに、フランスの地域漫画の「バンド・デシネ」や、「TAAF2017」にて取り上げられたこともあるフランスのアニメーション教育のもっとも優秀な学校のひとつと言われるパリの「ゴブラン校」についてなど、海外アニメーション事情に関する話題に花が咲く。

そんな話が続くうち、来場者から応募作品の講評が欲しいとの声があがったのだが、ここで改めて、今回の作品が講評に値するものとなっていないと厳しい指摘がなされた。講評に足る作品が増えるよう、いい刺激を受けてほしいという思いから、その手本となるような作品をあげてトークが展開されていた旨が語られると、登壇者のコメントに耳を傾ける会場の集中度が一段と熱を増し、その後のトークを聞く参加者の居住まいが正されたようだった。

プログラム終了後、フェスティバルディレクターの竹内さんに、本プログラムについて感想を尋ねてみたところ、「アニメーションやアニメーターというものへの関心は年々高くなってきていると感じる。ただ、『動きのコンペティション』というシンポジウムについては、今回のプログラムで本質を理解していただけたのでは?」とのこと。「井上さんが言ったように、日本ではまだ動きで演技を表現するということが足りていないので、本フェスティバルや教育も含めてもっとやっていくべき」と、本プログラムの感触を語ってくれた。

終始辛口の意見が飛び交った本プログラムではあったが、その分、アニメ業界の実像が浮き彫りとなり、これからアニメーションの現場に進もうと考えて参加した来場者には実りの多い体験となったのではないだろうか。

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