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「マリオ勝手に使っちゃった」動画事件に見る、中国の権利意識格差問題
1月末に中国の中央政法委の公式アカウントに、マリオのパクリ宣伝動画が掲載されてしまうという事件が起こりました。この件についてはやらかしたこと自体もアレですが、事件の周辺を見ていくと、現在の中国における知財法面の権利意識やコンテンツの認識についての問題、地方格差といったものも見えてくるので、そのあたりの事情について簡単に紹介させていただきます。
この事件については、簡単にまとめると
「中国の湖南の裁判所がアップしたマリオのパクリ宣伝動画を、中央政法委の公式アカウントがピックアップして全国に広めてしまい、ツッコミを受けてあわてて削除した」
といったところでしょうか。
ちなみに事件発生後の削除の迅速さと徹底ぶりもすごいものがあり、日本で報道されたタイミングから2日も経つと中国のネットではそんなニュースが存在したのかというレベルになっていたようです。私自身も中国語の反応を探してもロクに見つからず、真偽確認や話の広まりを調べるような段階でつまずいてしまうなど、現在の中国のネットにおける検閲削除の手際のよさを改めて実感できてしまいました。
それはさておき、この事件が起こった原因を考えていくと、まずは
「中国では知財保護意識に関する地方格差がまだまだ大きい」
ということにぶつかります。
この件の背景について教えてくれた方によると、中国には
「知財保護意識は田舎に行けば行くほどイイカゲンなものになってしまう。今回の件も恐らく上海や深センなどの地域であれば制作の段階でボツをくらったはず」
「湖南のほうでは、中央にピックアップされるまで関係者が問題自体に気付いていなかったのでは」
といった事情があるのではないかとのことでした。
そして、これに加えて、現在の中国における
「新しい作品以外の日本のコンテンツの情報の拡散やアップデート」
などの問題も考えられます。実は中国本土においては、任天堂のマリオは日本のキャラクターの中では比較的高い人気や知名度を持ってはいるものの、
「過去に大人気になっていたとしても、誰もが名前を知っているというわけではない」
といった事情があります。
中国におけるマリオの知名度に関しては、主に80年代末~90年代前半に大人気となった海賊版ファミコンなどでマリオに触れている人はそれなりに多いそうですし、レトロゲームのキャラとしてや、そこから転じてモダンアート的な文脈での認識などもあったりするようですが、名前とキャラが結びついて認識されているかとなると怪しいところもあるようです。
このあたりに関しては、中国本土におけるゲーム機の流行やハードの入れ替わりの時期が日本とは異なっていたことや、近年の中国本土における日本系コンテンツの展開において、任天堂のマリオが中心となっているケースはあまりなかったという事情も影響していると考えられます。
こういった分野に強い中国のオタクな方の話によると、
「比較的新しい、情報が活発に行き交うようなコンテンツであればともかく、近年中国向けに積極的に展開していない、宣伝していないようなコンテンツに関しては、マリオのような世界的に有名なIPであっても、日本のコンテンツとしての認識がきっちりと広まっているわけではなく、雑な認識や扱いになることも珍しくない」
とのことでした。
それでも大都市部であれば一定以上の権利意識や、情報に対するアンテナなどから問題はおおむね回避できるようですが、地方に行ってしまうと、このマリオの件のように、思わぬところで思わぬ方法でやらかすケースも出てしまう模様です。
こういった問題に加えて、中国では違法コンテンツの拡散以外にも、扱いの難しい政治ネタにぶつかるといったリスクも考えられますし、日本側でコントロールするのは難しいちょっと頭の痛い問題なのかもしれません。
中国のオタク界隈における1月シーズンに関する動向は比較的おとなしいものとなりましたが、人気の流れや時おり発生する事件を見ていくと、中国のコンテンツ事情に関して変化している部分と相変わらずな部分が浮かび上がってきたりするので、なかなかに興味深いです。
(文/百元籠羊)
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