【コラム】仙台公演を終えて改めて振り返る……Wake Up, Girls!の背中を押した手のひらの光――あの日の大阪から、仙台へ

2019年03月06日 09:000
【コラム】仙台公演を終えて改めて振り返る……Wake Up, Girls!の背中を押した手のひらの光――あの日の大阪から、仙台へ

声優ユニット、Wake Up, Girls!が12会場33公演を巡るライブツアー「Wake Up, Girls! FINAL TOUR -HOME-」が、2019年2月24日、仙台公演を持って終わりを迎えた。その物語を見届けるため、前日の取材を終えてから千秋楽が行なわれる仙台に向かった。

改めて訪ねるWUGが仙台に刻んだ風景

移動手段には、東北新幹線の「はやぶさ」を選んだ。遠い昔のソロインタビューで、自分自身のことよりはるかに熱心に、東北新幹線なら1時間半で仙台に行ける、ぜひ仙台に来てくださいと地元をアピールする、仙台出身のダンスが上手な声優さんがいたのを思い出したからだ。大宮から乗りこんだ自分は、1時間少々で仙台駅にたどり着いた。予算の都合で帰りは高速バスであることがうらめしくなるスピードだ。

 

 

仙台駅を出発した新幹線は、岩手・盛岡に向かう。メンバーがまだ地方から新幹線で通っていたころ、最初は新幹線の隣の席で永野さんと奥野さんがよそよそしかったという話を思い出す。今は朝の4時まで電話で話しこむ親友同士だから、笑いにできるエピソードだ。

 

JR仙台駅を西口に降りると、自然と「Wake Up, Girls!」を思い出す。広大なバスターミナルを腹に抱えたペデストリアンデッキを見ると、自然に「16歳のアガペー」の歌詞が思い浮かぶからだ。アガペーとは「神の愛」を意味するギリシア語だが、この曲のメインを取る林田藍里役に決まったのが「愛理」という名前を持つ、大学で哲学を学ぶ女の子だったのは運命的だ。どこまでが偶然で、どこから必然なのか。

 

駅前のS-PALやLOFT、無印良品の看板。アニメ「Wake Up, Girls!」放送前は存在も知らなかった光景だが、あの街頭スクリーンでI-1 clubが仙台シアターのオープンを告知したんだよな、といった記憶と結びついて、今ではなじみの光景だ。

 

 

「言の葉 青葉」などの楽曲では仙台の情景が瑞々しく、少し寂しく歌われている。その中でもアニメ「Wake Up, Girls!」でメインに描写されているのは、勾当台公園方面の一帯だ。勾当台公園の野外ステージは、作中のWUGが「学生メタルバンド祭」に飛び入り参加した“はじまりのステージ”であり、2017年にはリアルのWUGも凱旋野外ライブを行なっている。平日の勾当台公園は、2年前の喧騒が嘘のように静かで、広々とした公園だ。なお、仙台千秋楽公演の翌日には、ステージ前のベンチにいくつかのワグナーの背中があった。

 

 

「聖地巡礼」という言葉がある。「Wake Up, Girls!」は仙台という町を精緻に描いているからこそ、実際に訪れてみないとわからないことがある。林田藍里の生家と設定されている熊谷屋は、仙台和菓子の名店だ。店内に入ると、そこに飾られているのは藍里のスタンドポップ。ライブ翌日にも藍里が看板娘としてそこにいたことに、なぜか安心した。熊谷屋ではライブ千秋楽前後の3日間、藍里のイメージアニマルでもある「サメ」を象った和菓子を販売していたが、これは午前中にはソールドアウト。藍里といえばの、くるみゆべしも、すぐに店頭から消えた。

 

 

熊谷屋のある通りを少し歩くと、WUGの所属事務所「グリーンリーヴズ・エンタテインメント」のモデルとなった建物がある。実際は営業中の学習塾。実物を見るとその小ささと、熊谷屋との距離の近さに驚く。事務所の前を通り抜けて次の角まで進むと、WUGが通っていた喫茶店「喫茶ビジュゥ」がある。この店内で、来仙したI-1 clubのメンバーとWUGが邂逅したのである。本当に狭い地域の生活に根差した物語が「Wake Up, Girls!」の仙台時代なのだ。

 

 

熊谷屋、喫茶ビジュゥ、餃子の天ぱり、パンケーキのミツバチといったアニメ「Wake Up, Girls!」に登場した店舗は、ライブ前後はワグナーたちでにぎわい、ゆかりの商品はすぐに売り切れる。作品とユニットが過ごした6年という時間の重みを感じるのは、店舗の側も「Wake Up, Girls!」という作品に深い思い入れを感じてくれていることだ。仙台公演では、地元店舗や企業からWUGへのメッセージ映像が届けられた。千秋楽当日、喫茶ビジュウは午後で店じまいした。7人のツアー最後の公演を見届けるためだ。仙台の復興を応援するために始まった作品が、今なお地元とファンをつなぐ絆となっている。

 

 

 

あの日の、大阪の記憶

ツアーファイナル千秋楽の夜公演。「タチアガレ!」の落ちサビ、リーダー・青山吉能さんが力強い歌声を響かせるソロパートで会場に広がった光景は、忘れられないものになった。そして、最後ゆえの感傷だろうか。同時に脳裏に浮かんだのが、5年前の熱い熱い1日のことだった。

 

2014年8月10日、大阪・ESAKA MUSE。

ユニット・Wake Up, Girls!最初のライブツアー、最初の公演が行われた日だ。その特別なライブは、開催できるか直前まで危ぶまれていた。マリアナ諸島で発生した台風11号がライブ当日の午前6時に四国に上陸し、午前11時頃、今度は兵庫県のどてっばらに食いついたからだ。神戸市の東のはずれに滞在していた自分は、扉を開けた瞬間、30cm向こうが見えない雨の壁に愕然とした。公共交通機関の復活は絶望的。あの時半ば水没した湾岸2号線を飛ばしてくれるタクシーがいなかったら、千秋楽の会場に自分がいる未来はなかったかもしれない。

 

会場に辿り着くと、そこにはメンバーと多くのワグナーたちが無事たどり着いていた。大阪市内に入ると雨の気配は薄れており、頭から足元までずぶぬれの自分はむしろ浮いた感じだった。だが、こんな日に会場が満員になったのには、それぞれが万難を排して集結するための、それぞれの物語があったのだろう。

 

台風と豪雨のいたずらは、初めてのツアーライブに思わぬ影響をもたらした。ライブ開演前から汗ばむほどの、会場の熱気と湿度である。その中で、7人は本当に頑張った。流れる汗で、高木さんが溶けてなくなってしまうのではないかと思ったほどだ。今のWake Up, Girls! の7人なら、この環境で違う答を出したかもしれない。だがその頃の彼女たちは、ただ全力で頑張った。それ以外の答えを知らなかった。

 

初めてのツアーライブ、初めての昼夜公演。最高のパフォーマンスを見せ続けた7人だったが、過酷な環境の中飛ばしすぎたつけは、一番危険なタイミングで回ってきた。「タチアガレ!」。当時の彼女たちにとっては唯一無二といってもいい特別な楽曲の、落ちサビ。リーダーの青山さんが最高に輝くべき瞬間に……彼女は声を失った。

 

最初のライブが、取り返せない失敗とともに記憶されることになったかもしれないその瞬間。自分は写真撮影のために、ステージ下にいた。

 

落ちサビの途中で、青山さんの声が出ない……それを認識した次の瞬間。背後が、ライブハウスが、ひとつの生き物になった。数百人の観衆が、一斉に落ちサビの続きを歌いだしたのである。客席に意思疎通できるような間も、時間もなかった。その場所にいた1人ひとりが、大切な少女を助けたいと願い、叫んだ声が、ひとつの歌声になった。

 

ステージと客席の間にいた第三者として、圧倒的な力を背中に感じたその時に、自分もWake Up, Girlsというユニットの物語を見届けたいと、心から思った。後に青山さん自身が、WUG史上もっともエモかった瞬間として、この時のことを話してくれたのを覚えている。

 

あの日Wake Up, Girls!とともに旅立った数百人のワグナーの内、千秋楽のあの瞬間にたどり着いた人は、どれぐらいいただろうか。会場のほとんどがさいたまスーパーアリーナにも参加するつわものだったから、きっとそれなりの数がいたと、いや、いてほしいと思う。あの日彼らが青山さんを支えたように、数多くの手が彼女たちを支え続け、背中を押した先に、ツアー千秋楽の奇跡のような1日があったのだと思う。

 

アニメ「Wake Up, Girls! 七人のアイドル」の冒頭で、誰かを幸せにする3つのタイプについて語られている。多くの人を幸せにできる人、自分の周りの身近な人を幸せにできる人、そして自分を幸せにできる人。

 

アイドルに求められる資質とは、多くの人を幸せにできること、だろう。だが千秋楽のあの日、ステージと会場を満たしていたのは「自分の周りの身近な人を幸せにしたい」というもっとクローズドな感情だった気がする。それは言葉にすれば、家族、ファミリー、HOME。

 

「Wake Up, Girls!」が掲げた想いと願いに対するひとつの答えが、その空間に確かに、存在した。

(文/中里キリ)

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