「ゾンビランドサガ」は「本当の集団作業」
─「ゾンビランドサガ」のキャラクターデザイン抜擢は、どのような経緯で?
深川 コンペがありました。参加した時点ではアニメーターで声をかけられたのは自分だけで、ほかの方は皆さんイラストレーターだったと聞いています。
─デザインを専門にするイラストレーターの皆さんよりも、深川さんのデザインがすぐれていて、作品に適していた、ということですね。
深川 もったいない言葉です。
─「ゾンビランドサガ」では、作画以外の提案もされたそうですね。「ドライブイン鳥」有浦定幸社長のご出演も、深川さんのご発案だとか。
深川 「ゾンビランドサガ」に関しては異例でした。MAPPAの大塚さんは、お声がけいただいた当初から、「オリジナルなので、皆で一緒に作りたい!」とおっしゃっていました。私もそのほうが楽しいと思ったので、積極的に会議にも参加させていただきました。スケジュールが許す限り、アフレコやダビングにも参加しました。しかも、それを皆さんが「いいよ、いいよ」と受け入れてくださったんですよ。オリジナル作品だからこそできたことだと思いますし、「ゾンビランドサガ」に関してはチーム感があって、すばらしい経験をさせていただきました。
─OP主題歌「徒花ネクロマンシー」のさくらの前口上の内容も、深川さんが考えたのでしょうか?
深川 前口上の提案はしましたが、内容は言っていません。提案といえば、キャッチコピーも言いましたね。「生きることがテーマだと思います!」と。実際に「私たち、生きたい!」がコピーになっていて、採用されたのかどうかわからないですけど。
─「ゾンビランドサガ」は、「アニメ総選挙2018年間大賞」を勝ち取りましたが、授賞式でも「ゾンビアニメなのに『生きたい!』、それが本当のテーマです」 とおっしゃっておられました。制作者全員がテーマを共有し、気持ちもひとつにしていたことが、授賞式からもうかがえます。
深川 熱い現場でした(笑)。これが本当の集団作業のあり方かな、と思っています。メインスタッフやキャストの皆さん、現場の方々からも口を揃えて「楽しい!」と言っていただけた、奇跡の作品なんですよ。スタッフの情熱とか、好きや楽しい気持ちって、意外と視聴者の皆さんにも伝わるんだなとも思いました。「熱いね!」とか言ってくださることが多かったんですよ。すごくうれしい発見でした。
「クリエイト」を意識し、「完成ビジョン」を共有する
─アニメーター、キャラクターデザイナーに必要な資質能力とは?
深川 どちらも感性が必要な仕事で、「クリエイト」をどれだけ意識できるか、だと思っています。「クリエイト」というのは、日頃から何かを見て「どうして?」と考えることだと思っていて、その「どうして?」を詳しく調べて、「どうして?」の正体を知ることがすべて仕事につながるんです。そうやって突き詰めた結果が、説得力のある表現になると思うんです。そこまでしないと、人に届けられない。心にも届かない。
視野の狭いまま完結していると、自分が描きたい絵と、ビジネスで必要とされる絵がどんどん乖離していき、仕事で絵を描くのが息苦しくなってしまいます。息苦しいと思いながら描いた絵って、自分でもひどいなって思うし、誰が見ても「何が伝えたいのかわからない」と感じるものだと思います。だから、常にアンテナを立てて、興味を持って、いろいろなものを観察することが大事なんじゃないかなと思います。
─現在のアニメ業界について思うことがあれば、ひと言いただけますか?
深川 ネットで業界を憂いている関係者の方もいらっしゃいますが、まずは自分が行動することで初めて何かが変わるんじゃないかな、と私は思っています。たとえば、デジタル。デジタルに移行している方も増えてはいるんですが、時代の流れを考えると、あまりにも遅すぎです。
紙は描きやすいので紙にこだわる方の気持ちもわかりますが、せめてスキャンして、データにするくらいの譲歩は必要なんじゃないかなと正直思います。郵送したり、制作さんに車を走らせて取りに行かせたり、というのでは、スケジュールが遅れてしまいますし、現代的じゃないですよね。
それと、業界全体を見回すと、危機迫っているところもありますが、うまくいっている制作会社もあるんですよ。たとえば、京都アニメーションさん。何がほかのアニメ会社と違うかと言えば、徹底してスタッフ全員が完成ビジョンを共有していることだと思うんです。「ゾンビランドサガ」でも実感しましたが、完成ビジョンを共有することが第一で、お金はその次だと思います。
次のフィールドは「マンガ」
─今後挑戦したいことは?
深川 今一番やってみたいことは、マンガです。マンガを描きたいです。今までと同じことを繰り返すのは性格に合わないので、新しいことに挑戦し続けていきたいです。マンガであればすべての責任は自分にありますし、自分がおもしろいと思うことから始まるので、やってみたいんです。世の中に少しでもおもしろいコンテンツを増やしていければいいな、と思っています。
─最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いします!
深川 アニメや作画の仕事を本気でやりたいと思っている方がおられたら、ご連絡ください。相談に乗れるかなと思っています。時代の転換期を迎えた今、何かを作ろうとする意志と力さえあれば、どこでもやっていける、と私はポジティブに考えています。
繰り返しになりますが、結局は人対人の仕事です。人の気持ちを考えられないと、伝わるものも伝わらない。だから私も、人の気持ちを一生懸命考えられる創作者になりたい、と思っています。
●深川可純 プロフィール
アニメーター、イラストレーター、キャラクターデザイナー。CG系専門学校を卒業後、下請制作会社のアニメーターとなる。現在はフリーランス。人間味あふれるデザインを得意とする。作画監督作品には「THE UNLIMITED 兵部京介」(2013)、「DEVIL SURVIVOR2 the ANIMATION」(2013)、「ダンガンロンパ The Animation」(2013)、「ご注文はうさぎですか?」(2014)、「ペルソナ4 ザ・ゴールデン」(2014)などがあり、「アイドリッシュセブン」(2015~)ではゲームとアニメ両方のキャラクターデザイン(原案は種村有菜さん)を手がける。「ゾンビランドサガ」(2018)ではサブキャラクターを含めたほぼ全てのデザインを担当し、本作はネットユーザー投票イベント「アニメ総選挙2018年間大賞」でNo.1に輝いた。作品のテーマやキャラクターの人生を徹底的に掘り下げ、血の通った作画を貫く、熱き不死鳥クリエイターである。
※TVアニメ「ゾンビランドサガ」 公式サイト
https://zombielandsaga.com/
※TVアニメ「アイドリッシュセブン」 公式サイト
https://idolish7.com/aninana/
※「ネットユーザーが本気で選ぶ!アニメ総選挙2018年間大賞」(ドワンゴ公式HPより)
https://enquete.nicovideo.jp/result/170
※深川可純 ツイッター
https://twitter.com/4_7t
(取材・文:crepuscular)