おもしろい作品、現場にいて楽しいと思える作品
─作品参加の基準はありますか?
深川 以前は、オファーをいただけたらお受けしていました。でもここ最近では、自分がおもしろいと思える作品、現場にいて楽しいと思える作品でないと、という思いが強くなりました。「ゾンビランドサガ」に限ったことではないんですが、MAPPAさんはいつもリスクを恐れずに、挑戦している制作会社だと思います。逆に、挑戦もしないし、リスクも最小限に抑えたい、でもお金は欲しい、みたいな保守的な制作会社の作品はあまり気が乗りません。そういう作品は退屈になってしまうので、多分、参加しないと思います。
─単発で作画監督をしたご経験もあるみたいですね。
深川 単発の場合は、どんな作品か理解できないことが多くて、作品の説明さえされないことも多いです。作っている側が作品の魅力とか、伝えたいことがわかっていなかったら、受け取る側だってわからないじゃないですか。それって、作品が不幸にしかならないと思うんです。今の時代にもまだそういう現場がたくさんあるので、だからこそ自分がおもしろいと思う作品にしか参加できない、というのがあります。
─快適な職場作りのために心がけていることは?
深川 作品のグッズをいただいた時には、仕事部屋のケースに飾っています。自宅で作業しているんですが、仕事部屋に入ったら、仕事しかしないスイッチが入ります。今は完全にデジタルで、鉛筆は使っていません。
─息抜きでしていることは?
深川 めちゃめちゃゲーム人間なので、必ずゲームをする時間を作っています。特にアドベンチャーやノベルゲームが好きです。読書も好きで、小説はもちろん読みますし、ビジネス書や学問をわかりやすく噛み砕いた解説書を読むのも楽しいです。
時間があったら、友だちと旅行にも行きたいんですけど……。友だちにもたくさん支えられているので、自分を形成するのに必要不可欠な存在です。
(和歌山を旅行した時の深川さんとご友人)
「死と隣り合わせ」の下積み時代
─キャリアについてうかがいます。アニメ業界に入ったきっかけは?
深川 本当は、ゲーム会社のデザイナーになりたかったんです。専門学校も地方のCG系だったんですけど、すごく絵がヘタで、就活の時に全部落ちました。唯一拾ってくれたのが、アニメの下請け会社でした。
─専門学校ではアニメの勉強も?
深川 していません。「デジモン」のアニメはすごいと思っていたんですけど、アニメの作り方は知りませんでした。タップとかも知らなくて、とりあえず筆記用具は持ってきましたぐらいのレベルで……。ありえなかった新人だと思います。
─地方から上京されたわけですが、駆け出しのころの生活は大変でしたか?
深川 辛過ぎて死ぬかと思いましたね。1年目の年収は50万も行かなかったです。絵がヘタだったので、仕事外でも模写やクロッキーをずっとやっていました。元請会社に移ってからも、「お前、ヘタすぎだろ!」、「お前が絵を動かすのは、絵を描けるようになってからだ!」と怒られました。それぐらいヘタだったんですよ。
─やはりアニメーターの初期キャリアは過酷なのですね。ゲーム会社だと、もう少し安定した生活が送れたかもしれませんね。
深川 もしゲーム会社に受かっていたら私はここにいないので、結果的にはよかったと思っています。あと、死と隣り合わせの生活の中で絵を描いていたからだと思うんですけど、手の早さは割と認められるようになりました。
─「DEVIL SURVIVOR2 the ANIMATION」(2013)、「ダンガンロンパ The Animation」(2013)、「ペルソナ4 ザ・ゴールデン」(2014)など、岸誠二監督作品への参加が多いようですが、これは岸監督からオファーがあったのでしょうか?
深川 偶然だと思います。原作のゲームが好きなので、参加させていただきました。
─「人類は衰退しました」(2012)は田中ロミオさんの小説が原作になりますが、どういった理由で参加を?
深川 キャラクターデザインの坂井久太さんがすごく好きだったからですね。
─現在はMAPPA所属なのですか?
深川 所属はしていませんが、MAPPA社長で、プロデューサーである大塚学さんの創作への向き合い方は真摯で、応援もしていますし、一緒に仕事をしたいなとも思っています。
「アイドリッシュセブン」で九死に一生を得る
─キャリア上、転機になったお仕事は?
深川 「アイドリッシュセブン」(2015~)です。私は下請会社時代が辛すぎたこともあって、同じところに長く留まることができませんでした。参加していた企画がなくなったことも何度かあります。1年くらい無償で絵を描き続けて、最後の最後に「お前の絵は売れる気がしない」と言われ、降ろされたこともあります。
そんなことばかりで「私はダメだ……」と落ち込んでいた時に、席を借りていたスタジオで偶然いただいたのが、ソーシャルゲーム「アイドリッシュセブン」のMV「MONSTER GENERATiON」のお仕事でした。種村有菜先生の原案をもとにデザインを起こし、キービジュアルを描いて、着色や撮影処理まで自分でやって、発注元のバンダイナムコオンラインさんに提出しました。すると、統括プロデューサーの下岡聡吉さんとゲームプロデューサー根岸綾香さんから「これで行こう!」とGOサインをいただけたんです。
─長いご苦労がついに報われたのですね。
深川 私の絵を掛け値なしに「いい!」と言ってくださったうえに、世に作品が出たのは初めてでした。私の絵なんて数字も証拠もないのに、賭けてくださったんです。タイトルを背負うプロデューサーとして確信を貫く、というのはすごく難しいことだったと思います。だから、お2人には今でも感謝していて、いつでも恩返ししたいと思っています。ほかにも、世に出ずとも私を起用して作品を作ろうと奮起していた方たちにも、ずっとそう思っています。
「アイドリッシュセブン」
─ゲーム版では、キービジュアルのほかにどういったお仕事を?
深川 ゲームの立ち絵やスチル(編注:イベントシーンの1枚絵)を描く方のために、アニメっぽいデザインの設定画を起こしたり、CDジャケットのイラストを描かせていただいたりしました。
─ゲームでの功績が認められて、アニメ版(2018)もキャラクターデザインを担当されるわけですね。サブキャラのデザインもされたのでしょうか? アニメ版ではアイナナやTRIGGERの女性ファンもたくさん登場していました。
深川 3人ほどデザインしています。あとは「モブ集」みたいな形で設定にまとめていただきました。それを総作監さんが汲み取って、新しくデザインを起こしていただきました。
─深川さんは、エンディング「Heavenly Visitor」の作画監督もされています。TRIGGER3人の魅力がたっぷり伝わる、すばらしい作画でした。
深川 私はアニメの制作が始まった後も、原作のキービジュアルなどを描いていて、あまりアニメのほうに入れなかったんですが、少しでもTROYCAさんのお役に立ちたいと思い、エンディングの作監をさせていただきました。
─「アイドリッシュセブン」は女性向けと言われますが、男性が観てもおもしろい作品だと思います。
深川 原作のシナリオを書かれた都志見文太先生は、天才だと思います。すごく考えられてシナリオを設計されているので、原作もプレイしてみてくださいね。
─アニメは2期が決定していますが、1期を振り返ってお感じになることは?
深川 人間らしく表情豊かにできたのがよかったと思いますし、現場で作業してくださったアニメーターさんたちから「表情に幅があって描いていて楽しかった!」と言っていただけたのは、すごくうれしかったですね。私が昔すごく辛かったのもあって、参加していただいたスタッフの方々に「楽しかった」と言っていただけるのは、ほかのどんなほめ言葉よりもうれしいですね。
─ツイッターでは、アニメを制作したTROYCAの画作りも絶賛されていました。
深川 TROYCAさんの何がすばらしいかというと、やっぱり完成画面が美しいんです。動画の線だったり、色彩だったり、撮影処理だったり、すべてに表われているんです。そこを大事にして前に出すことができるのは、ちゃんとそこを押さえないと伝わらない、というのを制作側がわかっているからだと思います。