「やがて君になる」加藤誠監督ロングインタビュー 監督として飛躍できた大きな手応え

2019年02月01日 19:000

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絵コンテ作業から知る「やがて君になる」の映像設計


── 加藤監督は最初の3話まで絵コンテ担当の欄にお名前があります。第1話は指針を示す意味でシリーズ監督が描くことはよくありますが、1クール作品でここまで切るのは比較的多めという印象があるのですが。

加藤 ぶっちゃけた話をすると、自分で全部コンテを切りたかったくらいなんですよ(笑)。それくらい、イメージが100%ありました。最初は第1・3・6話をやりたかったんですけれどもそれは物理的に無理だったので第6話をあおき(えい)さんに拾ってもらった形ですね。第1話についてはおっしゃる通りで、第2話については、踏切のシーンだけが僕のコンテです。第3話については花田さんからも「これはスペシャルな人に描いてもらえないと厳しいかも」みたいな話があり、僕のほうで拾いました。

── 少し一般的な話になるかもしれませんが、コンテを切るのに難しいシナリオというのはどんなケースを指すのでしょうか?

加藤 絵コンテを描くうえでは、もちろんまずシナリオを読んで、フィールドを設定してキャラクターを配置し、最終的にこの絵を見せたいという目標に向かってそこから逆算してカットを積んでいくわけです。そのキャラの配置が難しい。僕自身はシナリオのまま絵コンテを起こしたら負けだと思っているんですよ。花田さんが書かれているシナリオが素晴らしいので、それを否定したいという意味ではもちろんなく、この先を行かなくてはいけないという意味です。たとえば、第3話だったら燈子が侑の肩に頭を乗っけたときに風が吹くのですが、シナリオだと「木々が揺れる」くらいしか書かれていないんですね。シナリオはそれでいいんです。そこを演出家がどう盛るかが絵コンテの醍醐味というかそこでセンスが問われるところであります。第3話に関しては、初めて燈子がお姉ちゃんの影でない自分を出すところだったので、ここは原作を深く読んでいないとできないのではないかなと思いました。体育館裏で話していたときに、途中でお姉ちゃんの影と過去の自分の影が映るカット。あのあたり、シナリオでは燈子の奥に小さい頃の自分がいるという描写はなくて僕が足しています。カメラが離れていく演出も燈子が自分の内にこもるようすを表現したいと思ったらあの絵でないといけない。第3話に関しては盛りだくさんで、Aパートのショッピングモールはロケハンする必要があります。そこでどの店にするか、どのテーブルのどのアングルか、夕日があるから逆光ができるなとか、伸びる影から何かの比喩表現ができるなとか、それらを頭の中でひとつにまとめていく作業があります。すると第3話は自分で担当したほうが早いなと(笑)。第2話の踏切のシーンも、そこだけ特別な色を使っています。あそこで「やがて君になる」という映像作品の方向性を見せるんです。花田さんのシナリオでも「時が止まる」とあったので、どうしたら2人だけの空間にできるか、それをいかにきれいに描けるかということで、あの表現にしました。あの場所も実際に何回も足を運んで周りを見てふくらませていきました。行ったからこそ生まれたカットもたくさんあるので、空気感を含めて写真参考に頼るのではなく、やっぱり現場に足を運ぶのは大事だなと思いましたね。


── 先ほどお名前があがりました第6話のあおきさんの絵コンテについてはいかがでしたか。あおきさんは「アルドノア・ゼロ」(2014年)や「Re:CREATORS」(2017年)などの作品で深い関わりをされた方ですが。

加藤 もう、僕がどう言おうとあおきさんの絵コンテになるのはわかっていたので、そこは任せようと思っていたんですけれども、まいりました(笑)。さすがあおきさん。「こうきたか!」の連続でした。ああいう刺激があるものを僕は待っていたんです。あおきさんのほうでアドリブを入れたりシナリオも前後をさせたり、そのうえで整合性をつけて絵コンテをまとめられていました。悔しい気持ちもありましたけど、あおきさんにお願いしてよかったと素直に思いましたね。あおきさんの回はコンテに唯一手を入れていません。

── コンテで時系列まで変えるというのはすごいですね。

加藤 1シーンを「ここはいらん!」と言ってオミットしたりしてしまうんで、尺が足りなくなってしまうんです(笑)。そこで川辺のシーンなどで間をとったり、エンディングをロングバージョンにしたりとカッティングしてみると思いの外、うまくいきました。

── 尺について、あわせてうかがいたいのですが、この作品に流れる間や時間感覚はどのようにして生み出されたのでしょうか?

加藤 なかなか言葉で説明しづらいのですが、直感ですね。「ここは18コマ飛ばす」、「ここは12コマ切る」といった気持ちよさは僕の中にしかないもので、それを信じるしかない。ある程度絵コンテの時点でテンポはコントロールするし、役者さんの声が入ると全然テンポは変わったりするので、そのライブ感を楽しんだ感じですね。カッティングって、それでタイミングが決まってしまうから一番緊張する作業なんですけれども、でもそれは今まで経験してきた積み重ねだと思っているので、あまり固くならず思ったことを信じて、編集の右山(章太)さんと一緒に切っていった感じです。右山さんは「アルドノア・ゼロ」で演出をしたときからずっとご一緒しているので、僕の癖を知っていたり、右山さんも「ここをこう切りたい」と積極的に意見をしてくれます。僕が「どうしようかな~」って悩んでいると伸ばしましょうかと言ってもらったりと、いいやり取りができたと思います。

── オープニングとエンディング(OP/ED)の絵コンテ・演出も加藤監督が担当されていますね。

加藤 それは今回、どうしてもやりたかったことでした。「アルドノア・ゼロ」や「Re:CREATORS」でもあおき監督と交互に担当させてもらっていたのですが、やっぱりひとつの作品でOP/EDを演出するのは僕の中でひとつの目標でした。OP/EDの映像作りってけっこう特殊技能でして、シリーズ監督をやりながらだと物理的な時間がなかったりするので、両方担当する人ってけっこう少ないんですよ。ただ、今回は曲を発注する前に僕の中でもうこういう映像で描きたいという像があって、それをもとにイメージボードを描いて、音楽の発注もさせていただきました。

── そうすると監督の一番最初のイメージがあの映像に。

加藤 そうですね。ブレてはいないですね。道を歩いていて、こういうOP/EDしたいなーっていうイメージがふわっとした感じで浮かんだんです。最初は今までやってきた僕の中の正攻法というか、動きを重ねてアクションとか勢いで見せるような感じにしようかと一瞬考えたのですが、もっと落ち着いた感じでメッセージ性を込め、なおかつ作画枚数を可能な限り減らして見せ切りたいなと思いました。サビでキャラクターが動かなくても、演出さえしっかりしてれば見せ切れるんじゃないかなって。そのぶん、1カットに込める想いやメッセージ性という意味で構成はかなり大変でしたが、聞くところによるときちんと視聴者に届いたようなので安心しています。

── この引き出しは以前から監督にあったものでしょうか?

加藤 この作品によって新しく開かれたものですね。アーティストさんのミュージックビデオ(MV)って、ひとつの箱の中で行われることが多いじゃないですか。そんなふうにフィールドをあまり変えず、その舞台装置で見せるみたいなことがアニメでもできたらお洒落なんじゃないかなと思って。でもただ教室だけだと面白くないから花を飾り、そこにメッセージ性を込めています。


── 作中でも紫陽花の色について語られていたり、花のモチーフはよく登場しますね。

加藤 とにかく花言葉を調べまくりました(笑)。めちゃくちゃ種類があるし、色によってもメッセージが変わるので調べて厳選していった感じです。意味的にピッタリなものが見つかったとしても絵として映えなかったりして、この花選びが作品制作で一番ツラい作業だったかもしれません(笑)。

── また、キャラクターの関係性や心情の暗喩も豊かに表現されていました。

加藤 このOPでは二面性を描いています。最初に照れ隠しで顔を隠すけれども、鏡の中にはちゃんと見たい相手、想っている相手が映っている。顔は隠してしまうんだけど、それでも相手を見たいという照れ隠しというメッセージを込めました。そして最後は2人の愛を強固にするために、朽ち果ててもお互いの思いはずっと繋がってるよと。人間っていうのは何だろうと思ったらやっぱり仮面だと思ったんです。人って他人に対して仮面<ペルソナ>をつけて接するじゃないですか。侑と燈子なんてまさにその通りで、侑は好きだという気持ちがあるのにそれを隠しているし、燈子はお姉ちゃんという仮面を被っている。今回、人間の形をした蔓などの植物をアイテムとして使っているのですが、これも「櫻子さん」を作ってから出てきたアイデアですね。あの作品で人の死についての考えが変わったというか、死がすべて無じゃないなと。ある意味でホラーになるのでどう受け止められるかは心配もありました。


── エンディングのほうはいかがでしょうか?

加藤 打ち合わせをしたときに編集部の楠さんからスマホカバーのグッズをいただいたんです。それがポップで、この色合いはエンディングで使えるんじゃないともらった瞬間に思いました。今までポップな映像はあまり作ったことがなかったので、その意味でもチャレンジしがいがあるなと思いました。あの映像にするためには色のセンスが絶対に必要で、色彩設計をやってくれた篠原真理子さんのセンスを完全に信じてお任せしました。

── エンディングは楽曲も相まって、本編がシリアスな空気で終わったときも安心しました。

加藤 あの構成についてはプロデューサーの山下(愼平)さんのアイデアです。数年前だとしっとりしたバラード調の感動系の曲でエンディングを締めるという形が多かったのですが、この作品でそれをやると気持ちが切れないんです。逆にこうした音楽にすることによって本編がどんだけシリアスになった展開だったとしても、気持ちを切り替えて次週を楽しみにしてもらえるんじゃないかなということで、今回はポップな音楽にしていきました。その分、OPを感動系で行こうかなと思って。やってみてまさにその通りでしたね。

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  • (C) 2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会

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