東映出身監督との思い出
─ハルフィルムメーカーといえば、佐藤順一監督ですよね。西山さんは「ふしぎ星の☆ふたご姫」(2005~06)、「ARIA」(2005~08)、「たまゆら」(2011、2013)などでご一緒されています。
西山 佐藤さんは自分の作品の着地点が見えている方なので、俯瞰(ふかん)で見ているというか、「何コマ切れ」とか、編集で細かいことは言いません。天才肌なんでしょうね。昔からの付き合いなんですけど、彼と作品でぶつかったりしたことはないですね。
─佐藤監督は東映動画のご出身ですね。
西山 佐藤さん、五十嵐さん、幾原邦彦さんは、東映・タバック時代からのお付き合いです。
─幾原監督の「輪るピングドラム」(2011)は、プリンセス・オブ・ザ・クリスタルが登場する、いわゆる生存戦略シーンで有名です。彼女は、橋本由香利さんが編曲したARBの「ROCK OVER JAPAN」に合わせて登場するわけですが、このシーンにはどのようなこだわりが?(編注:橋本さんのインタビュー https://akiba-souken.com/article/31452/)
西山 僕は「少女革命ウテナ」(1997)の時に「絶対運命黙示録」を音に合わせて作った経験があったので、幾原監督がやりたいのはこういうことなんだろう、と宝塚のようなイメージを持って編集していました。
─「宝塚」ですか。
西山 彼は「美少女戦士セーラームーン」(1992~97)の時からそうでしたね。幾原さんはほかに類がないというか、本当にすばらしい才能を持っています。
─五十嵐監督の「文豪ストレイドッグス」も、ドラマチックな作品です。劇中では主人公の敦が孤児院の職員から罵られるフラッシュバックが、何度も挿入されていました。
西山 そうですね。あと、この作品は対峙するシーンで、結構カットバックをしましたね。五十嵐さんにお互いパッ、パッと見合って、ドーンと打ち合うようにしたらおもしろくないですか?と提案しました。これは東映の時代劇「柳生武芸帳」を参考にしていまして、監督と2人でノリノリでやっていました(笑)。
フィルム時代の財産消滅!?
─キャリア上、転機になったお仕事は?
西山 「ジャイアントロボ」と「少女革命ウテナ」ですね。「ウテナ」はフィルムの最後の作品で、フィルムの撮影技術が最高に達したところでデジタルになっちゃったんですよ。僕も年齢的にすごくノっていたころでした。だから、あそこで僕らはひとつ財産を捨ててしまったと思っています。
専門家じゃないのでうまく言えませんが、桜の散り具合だとか、光の加減だとか。艶ですよね。1998年~2000年ごろのデジタルは色がベタっとしていて、カメラワークもぎこちなかったので、フィルムのほうがいいよなぁ、としばらく思っていました。多分、デジタルリマスター化しても、フィルムで撮ったものとは違うと思いますよ。
─そのほかに、印象に残っている作品はありますか?
西山 「インターステラ5555:THE 5TORY OF THE 5ECRET 5TAR 5YSTEM」(2003)です。ダフト・パンクのアルバム「ディスカバリー」のために作ったアニメですが、毎月1曲ずつ、1本ずつ作っていったんです。トーマ・バンガルテルさんが、監督の西尾大介さんと竹之内和久さんと一緒に最終チェックに来た時のことですが、僕が前後の動きを合わせるために2フレーム切ろうとしたら、トーマさんに「曲とのシンクロを考えると違う!」と言われて驚きました。トーマさんは耳と目がすごくよくて、やっぱり一流アーティストは違うな、と思いました。
─2017年12月1日、リアル・ティはメモリーテック・ホールディングスの子会社になりました。リアル・ティのやり方に変化はありますか?
西山 ティー・ワイ・オー(TYO)さんにも大変お世話になりました。今回メモリーテック直下の子会社になったので、前より動きやすくなりました。アニメのグループ関連会社の仲間達との出会いもあるので、さらに前進できればと思います。
─アニメの編集技師に必要な資質能力とは?
西山 好奇心ですかね。何にでも興味を持って、人生を楽しむことですね。リアル・ティは社員の人生が豊かになるように、映画や観劇に対して手当を出しているんですよ。興味を持って観ていれば、漫才のツッコミや落語のタメ、舞台劇の出入りのタイミングやセリフの間合い、というのは自然に身についてくると思います。特に落語はいいですね。
─編集技師になるには「Avid」(アビッド)など、ソフトウェアの知識も必要でしょうか?
西山 うちはそういう教え方をしていません。テクニカルなことよりも、映像に対してどうアプローチできるか、ワンカットワンカットをどうさばいていくか、を見ています。
─今後挑戦したいことは?
西山 まだ詳しく言えませんが、作品をもっとよくするために陸続きのポスプロを作りたいと思っています。
─ハリウッドでは「アラビアのロレンス」のデヴィッド・リーン監督、「サウンド・オブ・ミュージック」のロバート・ワイズ監督、「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」のロジャー・スポティスウッド監督、「チャンス」のハル・アシュビー監督など、編集技師から監督になった方がいます。監督業にご興味は?
西山 僕は全然考えていません。縁の下の力持ちのおっさんでいいんで(笑)。鉋(かんな)を2回こすればスパっと切れるなとか、大工さんのようなことをいつも考えている職人なんですよ。
─ファンの皆さんにメッセージをお願いいたします!
西山 僕らは縁の下の力持ちというか、地味な映画職人ですけども、作品をよくするために一生懸命がんばっているので、これからも温かく見守っていただけたら幸いです。
●西山茂 プロフィール
編集技師、リアル・ティ(REAL-T)代表取締役。大学英文科を卒業後、タバックの映写マンになる。その後、千蔵豊さんに師事し、「オーディーン 光子帆船スターライト」(1985)で編集助手、「北斗の拳2」(1987~88)で編集技師に昇格。作品に寄り添い、監督・演出家の意図を理解し、登場人物の感情を的確に表す編集を得意とする。1980年代後半から東映アニメーション作品などを手がけ、2006年に独立、リアル・ティを設立した。代表作は「3×3 EYES」(1991)、「ジャイアントロボ THE ANIMATION」(1992~98)、「SLAM DUNK」(1993~96)、「少女革命ウテナ」(1997)、「インターステラ5555:THE 5TORY OF THE 5ECRET 5TAR 5YSTEM」(2003)、「ふしぎ星の☆ふたご姫」(2005~06)、「ARIA」(2005~08)、「灼眼のシャナ」(2005~08、2011)、「時をかける少女」(2006)、「家庭教師ヒットマンREBORN!」(2006~10)、「のだめカンタービレ」(2007~08、2010)、「おおきく振りかぶって」(2007、2010)、「サマーウォーズ」(2009)、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(2011)、「輪るピングドラム」(2011)、「たまゆら」(2011、2013)、「ソードアート・オンライン」(2012、2014、2017)、「血界戦線」(2015)、「亜人ちゃんは語りたい」(2017)、「音楽少女」(2018)、「未来のミライ」(2018)など多数。現在も「とある魔術の禁書目録」(2008~)や「文豪ストレイドッグス」(2016~)などの人気作で重用されており、業界トップクラスの実力を誇る編集技師といえよう。
●株式会社リアル・ティ(REAL-T) プロフィール
西山さんが代表取締役を務める映像編集会社。2006年3月1日にティー・ワイ・オー(TYO)の孫会社、ハルフィルムメーカー(現:ゆめ太カンパニー)の子会社として設立、2017年12月1日にはメモリーテック・ホールディングスの子会社となる。社名の「REAL-T」は「真千蔵流」を意味し、「T」には技の「Technique」、作品の「Thing」、幹の「Trunk」、時代の「Time」、優しさの「Tenderness」といった思いも込められている。技術よりも「技芸」を尊ぶ、唯一無二の編集スタジオである。
※劇場アニメ「文豪ストレイドッグス DEAD APPLE」 公式サイト
http://bungo-stray-dogs.jp/
※劇場アニメ「未来のミライ」 公式サイト
http://mirai-no-mirai.jp/
※TVアニメ「音楽少女」 公式サイト
http://ongaku-shoujo.jp/
※TVアニメ「とある魔術の禁書目録III」 公式サイト
http://toaru-project.com/index_3/
※TVアニメ「ソードアート・オンライン アリシゼーション」 公式サイト
https://sao-alicization.net/
※株式会社リアル・ティ 公式HP
http://www.real-t.co.jp/
※西山茂 ツイッター
https://twitter.com/editor_geru
(取材・文:crepuscular)