「スマートCGアニメーション」が切り開く、TVアニメの新たな表現! 秋アニメ「イングレス」石井朋彦プロデューサー×櫻木優平監督インタビュー

2018年10月16日 16:080

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新たな表現を開拓するアニメーションスタジオ・クラフターが送る最新TVアニメ「イングレス」が、10月17日から放送をスタートする。

「海外にアニメカルチャーを広げたい」というコンセプトのもと、高品質で世界基準のアニメ作品を、日本だけでなく全世界に向けて発信していく新しいアニメ枠「+Ultra」(プラスウルトラ)。TVアニメ「イングレス」(正式名称:「INGRESS THE ANIMATION」)は、その第1弾となる。

監督は、「新世紀いんぱくつ。」(脚本・監督)、「花とアリス殺人事件」(CG ディレクター)などで注目を集めた気鋭のクリエイター・櫻木優平さん。キャラクター原案は、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズの総作画監督などを務めた本田雄さん。石井朋彦さんがプロデューサーを担当。制作は、デジタルテクノロジーを駆使したハイクオリティな作品を発表し続けるアニメーションスタジオ、クラフターが手がける。

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第1話は現実世界とほぼ同時刻に物語が始まるという、なかなか新しい試みを持つ本作。しかもクラフターが提唱する新たなフルCGアニメのスタイル「スマートCGアニメーション」で制作されているのだが、何の違和感もなく、従来のアニメ作品と変わらず物語に没頭することができる仕上がりとなっている。その技術的な面も含めて、石井朋彦プロデューサーと櫻木優平監督に話を聞いた。

 

 

ゲームをやっていない人が初めて見て楽しめる作品

――まずTVアニメ「イングレス」を制作することになった経緯を教えてください。

 

石井朋彦プロデューサー(以下、石井P) 原作者のジョン・ハンケさん(Niantic, Inc.のCEO)とは10年以上前からの知り合いで、Niantic, Inc.(以下、ナイアンティック)のみなさんとは交流があったんです。フジテレビさんがナイアンティックさんに出資をされて、本格的に「Ingress」(以下、イングレス)をアニメ化したいとなったときに相談をいただいていました。その流れの中で、正式にクラフターでアニメーション化できないかとご提案いただき、間を置かずに櫻木に「こういう企画があるからやらない?」と話をしたんです。そしたら櫻木が「想像していたものより、ずっといい企画だったので安心しました」という。何を想像していたんだろう?って感じでしたけど(笑)。

 

櫻木優平監督(以下、櫻木監督) ゲーム自体は元々知っていたんですけど、物語自体を考えられるような企画をいただいたので、いろいろ楽しめるのかなと思いました。バックストーリーがあるにせよ、そのまま作る話ではないと思ったので、その枠の中でいろいろできそうだなと思いました。

 

――本作はどういうストーリーになっているのでしょう?

 

櫻木監督 「イングレス」って、スマホを使って実際に外を歩くゲームなんですけど、そのゲームを通して主人公の翠川誠が、まずは日本中を廻り、世界を廻り、そこでいろんなことを見て廻って、学びを得るというのがベースにあります。あと「イングレス」には、「エンライテンド」と「レジスタンス」という陣営があるんですけど、その勝負というよりは、事件に対して双方がどういうアプローチをするのかという話になっています。

 

――ゲームの設定などは、どのくらいアニメに生かされているのですか?

 

石井P 世界観と設定ということですと、ほぼゲームと密接に関わっています。ただゲームにキャラクターやストーリーはありませんので、そこはオリジナルで作っています。ゲームをやっていない人が初めて見て楽しめるということに最大限注力しました。

 

 

――ゲームをアニメ化するにあたって、大変だろうなと予想したところはどんなところですか?

 

櫻木監督 実はもともとゲーム自体にもストーリーはあって、細かい設定もあるんです。その設定は本にしたらかなり分厚くなるほど膨大なものなんですけど、そことのつじつま合わせが大変になると思いました。

 

石井P 最初に「エンライテンド」と「レジスタンス」のどちらかが勝つという話にしてはダメだなと思ったんです。ゲームをやっている人はどちらかの陣営なわけです。どちらかが悪者という物語は作ってはいけないというのがあった。

 

実は日比谷公園に、実際にゲームをやってる人たちを見に行ったんです。本当に皆さん、真剣に世界の命運をかけて戦っていたので、これは大変なことになってしまったと(笑)。どちらかを主人公にしても大変なことになるのなら、どちらの陣営の人も楽しめるものにしようと思いました。そこで、この対立は今世界で起きていることの比喩だと定義したんです。国家間、宗教間、経済間、ネットの中での対立に置き換えられると。対立したままでは解決しない。共通の目的に向かって双方が手を組まなければならない。そうやって世界で起きていることを「エンライテンド」と「レジスタンス」の戦いに当てはめてみたら、物語はどうなっていくんだろうという過程からストーリーを作っていったということが、大変だったことに対する答えと言えますね。

 

櫻木監督 なので、ゲームの設定が難しいからといって、それを無視してまったく違うストーリーに走るのは絶対にやめようと思いました。皆さん本気でプレイをされていたので、ゲームをやっているユーザーが見て、これは「イングレス」のアニメだと思えて、なおかつやっていない人も楽しめるというものにしなければと思いました。

 

石井P 櫻木は初期に「スマホを持ったままのアニメにはできないですよね」と言ってきたんです。そこから「異能力バトルものにしたい」と。いわゆるものすごい異能力バトルものって多いじゃないですか。でも、もっと現実で起こりうる異能力バトルものにしたいと。そこに「イングレス」の世界で扱われる「XM(エキゾチックマター)」とかがからめば、ゲームの持っている魅力をケレン味を持って描けるんじゃないかなと。そこからシナリオライターと物語を作っていったという流れですね。

 

――キャラクターはどう生み出されていったのでしょうか? 日本の主人公っぽい翠川誠とハリウッド映画の主人公っぽいジャック・ノーマンがいますが。

 

櫻木監督 グローバルに発信することは決まっていたので、どこの国の人が見ても主人公として見えるようにしようと思ったんですけど、とはいえ日本のアニメではあるので、陣営のこともあるし、ダブル主人公でいこうと思いました。それで日本人とアメリカ人のおっさんになり、日本のアニメと海外ドラマのニュアンスが入れられるように作っていきました。ヒロインのサラ・コッポラもヨーロッパ人だったりして、国籍を散らばせて、いろんな国の方が見ても抵抗なく見られるようにしています。

 

石井P ダイバーシティ・グローバルの時代になってきているので、日本人が作れるハリウッド映画だと思って僕らは作っている感じですね。主人公がなぜ手袋をしているのか、なぜ銃を持っているのかも含めて、キャラクターに魅力を付けることは大事にしました。あとは、すごく当たり前なんですけど、僕らがわかっていなかったのが、日本のアニメって、ティーンエージャーが普通に世界を救うじゃないですか。それが本当に海外の人にはピンとこないようで、ティーンエージャーは学校に行っているだろうとなるんです。

 

でもよく考えるとそうなんです。ちゃんと主人公は職業があって、社会的な立場にあって、その立場の中から成長するという話が多いんです。主人公の年齢は20代後半から30代前半だったりして、ある程度人生経験を経たキャラクターが戦っていくという話になっているんです。そこも勉強になったよね?

 

櫻木監督 はい。いろんなカルチャーショックはありました。いやらしいシーンなどはすごく指摘されましたね。たとえばサラにネグリジェっぽいものを着せた絵を出したら、それはダメだと。

 

石井P セクシーならばいいんだけど、幼く見える女の子の日本のアニメ特有の表現は、海外では非常にセンシティブな感じがしますね。社会的な常識の範囲で面白い表現をしてくれというのが多かったです。

 

櫻木監督 世界のトレンドと日本のトレンドは全然違うんだなと思いました。

 

石井P だからもう、サラは後半大活躍しますよ(笑)。

 

 

――では、最初に考えていた年齢から上げて20代後半になったりしたのですか?

 

櫻木監督 そこはもともと意識はして作っていましたけど、ただ逆に日本人が見ると若く見えるらしくて、誠とかの年齢を言うと、日本人のほうがびっくりするんですよね。

 

――誠は18歳くらいにも見えなくもないですからね。

 

石井P それはアニメキャラのいいところでもあるんですけどね。どの年代から見てもルパン三世は年上だと言ってる人がいて、たぶんそんな感じが一番いいんでしょうね。トム・クルーズだって、30代くらいの気持ちで演じてるんでしょうし。そういうものなんでしょうね。

 

――映像面では海外を意識したことは?

 

櫻木監督 色味は結構海外に寄せた部分ではあります。普段見ている日本のアニメよりコントラストが高くて、暗いところもしっかり落ちているんです。日本のアニメはパッと見の印象が明るくなくてはならないようなところがあるんですけど、そこをあえて落とす方向にして、海外の人が見て、子供向けに見えないような締め方にしていますね。

 

石井P 背景を3DCGで作ると、ちゃんと暗部が落ちやすいというのはありましたね。

 

櫻木監督 それと、色彩設計の部分でも、テンプレート的にいくつかパターンを作ってはめていくのではなく、各シーンに合わせてひとつひとつ、撮影監督に色を作ってもらいました。CGなので、素材をばらして出して、撮影監督が全体の雰囲気を見ながらキャラクターを含めて色を決めていく。とても難易度の高いことを要求していたのですが、それは見事にやっていただけました。

 

石井P 劇場でもやるようなことだからね。

 

櫻木監督 なので、普通のアニメよりもかなり細かく、シーンごとの色をしっかり作っていっていますね。

 

 

1話より11話のほうが数倍クオリティが高く見える

――アクションシーンも序盤からかなり気合いが入っているように見えました。

 

石井P 僕は20年くらい作画のアニメもやってきているので、こういうアクションって、今は両手で数えられるくらいしか描ける人がいないんですよね。だから作画アニメって、この人の手が空くまで、このアクションはできないみたいな、そのくらい特殊な世界なんです。カメラをぐるぐる回り込ませながら蹴り合いをしているみたいなのは、「エヴァ」でやってる方も、ジブリでやってる方も、実は同じ方だったりするんですね。

でも今回のチーム櫻木は、アクション大好きな若い世代が揃っているので、これは作画でやったら1カット3か月かかるよねっていうのを上げてきちゃうわけです。すると必然的にクオリティも上がるし、逃げずに3DCGでアクションをやろうよってことになる。後半なんて、銃で撃てばいいのにアクションをしてるみたいなところもあるんです(笑)。そこはうまく編集でごまかしましたけど。

 

――ジャッキー・チェンみたいですね(笑)。

 

石井P そうそう。香港映画全盛期みたいな、アクションやりたい若い奴らがいっぱい集まって来ている気がします。

 

――それが本作で実践している「スマートCGアニメーション」であればできるということなんですね。

 

石井P できると思います。やっぱり一流の作画の人って、絵もうまくなければならない、空間感覚もなければならない、どこから見ても立体に見えなければならない、それでいて動きもすごくなければならないという、4つも5つも特殊技能が必要になるんですよ。でも3Dの場合は動かすことがうまければ、モデルもカメラワークもあとから付けることができるから、より才能が広がる場が増えたと言えるかもしれないですね。

 

 

――現在、4話までを拝見しているのですが、CGのアニメも来るところまで来たなという感覚があります。それほど自然な描写の作品になっていると思います。それに対する手応えはどうでしたか?

 

櫻木監督 手法としてはだいぶ固まってきていると思います。どう表現をするかみたいなところで悩むことがだいぶなくなってきているんです。つまり時間をかければ何でも作れるというところになってきているので、あとはスケジュールや、いかにこれを効率化していくかという方向になってきていますね。

 

――それはソフトの面での進化もあるのですか?

 

櫻木監督 それもありますけど、現場のスタッフの熟練度が上がってきていますので、みんな悩まずにそこに辿り着くようにはなってきているんですよね。

 

――アクションはまだわかるのですが、表情とか、機微の部分もだいぶ進歩してきている感覚ですか?

 

櫻木監督 そうですね。技術的にはできるようにはなっていても現場のアニメーターがそれを扱いきれなかったという時期もあったんです。それも一発で作れるようになってきたので、そこは本当に熟練度によるものだと思っています。

 

――スマートCGアニメーションのように、少し2Dっぽく見せたほうが、やはり日本のアニメーションっぽさが出るのですか?

 

櫻木監督 ピクサーとか、ああいう絵に寄った瞬間に、本当にあそこと勝負しなくてはならなくなるので、そうなると日本のスタッフ数で勝負した場合、正直なかなか勝つのは難しいと思うんです。でも、スマートCGアニメーションは日本のアニメの文化であるというのを、ひとつの武器として押し出す見せ方になっていると思います。

 

――それはすごく納得です。先ほど、一流のアニメーターには特殊技能がいくつも必要と言われていましたが、その素晴らしさもやはりあるんですよね。今後それを超えるためにはどういうところが必要になると思いますか? いわゆるスマートCGアニメーションの向かう先を知りたいのですが。

 

櫻木監督 今までの「セルルック3D」と言われてきたものって、作画が作ってきたものを3Dでなぞる、真似るというものだったんですけど、そこからちょっと抜け出して、日本独自のアニメーション表現として、セルルックともまた違う、その先にある新しい表現としてスマートCGアニメーションという言葉を使っているんです。なので、まずはそれを確立させていく必要があるなと思っています。よくスマートCGアニメーションとは何かと聞かれるのですが、それはこれから作っていくものなのかなと思います。

 

――それがこの作品に出ているんでしょうね。たとえば、CGで作るよさが出たシーンというのはどのあたりになりますか?

 

櫻木監督 演出で言いますと、ディテールの多さ。シワや傷とかは描くと難しいところなんですが、そこはディテールを増やしたりはしています。あとはカメラワークですね。レイアウトもだいぶ切り直しているんです。たとえば2話の駐車場での戦闘も、一度作ったら駐車場が狭く見えてしまって。そういったときにカメラを動かして、駐車場を倍くらいの広さにして再レンダリングし直しみたいなことができたんです。たぶんそれは作画だと無理なことなので、そういうこともできるようになりましたね。

 

石井P セルルックとかトゥーンシェーダーと言っている時点で作画に似せようという意識で止まってしまっていると思うんです。つまりケータイでいうとガラケーなわけです。我々が「スマートCG」という言葉に込めているのは、CGから始まって、すべての表現にシームレスに、我々が作ろうとしているものが実現するということなんです。おそらく今回の作品を見た方は、CGっぽいねと思わずにドラマに入っていけると思います。これまでのものとは明らかに違うものを作っていて、3DCGで誰もが違和感のないキャラクターを作ることによって多方面展開できる。それも含めて、ガラケーからスマートフォンに進化したようなことをやりたい、ということで「スマートCG」と言っているんですよね。

 

 

――作品を1クール作ってみて、かなりの手応えを感じていますか?

 

櫻木監督 もちろん作っていく段階で、ああすればよかったかなというのはあるのですが、とりあえず作り切ったので、それをブラッシュアップしたり、新しい要素を入れていく、作れば作るほどよくなっていくので、あとはよくしていくだけという段階になってきたなと思います。

 

石井P 最終話が完成したのですが、これ劇場版になったらこの先どうするの? っていうくらいシリーズの中でも練度が上がっていたので、この先どこまで行くのか想像もできないですね。「どこまでやるんだろう、この若者たちは!」っていうのが僕の印象です。1話より11話のほうが、数倍クオリティが高く見えると思います。

 

――では最後に、作品を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

 

櫻木監督 今回は映画のような作り方をしていて、徐々に徐々に盛り上がっていきますので、最後まで見ていただければ楽しめると思います。

 

石井P フジテレビの10月17日の24時55分前後は、第1話とほぼ同じ時間なんです。そこから18日未明にかけて起こることが1話なんですね。だから1話だけドラマ「24 -TWENTY FOUR -」なんですよ。なのでぜひリアルタイムで1話を見ていただけると、画面の隅々に刻々と時間が変わっていく様子がわかるので、1話は現実と同時進行するのをお楽しみに。本当は全話でやりたかったんだけど、さすがに無理でしたね(笑)。「24 -TWENTY FOUR -」はすごいですよ!

 

櫻木監督 どこかで1週間寝てるとかしないと無理でしたね(笑)。

 

石井P とはいえ、スマホに充電をしてたり、迷惑をかけたときはお礼をするとか、ジャック・バウアーがやらないところをちゃんとやっているので、そこはぜひ注目していただきたい。大ピンチでも4時間寝たりしてるんで、そういうリアルも楽しんでいただけると思います。

 

(取材・文・写真/塚越淳一)

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放送日: 2018年10月17日~2018年12月26日   制作会社: クラフター
キャスト: 中島ヨシキ、上田麗奈、喜山茂雄、新垣樽助、鳥海浩輔、利根健太朗、佐々木啓夫、緒方恵美
(C) 『イングレス』製作委員会

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