765プロの同僚たちへ。
個人的な実感だが、「THE IDOLM@STER MR ST@GE!! MUSIC♪GLOOVE☆2nd SEASON」は、実験、トライの意味合いがより強かった初演とはかなり違ったものになっていたと感じた。1本のライブとして、楽曲と、主演アイドルの感情の流れをよりしっかりと描き出そうとする明確な意図を感じたのである。「THE IDOLM@STER MR ST@GE!! MUSIC♪GLOOVE☆2nd SEASON」は技術的には初演の続きだが、ライブの位置付けとしての正直な実感は、2013年の生バンドを主体とした現実世界のライブツアー「THE IDOLM@STER 8th ANNIVERSARY HOP!STEP!!FESTIV@L!!」、そして2014年の最大規模ツアー「THE IDOLM@STER 9th ANNIVERSARY WE ARE M@STERPIECE!!」に、直接つながるライブを今のノウハウで作り上げたような、しっかりしたセットリストのライブだと感じた。
きっと、伝わっていないと思うので、少し昔話をさせてほしい。
今回歌われた曲の中に、秋月律子と高槻やよいの「愛 LIKE ハンバーガー」があった。楽曲としては「THE IDOLM@STER 8th ANNIVERSARY HOP!STEP!!FESTIV@L!!」ツアーで若林直美さんと仁後真耶子さんが披露したのがとても印象的だ。筆者にとっては、8thのこの曲こそが765プロがライブで磨き上げてきたパフォーマンスのひとつの到達点なんじゃなかろうか、という個人的な思い入れがある。それは、2006年1月、まだ手作りだった765プロ最初の単独イベントで、誰よりも準備に奔走しているように見えたのが若林さんであり、誰よりもコツコツとダンスを練習して、これからも頑張り続けたいという意志を見せていたように当時思えたのが仁後さんだったからだ。そんな2人があまたのステージを乗り越えてその日から7年後の2013年、この楽曲で、これ以上はないんじゃないか、という最高のステージを見せてくれた。そして、そのツアーの中でさらにそのステージを磨き上げていった。
ただ、これは思い出にしまっていた楽曲で、この組み合わせでまた見たい、ということさえ個人的には避けていた。その楽曲をステージで、等身大の律子とやよいが専用衣装で歌っている。そのパフォーマンスは素晴らしく、歌声はもちろん2人のもので、頭の中はもうぐるぐるだ。プロデューサー諸君はいろいろとツッコミどころがあると思うが、「その場では、本当に、よくわからないがありがとう以外の言葉が見つからない」という感覚が少しでも伝わってくれたらと思う。
もう1曲、如月千早と星井美希の「relations」について。この組み合わせでこの楽曲、いろいろと想像が広がると思う。そのひとつひとつを並べていくのは無粋だと思うので、筆者があげる担当かな、と勝手に思っているポイントをひとつだけ。それは、10年以上前に連載されていた、上田夢人さんによるコミック「アイドルマスターrelations」だ。プロデューサーと出会った星井美希と、プロデューサーと袂を分かったがゆえに孤高の歌姫となった如月千早の、哀しくも美しい物語。キャストである長谷川明子さんと今井麻美さんが一緒に歌っている時にそれを意識したことは今までほとんどなかったのだが、等身大の千早と美希が「relations」を歌っているビジュアルを目にした瞬間、あの物語が脳裏によみがえってきた。たぶん、あの会場で何人かの人が、同じ感覚を覚えたのではないかと思う。同じ映像を見て、その中の幾人幾十人だけが突然電流に撃たれるライブって、ほかにあるだろうか。実際、 「MR ST@GE!!」では、近くにいる人が突然号泣しはじめることがある。彼の、彼女の中にだけ存在するトリガーがある。現実のライブであれば、その感動はなるべく多くの人に共有されるべきものだろう。でも「MR ST@GE!!」は、その極めてプライベートな感動につながる欠片をそっと忍ばせることができる場所なのでは、と思う。今回、たまたま筆者に刺さって爆ぜた思い出ボムは、「愛 LIKE ハンバーガー」「relations」の2曲だった、ということだ。
今回の取材で感じた「本物以上の本物らしさ」がどこから来るのか。それはライブ後に表示されるスタッフリストに、リアルのアイマスライブの作り手たちがたくさん登場することと不可分だろう。このイベントライブという名の作品は、あるいは現実のライブ以上の手間ひまと知恵を込めて、今、最高の765プロの1時間のライブを作ろうとした結果だと感じる。今回のセットリストの「流れと文法」は最新のアイマスライブに沿った完璧なものだが、散りばめられたアイデアや、アイドルの組み合わせには、どこか新鮮な味わいもある。今までアイマスに関わってきたたくさんの人の経験や想いが込められた、向こう側にいる人の顔が見えるセットリストに見えるのだ。ひとつだけ付け加えるなら、初日の第一部と第二部のセットリストにもいろいろと工夫に満ちた違いがあったので、複数回の体験でも飽きることは決してないと思う。
さて今回、実は、雪歩のソロ曲について書いてもいいよ、と公式より言っていただいた。が、よりたくさんの人に届くであろう雪歩の物語について、ここで「説明」するのは避けたい。雪歩の言葉には、ちゃんと想いが込められた物語があった、とだけ伝えたい。前半写真に関して偉そうなことを語った分、自分でいいな、と思える写真が1枚撮れた。どのシーンの写真か、伝わるだろうか。今週末の公演に、雪歩Pが行ってみたいなと思ってくれたら嬉しい。雪歩に、全てのアイドルに、ぎっしりとプロデューサーで詰まったシアターを見せてあげたいからだ。
アイドルマスターという世界を現実と混交し、拡張するMRという劇場は、たくさんの人とキャストとアイドルの熱意でできている。
しかしそこにはめる最後のピースは……、あなたが765プロのアイドルたちと過ごしてきた時間と、思い出そのものだと、そう思う。
(取材・文/中里キリ)