アニメ版の好きなところは、「高校生の性欲に踏み込んでいるところ」――大好評上映中のアニメ映画「君の膵臓をたべたい」原作者・住野よる×牛嶋新一郎監督インタビュー!

2018年09月03日 19:290

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映画を見終わったあと、じんわりと桜良の言葉を反芻してみよう。自分の心に刺さる言葉がいくつか思い浮かぶはずだ。それをしっかり持ち帰ってほしい。アニメ映画「君の膵臓をたべたい」は、そう願いたくなる映画だった。何より原作を忠実に映像化しているところが、個人的には素晴らしかったと思う。

そんな素晴らしい作品について、今回は原作者・住野よる先生と牛嶋新一郎監督のお2人に、たっぷりと語ってもらった。ネタバレにならないように多少ぼかして書いているが、見終わったあとに読んでいただければ、その意味がわかるはずだ。

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シーンの取捨選択に悩んだアニメ版

ーー映画を観た感想はいかがですか?

 

住野よる(以下、住野) 特に前半はかなりいいなと思いました。監督さんを前にして言うのもあれなんですけど、ちゃんと「君の膵臓をたべたい」だなと思ったんです。最初に原作と違っていてもいいから、原作を読み終わったときの感覚と映画を観終わったあとの感覚が同じだったらいいですねと監督さんたちにはお願いしていたんですけど、(主題歌・劇中歌・オープニングテーマを担当した)sumikaさんの力もあって、きちんとそうなっている映画だと思いました。

 

ーー原作で泣きそうになったところと映画を見てそういう感情になったところがわりと近かったんですよね。もちろん入っていないシーンもあるんですけど、それがよかったと思いました。原作は、アクションとか大きな事件が起こるわけではありませんが、アニメにするにあたっての難しさみたいなことは感じましたか?

 

牛嶋新一郎監督(以下、牛嶋) 原作自体がすごく素晴らしい作品で、涙しながら読ませていただいたのですが、何て言うんですかね。みんなが通ってきた道の延長線にあるイメージが、僕にとってはすごくつかみやすかったです。映像が想像しやすい作品でした。ただ、僕自身が思っている想像と、読者や観客の皆さんが持つ想像というのは、必ずズレると思ったんです。なので、どこまでズレていいのか、どこまで沿う必要があるのかというところはかなり迷いました。あとはやっぱり、桜良と「僕」の2人が共有する時間というのがたっぷり取られている作品だったので、それをいかにコンパクトに90~100分の中に収めるのかというところは、かなり住野先生ともやり取りさせていただきました。ここは残す、ここは残さないというのが、かなり難しいなと思いながら読んでいましたね。

 

ーー尺的には足りない感じでした?

 

牛嶋 もう全然足りなかったです(笑)。たぶん3本立てくらいにしないと、本当は収まらない作品だと思うんですけど、3本立てにしたところで毎回面白く作れるかと言われると難しい。多分この作品はひとつの流れで見ないと、最後に泣くことはできないと思うんです。

 

牛嶋監督(奥)と住野先生(手前)。

 

ーー住野先生は脚本会議にも参加されたそうですが、アニメにがっつり関わるのは初めてだそうですね。メディアの違いによる気づきや発見はありました?

 

住野 主人公の心情を全部言わせるわけにはいかないので、それを表情とか音楽、景色の描写でするところはアニメだからこそだと思いました。それと最初に高杉さんにお会いさせていただいたときに「本当にどうしようもない男の子だけど、よろしくお願いします」って言ったんですけど、どうしようもない男の子感を小説からアニメにどう持っていくのかみたいなことを、監督さんたちと初めて考えさせていただいたので、それはすごく新鮮でした。

 

ーーどういう話をしてたんですか?

 

住野 最初にスタッフさんたちが作ってこられた脚本を拝見して、僕が言うことは、この子たちならこういうことを言うのか、するのかということだけなんです。それをすごく話し合わせていただいたので、ありがたかったです。この小説を書いたのは7年前で、3年前に発売されて、このアニメが最後のメディアミックスだと思うので、この子たちが現実にいてこの映画を見たとき、自分のことが書かれているとちゃんと思ってもらえるようにしたいなって思っていたんです。

 

ーー監督は、どういうことを確認したんですか?

 

牛嶋 先生もおっしゃっている通りで、キャラクターたちは先生の中でかなり綿密に作られているんです。でも尺の問題でどこかを短くした場合に、ここで一度感情を動かしておかないと次に繋がらなくなるという時が出てきてしまう。その時に多分この流れだとこういう動きはしないから、というお話は先生からいただいたりして、そこから詰めていった感じですね。ただ、ストーリー上ここはどうしてもというところでは、申し訳ないのですが通させていただいたところもあったんですけど、基本的にはそういう脚本会議をして、詰めていった感じでした。

でも、この2人は現実世界のどこかにいる誰か、自分の街にいる誰かという感覚を読者に持たせたかったという話は最初にいただいていたので、存在する誰かというか、視聴者が観て、あまりアニメアニメしすぎない、ファンタジーの方向に振りすぎないということを考えながら進めていました。

 

ーーそこはキャストの力にも助けられていたところもありましたね。取捨選択は避けては通れないと思うんですけど、ここは大変だったというのはありました?

 

監督 正直に言うと、めちゃくちゃ詰め込んでいるんですよ。ぼーっとしてると、結構話が流れていっちゃうくらいは詰め込んでいます。でもそれはしょうがなくて、桜良自身が持っている世界観をしっかり落としていかないと、最後に気持ちが繋がっていかないので、どうしてもたくさんのシーンを入れていく形にはなってしまいました。ただ、あまり入れすぎると本当についていけなくなるので、そこはできる限りシーンごとにグッと惹きつけられるところを入れてあげて、視聴者がキチンと物語についてこられるような構成にすることは意識しながら作っていましたね。

 



アニメ版の好きなところは「2人に性欲がある感じ」!?

ーー物語の前半部分からなのですが、小説を読んでいてもすごく共感をしたというか、引っかかったところで、死ぬまでにやりたいことがあるのに今やっていない、明日死ぬかもわからないのにーーみたいなことを桜良が言うんですが、この言葉が、この作品の大きな軸になっている気がしたんです。それがあったからあのラストになったとも思うのですが、あの言葉はどうやって生まれたのですか? 元からそういうことを考えていたのですか? 

 

住野 作中で誰かを殺してしまうのなら、死ぬってどういうことなのかをちゃんと考えないといけないなって、たぶん当時思ったんです。ただ、これは僕の考えというよりは、桜良だったらどう考えているのかなっていう考えなんですよ。あと1年で死ぬとわかっている女の子ならどう言うんだろうって。

あとは桜良が何で普通に日常生活を送っているのかということに対しての作中の言い訳でもあるんです。僕も「僕」みたいに、何かすることがあるだろうって思うので(笑)。ただ、それをしてしまったら、この「膵臓」にはならないので、それを桜良の考えでこうしているんだとするための言い訳的に、あの台詞を入れてるというのはあります。

 

ーー桜良にとっては、きっと信じられないくらい悩んだ末に辿り着いた結論なわけだから、重い言葉だなと思いましたが、確かにその後の桜良の行動の理由でもありますね。

 

住野 おっしゃられた通り、あのセリフがあるから、後半ああいう話になったんだと思います。途中まであのラストではなかったので。書いている途中に桜良と「僕」のことを考えて、2人が話してたことってそういうことじゃないよなと思って、あのラストになりました。

 

ーーアニメでも印象的に感じたのですが、表現するにあたってはどうでしたか?

 

牛嶋 あの言葉は絶対に抜けないなとは思いました。ただ、それに対して「僕」にどうリアクションを取らせるかは結構悩んで。今の距離感だと、無表情で終わるだろうと思ったんですよね。彼の中で何かしら引っかかりがあるにしても、ハッとさせる表情を入れてしまうと違う人物になってしまうので、あえて無表情にしたんです。そのかわり尺は少し多めにはとっています。でも、そこを重たくするつもりはなかったんです。それこそ彼女の哲学って作中にいくつも散りばめられているので。小説を読み終わったあとに、彼女の哲学のそれを拾ったんだっていう感想をよく見たんです。

読者の方にこの作品って何を伝えたかったんだと思う?と聞くと、結構それぞれ違う答えが返ってくると思うんです。だからあそこだけフィーチャーすると、この作品はこうです!ということになってしまうかもしれないし、それをしてしまうとそれこそ読み終わったあとの気持ちが揃わないと思ったので、あまり重きを置かないようにはしました。ただ、「僕」があそこで桜良を、この子ちょっと変だなと引っかかったような感じにはしたかったです。

 

ーー確かに、そのあとも彼女の哲学みたいなものはいくつか出てきますよね。それとキャスティングも絶妙だと思っていて、「僕」は普段は俳優をしている高杉真宙さんに演じてもらい、その周りを声優陣で固めた感じでしたが、その効果はどういうものでしたか?

 

牛嶋 最初に桜良を決めるか、「僕」を決めるかというのが議題に上がりました。で、桜良は難しいキャラクターなので、桜良を決めたうえで、「僕」を決めたほうがバランスを取りやすいんじゃないかということになったんです。しゃべる回数も圧倒的に桜良が多いので。

 

ーーどんなところが難しいのでしょうか?

 

牛嶋 桜良って好かれるキャラでないといけないんですけど、実際にリアルな世界にいたら、ちょっとうざいくらいのキャラクターなんですよ(笑)。だからそういう性格でも愛情を持って見られるようなしゃべり方である必要があって、その難しいニュアンスを表現できるのは多分声優さんのほうが向いているだろうと思って、オーディションをしたんです。

 

ーーそしてLynnさんが選ばれたんですね。

 

牛嶋 Lynnさんが一番トゲのないしゃべり方をされていたんです。聞いていて桜良のグイグイな感じが不快に聞こえなかったというか。そしてそこから「僕」をどうするかという話になったときに、対比的な意味でも俳優さんのほうがいいのではないかという話になりました。作中でも正反対ということになっていたので。桜良が高い声でよくしゃべるので、落ち着いていて低い声がいいなと思ったときに、ちょうど高杉さんの話をアニプレックスさんから聞いて、実際に声を聞いてもバシッとハマったので、お願いしようと思いました。

 

ーー住野先生は聞いてみてどうでしたか?

 

住野 ただの視聴者みたいで申し訳ないんですけど、いい!と思いました。Lynnさんは単純にかわいい桜良だなと思ったんですけど、そこにいそうなんですよね。実在感があった。まさに自分の街にいそうな桜良というところで、Lynnさんの桜良はすごくいいと思いました。それに桜良って、全然純粋無垢な女の子ではないんです。男の子がどうやったらどういう反応をするのかっていうのも全部、わかってやっているんです。その側面が、Lynnさんがやってくださったことで一気に出たなと思ったんです。

高杉さんに関しては、本当に監督がおっしゃられた通り、俳優さんと声優さんという距離感が桜良と「僕」の距離感にマッチしていると思いました。冒頭に、主人公が布団から起き上がるところの吐息が、本当にあの主人公が心から吐いたため息みたいな感じがして、高杉さんの声質はすごくいいなと思いました。作者としてというより、視聴者としての感想になるんですけど。

 

ーー「僕」はぴったりでしたね。

 

住野 このアニメの好きなところでもあるんですけど、原作より2人に性欲がある感じがするんですよ。「僕」がちゃんと男の子なんですよね。「僕」は桜良に触れられたりするのが嬉しかっただろうし、本当はキスもしたかったのかなと。

 

 

教室の隅っこにいる「僕」に幸せになってほしい

ーーそれと「僕」が変わっていくところもていねいに描いていると思っていて。「ありがとう」というセリフが何度か出てくるんですけど、その言い方も全部違っていると思いました。演技の変化というのも高杉さんに要求されたのですか?

 

牛嶋 もう経験も積まれている俳優さんなので、基本的には高杉さんの中にある「僕」を大切にしていただきました。こういう芝居にしてください、ああいう芝居にしてくださいというのは、あまり言わなかったと思います。やってもらってから、違ったら言おうという感じでした。そういう意味では高杉さんの中で完成していたんです。でも一番最初に、これは「僕」の成長の話でもあるので、彼がどう変わっていくのかを高杉さんの中で一度落とし込んでほしいと言いました。なので桜良との距離も、少しずつ縮まっている感じは入れていってくださいと。実際にそういう演技になっていたので、こちらから言うことはそんなにありませんでした。

 

ーーそれと原作でもすごく好きだったのは、先ほど住野先生が「どうしようもない子」とおっしゃっていたのですが、話の中で「僕」という人格を否定してないんですよね。それがすごくよかったんです。あらためて住野先生にとっての「僕」は、どういう子なのですか?

 

住野 やっぱり自分がそうだったこともありますけど、あの子が主人公になったのは、教室の隅っこでじっとしている子が何を考えているのかというのを書きたかったからなんです。教室の真ん中の人たち、目立つ子たちは、黙っていても自分たちで発言するじゃないですか。でも、言葉にはしないけど、めちゃくちゃいろいろ考えている子のことを書きたくて。さっき原作をアニメにしようと思ったら3本立てにしないと収まらないと監督がおっしゃっていましたけど、そのくらい主人公の「僕」は、ごちゃごちゃごちゃごちゃいろいろなことを考えているんです(笑)。それに、その隅っこにいる子たちのことを書きたいと思うと同時に、すごく彼に幸せになってほしいと思ったんですよね。だからあの最後のシーンを入れたんです。物語的に必要なのかどうかということより、彼に幸せになってほしかったし、あの子たちに未来があるような最後にしたいと思って、小説でも入れたところだったんです。

 

――そういう意味のラストだったんですね。ありがとうございました!


(取材・文・写真/塚越淳一)

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君の膵臓をたべたい

上映開始日: 2018年9月1日   制作会社: studio VOLN
キャスト: 高杉真宙、Lynn、藤井ゆきよ、内田雄馬、福島潤、田中敦子、三木眞一郎、和久井映見
(C) 君の膵臓をたべたい アニメフィルムパートナーズ

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