映画公開から31年――。「王立宇宙軍　オネアミスの翼」展を前に、山賀博之監督の心境を聞く【アニメ業界ウォッチング第48回】

2018年08月25日 12:00

アニメ業界ウォッチング

企画記事

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デザイナーの数を揃えて、一個人の限界を超える

── 「王立宇宙軍　オネアミスの翼」を公開した当時、ほかに期待するものはありましたか？

山賀　先ほど、世の中のアニメに対する認知度がゼロだったと話しましたけど、それが2か3くらいになるかも知れないと思っていたんです。「アニメ？　そういうのもあるよね」と、世の中のパーツのひとつにはなれるんじゃないかと期待はしていました。でも、同じ年の秋に「私をスキーに連れてって」（1987年）が公開されて、「世の中のパーツになるとはこういうことか」と気づかされたんです。「私をスキーに連れてって」があるのとないのとでは、世の中におけるスキー文化の意味や価値が違ってくる。「ローマの休日」（1953年）によって、スペイン広場や真実の口が観光地になったように。それが映画だと思うんです。

── 「時代と共存する映画をつくりたかった」という意味ですか？

山賀　映画というものは、社会に対して何らかの意味を持つべきだと思うんです。1987年頃の映画館は街の一等地にあって、そこにお客さんが見にくることで街が成立していた。つまり1本の映画は、街に対してそれだけ社会的役割を担っていたんです。流行りに乗りたいわけでも中心になりたいわけでもないんだけど、何らかの役割を負うべきだと考えていました。一般市民の生活に入り込みたかった、と言うのかな。後に、「（新世紀）エヴァンゲリオン」がその答えだったとわかるわけです。

── では、2018年に「王立宇宙軍」の展覧会を開く狙いは、どこにあるのでしょう？

山賀　社会の端っこに「エヴァンゲリオン」が乗ることができて、アニメという言葉も市民権を得て、今、テレビアニメは供給過剰なくらいつくられています。1980年代とは逆に、今はアニメが世の中から求められていますよね。アニメに対する期待度が、当時とはまったく違う。その期待を受け止められるぐらいステップアップするにはどうしたらいいのか、準備する意味があります。あの当時だって、「どうせアニメなんて誰も見てないだろう」という気分でつくっていたら、それなりの作品しかできなかっただろうと思います。

── 今回は美術などの設定のずっと手前、メモ書きのようなものまで展示されますね。

山賀　既存のものを既存のシステムでつくるのであれば、有能なアーティストにイメージボードを発注することで、ある程度は先が見えるんです。もちろんアーティストの力は必要ではあるんですけど、それ以前の考え方として、ひとりのアーティストに頼らないようにしました。ワンシーンを丸ごとつくれる人、プロップデザインができる人、絵は描けないんだけど面白いアイデアや世界観をもっている人、何タイプかに分けられると思うんですが、アーティストの数を集めることで一個人の限界を超えられるんじゃないかと考えたんです。

山賀監督制作メモ
(C) BANDAI VISUAL / GAINAX

── では、誰かひとり美術設定を立てるのではなく……。

山賀　美術設定は、ほとんどありませんでした。レイアウトから設定込みで各人にカットを描いてもらって、必要な場合は渡部隆さんのところでディテールを入れてもらう。美術監督の小倉宏昌がやれるようなら、ほとんど白紙のようなレイアウトにディテールを描きこんでもらっていました。

── それだと、汎用性のない美術ばかりが上がってきますね。

山賀　テレビシリーズではないので、汎用性はあまり必要ではなかったんです。1度出てきただけでそれっきり、という背景が多かったので。美術チームが社内にいたから、もしわからなくなったら歩いて聞きに行けばいい（笑）。美術を社内で描いていたので、あれだけの密度を出せたんです。