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“キャラクター性”と“工業性”を両立させたデザイン
山根 「天空のエスカフローネ」は原作の河森正治さんの大まかなラフがあったので、それをまとめればいいんだろうと思っていたら、「単に甲冑のロボットでは面白くないから、ドラゴンに変形するようにしよう」と後から言うんですよ。河森さんのいつものパターンらしいんですけど(笑)。でも、オモチャにするといった制約はなかったので、自由に変形の構造を考えることができました。同時に、河森さんのデザインに対する強烈なこだわりを感じました。僕が「これでいいじゃん、もうできたじゃん」と思っても、河森さんは「いや、まだまだ上があるはず」と悩むんです。メインメカはここまで粘ってまとめ上げるんだなと、とても勉強になりましたね。
それと、「エスカフローネ」や「カウボーイビバップ」(1998年)もそうなんですけど、90年代後半のサンライズ第2スタジオには「サンライズ伝統の斬新な新しいメカ物を俺たちでつくろうぜ」という熱気が渦巻いていました。反骨心の旺盛なスタジオでしたね。また、演出も彩色も動画も、メカデザイナーまで同じフロアに机を並べていて、とてもよい環境でした。
── 「エスカフローネ」と「ビバップ」をプロデュースした南雅彦さんの存在が大きいかと思うのですが、いかがですか? 山根 南さんがまた、変な人ばかり連れてくるんですよ。僕も変わっているけど、ナベシン(渡辺信一郎監督)とかね(笑)。その後の第1スタジオの「無限のリヴァイアス」(1999年)では、初めてアニメを監督する谷口悟朗さんと組めたし、めぐり合わせがよかったんでしょうね。僕自身もパターンに従った作品ではなくて、オリジナリティの強い作品で個性的なデザインをやりたかったので。
── 「ビバップ」は、プラモデル化を前提とした企画でしたね。 山根 そう、バンダイホビー事業部の主導でした。メカデザイナーはコンペで選ばれることになったのですが、僕自身はあまりホビー化されることは意識せずに自由に描きました。変形はしないし尖っているしオモチャ向きのデザインではないけど、ナベシンが選んでくれました。今回、フランスで「ビバップ」のファンや記者たちと話す機会があって、「世界観とのマッチングが素晴らしい」「とても工業性を感じるデザインだ」と鋭く分析してもらえて、とてもうれしかったです。
── 工業性と言っても、理屈や設定ではなくて、フォルムで見せるメカですよね。 山根 「ビバップ」の世界の共通概念として、「モノポッド」という宇宙服の代わりになる独立したコクピットを考えました。まあ、モノポッドが壊れたら空気がもれちゃうので最終的には宇宙服を着ないといけないからウソではあるんだけど、モノポッドを設定したことで、フォルムや機械としての説得力が上がったんじゃないでしょうか。あと、ガラスの球体って潜水艇みたいで、海の中を進むようなロマンがありますよね。
── モノポッドを内蔵する3機のメカが「ビバップ」の主役ですね。 山根 主役メカには「スター・ウォーズ」に登場する「Xウイング」や「Yウイング」のようにフォルムに共通する記号を与えたくて、すべて魚の名前をつけました。“ソードフィッシュII”はシルエットがメカジキ(swordfish)に似ているし、お腹にビーム砲をつけたら魚雷を下げた「フェアリー ソードフィッシュ」(第二次世界大戦時の戦闘機)ともイメージが重なってくる。それと、僕の好きな「老人と海」のメカジキもヒントで、ヘミングウェイの小説の雰囲気とスパイクという孤高のキャラクター性がマッチするように思ったんです。
“レッドテイル”は、レッドテールキャットというナマズの名前から。毒のあるナマズも多いので、かわいいシルエットなんだけど毒がある――どことなく、フェイのキャラクターと重なりますよね。“ハンマーヘッド”はシュモクザメなんですけど、最初は魚の形から外れていました。だけど、せっかくカジキ、ナマズと続いたんだからサメ形にしたい。それと、ハードボイルドな作品なので、各機体には車のイメージも入れてあります。ジェットは体の大きいキャラクターだから、アメ車のような横幅の広いボンネットで、それにシュモクザメのシルエットを加えました。つまり、デザインに2つか3つの意味を重ねられています。そういう事が、メカニックの説得力とキャラクター性を増すんですね。