そんなわけで、人間の暖かい温度が楽曲の魅力になっているのが、「異世界居酒屋~古都アイテーリアの居酒屋のぶ~」のED「Prosit!」です。
自身もアニメファンで知られ、数多くのアニメ作品の劇伴、主題歌を手がけるミトさんが所属するバンド・クラムボンの楽曲。ミトさんは今作でも劇伴を担当されているので、劇中の雰囲気とエンディング曲の世界観が地続きになっており素晴らしい効果を生んでいます。楽曲は軽快なテンポのモータウンで、元気なホーンが楽しい雰囲気を加速させます。ギターのカッティングが全体的なビートをタイトにまとめている点も素晴らしいアレンジ。楽器を持ち寄ってワイワイしながら演奏するようなイメージは、雑多だけど妙に落ち着く居酒屋の雰囲気にぴったりハマります。
スウィングする小気味よいグルーヴが感じられる楽曲です。
プリミティブなダンスミュージックのグルーヴと、圧倒的な存在感のボーカルが絶妙なバランスで融合しているのは、「グラゼニ」のED「SHADOW MONSTER」です。
楽曲自体はEDMの要素が強いビートの効いた打ち込み系ですが、ここに歌い上げる系とは真逆の発声で特徴的な部分にピークがある声の持ち主である土岐麻子さんのボーカルが乗ると、不思議な浮遊感が生まれるのが面白い。掴み所のないまま上昇していくボーカルを、16分のビートで楽曲のボトムにつなぎ止めているギターの仕事っぷりも聞き逃せません。
先述の「Prosit!」もそうですが、往々にしてギターが楽曲の芯を支える裏方ポジションで絶妙な仕事をしている楽曲に捨て曲なし!という説を提唱したいです。
職人的カッティングギターの技が光る楽曲をもう一曲。「PERSONA5 the Animation」のED「INFINITY」です。
楽曲のクオリティには絶大な支持がある「ペルソナ」シリーズ、今作も素晴らしい(絶妙にニクい)楽曲です。オルガンとストリングスのアレンジがフィリー・ソウル(70年代初頭に生まれたフィラデルフィア産のソウル・ミュージック)ど真ん中で、ダンサブルなのにどこか哀愁もあって最高に心地いい。基本的にダンスミュージックの主役は、リズムを司る楽器、ドラムとベース。このリズム隊が奏でるリズムがあってこそ、ダンスミュージックとして機能するのです。
で、その大きなリズムの隙間を縫って細かいリズムで全体のグルーヴをタイトにするのがギターです。
踊れる曲の裏には必ず職人的ギターカッティングが絶妙な仕事をしているので、ここをきちんと感じられるようになれば音楽の聴き方の幅がぐっと広がるので注目してみてください。
続いては「3D彼女 リアルガール」のOP「だいじなこと」
ロックファンならずともご存知の方は多いと思います、くるりです。素晴らしいの一言。もうこれ以上何を言えばいいのか、ほんといい曲。と、言い切って終わってしまうのもアレなのでもう少し掘り下げてみます。計算された高度なメロディライン、リズムの緩急、転調のタイミング、どこをとっても隙がないのに、ものすごい近い距離感が感じられる不思議な人懐っこさが心地いい。くるりらしさ、というよりは大瀧詠一はじめとする先人たちのテイストが感じられ、70年代ニューミュージック以降の日本のポップ・ミュージックの系譜がここに結実している、と言ったら言い過ぎか。ともあれ、アニメソングとしてもとても素晴らしい楽曲です。
今期の「ネタ曲なのに異常なクオリティの楽曲枠」は「ヒナまつり」のED「鮭とイクラと893と娘」です。
このタイトルを見ただけで元ネタがすぐに浮かぶかどうか、この境目が「若者」と「おっさん」の分かれ目でしょう。
元ネタは2001年に急逝した不世出のシンガーソングライター・河島英五の「酒と泪と男と女」。タイトルの言葉遊びですので楽曲の明確なつながりはありませんが、「哀愁たっぷりの泣きのメロディ」の魂はきちんと受け継がれていると思ます。しかし、よく聴いてみるとこの哀愁メロディは日本のフォークミュージック以上に、90年代のUKロックの匂いを強く感じます。分類としてはネタ系の楽曲ですが、ネタゆえに妥協しないクオリティの追い込み方は脱帽しきりです。