映画「ファイナルファンタジー」で海外へ
─キャリア上、転機になったお仕事は?
須江 アニメは「神秘の世界エルハザード」が、ゲームは「ファイナルファンタジー」シリーズが、かなり転機になりました。あとは、「ファイナルファンタジー」の映画(2001)のデザイン協力でハワイに行ったのも、僕の人生で大きな出来事でしたね。
─ハワイではどのような経験を?
須江 外国人スタッフがたくさんいて、英語が飛び交っている中で仕事をすることって、日本じゃあまりないじゃないですか。英語がよくわからなくて黙っていると、「須江はあまりしゃべらない、クールな奴だ」と思われたりしました(苦笑)。監督の坂口博信さんの提案で、ハワイからニューヨークにロケに行ったりもして。大変でしたけど、すごく思い出に残っていますね。
─海外のクリエイターは、仕事のやり方も違いますか?
須江 カルチャーショックを受けるくらい違いますよ。海外のクリエイターは、自分を売り込むんです。日本人は自分をアピールすることをかっこ悪いことだと思うじゃないですか。でも、向こうは違って言わないでいると、「何もできない奴」と思われちゃうんです。だから、「こういうことができます!」、「こういうこともできます!」と自分のできることをどんどんアピールして、積極的にポジションを取ろうとしていましたね。
アニメテイストが残る3D設定
─最近の作品で、印象に残っているものは?
須江 東映アニメーションさんの「ONE PIECE FILM GOLD」(2016)で、本格的に3Dを取り入れた作品です。「今回の舞台は、全長10kmのカジノの船です」と聞いた時点で、宮元宏彰監督に3Dで設定を作ることを提案しました。
ラスベガスにロケに行ったんですが、メインストリート10kmにある建物全部が、船に載るイメージです。1枚2枚の手描き設定じゃ、足りるわけがない。違う角度が必要になったら、追加で何枚も描かなきゃいけなくなります。
そこで、スタッフにラフ指示を出して3Dモデルを作り、テクスチャも作って、3D設定として出しました。監督には「3Dなのでカメラをぐるぐる回せますよ!」、「映画なんですから、リッチにゴールドにいきましょう!」といろいろ提案をして、東映の3Dスタッフとタッグを組んで、かなりの物量を作りました。楽しかったです。
─3DCG技術も積極的に取り入れておられるのですね。
須江 草薙は今、3Dのウェイトを上げています。スケジュールがない中、どれだけクオリティを上げながら効率を求めるかと考えた時、3Dはマストだなと。昔から車とかの3Dはありましたが、背景をからめたものは、まだまだこれからですね。制作会社さんにも「うちは設定もやります、モデルも作ります、モデルもお渡しします」と提案しています。
といっても、写真テクスチャを使った実写ばりの3Dではなくて、アニメ絵のテイストが残った、質感を重視した3Dです。よその3D会社さんにはそうそうできないことだと思います。基本は写真ベースで加工したものを出しますよね。うちはそこを石垣とか何でも描くので、そういう意味では、背景会社の利点が生かせるんじゃないかなと思っています。
─テレビシリーズでも3D設定を?
須江 「クロスアンジュ」、「テンカイナイト」(2014~15)、「Fate/Apocrypha」なんかはそうですね。僕がデザイン指示を出して、モデリングは品田理紗と相原誠がメインで作っています。
─「Fate/Apocrypha」の浮遊要塞は圧巻でした。
須江 始めはオーソドックスに原画マンの人たちが紙にレイアウトを描いて、それをベースに背景を描くという方法だったんですけど、2クールでいろんなところに行く、浮遊要塞も出ると聞いた時に、ここは3Dでいったほうがいいですよ、と持ちかけました。叩きのラフデザインを起こして、メーカーさんにOKをいただいてから、3Dモデルを作り、テクスチャも作り、落とし込んでいきました。おかげで、最後のバトルの時には回り込みなんかもできるようになりました。
アニメとゲームと3Dをこなす、稀有な背景制作会社
─草薙のセールスポイントは?
須江 アニメだけじゃなく、ゲームデザインも3Dもできるところですね。こんなにゲーム会社さんと長く関わっている背景会社って、あまりないと思いますよ。背景業界って量産はできるんですが、デザイナーは圧倒的に少ないんですよね。ゲーム会社が求めているクオリティラインをキープしながら、納期に合わせて結構な量を作成する体力があるというのも、うちの強みですね。
─2016年6月、草薙はCygamesの子会社になりました。何か変化はありましたか?
須江 社内事情もあるのであまりお話できませんが、うちはほぼ独立採算なんです。今までのアニメ背景ができなくなると、スタッフも不安になりますし、いきなりやり方を変えるのは難しいのかもしれません。
Cygamesの渡邊耕一社長からも、「25年以上も会社を維持できているので、現状維持でいってください」とお話がありました。草薙としては、子会社であろうとなかろうと、タイミングが合えば、Cygamesさんのアニメやゲームの協力をしたいなと思っています。これからが楽しみです。
「絵のインパクト」が何より重要
─アニメの美術職に求められる資質能力とは?
須江 表現の仕方はいろいろあっていいと思うんですが、絵にインパクトがないとダメですね。特に、美術設定ならレイアウトのインパクト、背景ならパッと見で「キレイ!」、「いい!」と思えること。
アニメの背景は1秒、2秒でシーンが変わって行くじゃないですか。そこにおいては、見せたいポイントを絞っているか、数秒で読み取れる情報が明確になっているか、複雑な絵を立体的に見せられているか、というのがかなり重要になってきます。
─3DCGのスキルはどうでしょうか?
須江 「3Dモデルも作れて、絵も描ける」というのは、ポイント高いですね。これからの背景マンには、マストな技術になってくるんじゃないかな。若いうちに、ベーシックな技術は身につけておいてほしいですね。草薙は、「3ds Max」が使える背景マンを歓迎しています。
─今後挑戦したいことは?
須江 個人的にはずっとシリーズファンだったので、任天堂さんの「ゼルダ」に参加してみたいですね。子どもにせがまれて「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(2017)を買い、自分でもプレイしたんですが、やっぱりどハマリしました。この世界観を作る仕事に関われたら、めっちゃ幸せだよなぁ、と思います(笑)。
─昔のアニメのリメイクが流行っています。「未来少年コナン」のリメイクが決まったら、関わってみたいですか?
須江 恐れ多いなぁ(苦笑)。山本二三さんは27歳で、「未来少年コナン」の美術監督をやっていたんですが……。僕じゃない人がやったほうが、もっといいものになるんじゃないかな。
─最後に、アニメファンの皆さんにメッセージをお願いいたします!
須江 アニメで言えば、絵が描ける描けないとかではなくて、好きで支えていってくれる人には、迷わず門を叩いてほしいなと思っています。アニメは絵描きがすべてじゃなくて、なにより監督や演出、そして美術やアニメーター以外にも、色彩設計だったり、撮影だったり、全体をまとめるプロデューサーだったり、多種多様な仕事があるんですよ。
アニメやゲームというのは、日本が世界に誇れるサブカルチャーです。ブラジルだと、「聖闘士星矢」の前と後で世代が分かれちゃうぐらい、人気があるそうですよ。これらに関わる人たちが、ものづくりが好きでこだわって作ってきたからこそ、今の世界的人気につながっているんです。だとしたら、若い人たちにはそこを引き継いでいってほしい、日本のアニメやゲームを世界に誇れるものとして維持していってほしいな、と思うんです。
●須江信人 プロフィール
美術設定、美術監督。長野県佐久市出身。東京デザイナー学院を卒業後、プロダクション・アイ入社。1990年10月以降、草薙取締役。ファンタジーやSFといった空想系のデザインを得意とする。美術設定としての参加作品には「神秘の世界エルハザード」(1995、美術監督兼任)、「おねがい☆ティーチャー」(2002)、「CLAYMORE」(2007)、「機動戦士ガンダム00」(2007~09)、「あの夏で待ってる」(2012)、「デート・ア・ライブ」(2013~14)、「クロスアンジュ 天使と竜の輪舞」(2014~15)、「テンカイナイト」(2014~15)、「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」(2015~17)、「ONE PIECE FILM GOLD」(2016)、「Fate/Apocrypha」(2017)、「citrus」(2018)、「ハクメイとミコチ」(2018)などがある。多くの監督・プロデューサーから厚い信任を受けており、現在もアニメ・ゲームの最前線を走り続けている。
●株式会社草薙 プロフィール
中座洋次さんが代表を務める背景制作会社。クオリティと量産の両立に強みを持つ。2016年6月にCygamesの完全子会社となるも、独立した立場で、アニメ・ゲームの背景制作を行っている。3DCG分野にも力を入れており、モデリング、テクスチャマッピング、レンダリングまで、トータルで対応している。草薙の作品は、書籍「背景画集 草薙」シリーズに詳しくまとめられている。
※株式会社草薙 公式HP
https://www.kusanagi.co.jp/
※TVアニメ「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」 公式サイト
http://g-tekketsu.com/
※TVアニメ「Fate/Apocrypha」 公式サイト
http://fate-apocrypha.com/
※TVアニメ「citrus」 公式サイト
http://citrus-anime.com/
※TVアニメ「ハクメイとミコチ」 公式サイト
http://hakumiko.com/
(取材・文:crepuscular)