美術設定・須江信人 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第23回)

2018年04月07日 08:000

35年間、バイク愛好家


─ご趣味は何でしょうか?


須江 バイクですね。高校時代から乗っていて、35年近くになります。年2回は、学生時代の友達とツーリングに行っています。最近も新しいバイクを買いました(笑)。


─どんなバイクを?


須江 オーストリアの「KTM」というバイクです。気質はドイツに近くて、外車だけど丈夫なんですよ。あとは、ハーレーダビッドソンのエンジンを積んだ、アメリカの「ビューエル」というバイクです。日本車にはない尖った部分があって、昔は外車をバカにして日本車ばかりだったんですけど、試乗したら目から鱗で。同じVツインなのに、個性が全く違うんですよ。


─ツーリング先でも背景を描いたりしますか?


須江 モードが違うのでそれはありませんが、写真は撮りますよ。きれいな景色を見に行くのが好きです。あと、温泉とおいしいものも。

 

 

うまくなるため、あえて厳しいプロダクション・アイに


─キャリアについてうかがいます。いつから絵を仕事にしようと思いましたか?


須江 しっかり心が固まったのは、母とある先生のおかげです。保育園のころから母が僕の絵をほめてくれて、それが自信を持つきっかけになりました。中学を卒業したら、漫画家に弟子入りしようぐらい思っていましたが、それは親と先生に止められまして、「高校ぐらいは行け!」と言われました(笑)。


─「先生」とは、学校の先生ですか?


須江 中学校の美術の先生なんですが、小学校以来のお付き合いになります。小学生相手に絵の教室もされていたんです。中学に入ると、その先生に気に入られるために美術準備室に入りびたりで、実際は1年くらいで転勤されたんですが、その後も夏休みになったら、その先生の家に遊びに行ったりしていました。


大好きな先生で、進路の相談なんかもして、美術の先生だったのでアニメは詳しくなかったんですけど、自分が絵を描くのが好きだというのは理解してくれて、応援もしてもらいました。今でも年賀状のやり取りだけですが、連絡を取っています。前に学校の生徒さんを連れて、草薙を見学に来られたこともあるんですよ。


─アニメ業界に進んだ経緯をお聞かせください。


須江 当時は色を塗って絵を描く仕事が、アニメの背景ぐらいしかありませんでした。でも、どこどこの会社に入るという意識は弱くて、就職活動を始めたのも遅かったですね。最初、当時専門学校の先生に口ききしてもらい、東映に話を聞きに行きましたが、「うちは大卒しか採らないんだよね」と言われました。


その後、うちの木原裕爾ともうひとりの計3人で、専門学校の求人広告にあった背景制作会社3社を見学しました。2社を見学した後、最後にプロダクション・アイさんに行って、スタジオに貼ってあった絵を見て、すごいなと思いました。友達は「あそこは厳しそう……」と嫌がっていたんですが、僕は「初めから厳しいとこ行かないと、うまくなんないじゃん!」と言い、アイプロさんにお世話になろうと決めたんです。


ちなみに、ととにゃんの加藤浩さんは、アイプロの同期なんですよ。うちの小倉一男と専門学校時代の友人の4人も、同じ年にアイプロに入って、一緒に背景を描いていました。


─加藤さんには、拙連載でお話をうかがいました。
(編注:https://akiba-souken.com/article/27757/


須江 アイプロで経験を積んだ後、加藤さんは美峰のほうに、僕は木原経由で中座洋次さんに誘われて、草薙設立に参加しました。


─プロダクション・アイ時代の生活は大変でしたか?


須江 アニメーターの人たちほどではないですが、微妙に厳しかったですね。初めの3か月ぐらいは、親に仕送りをしてもらっていました。半歩合制なので、背景が描けるようになってくると給料も上がって、食べられるようにはなりました。

 

草薙設立を振り返る


─須江さんたちは1990年10月、草薙を設立しました。起業はスムーズに決まったのですか?


須江 中座さんに誘われた時、この人はどういう絵を描くんだろう、とは思いましたね。自分の好きな絵を描く人でないと、一緒に仕事はできないと思ったので、中座さんが個人でやっていた「バリバリ伝説」(1986)の絵を見せてもらいました。奥多摩の霧がかった背景なんかを見て、好きなタッチだなと思い、一緒にやろうと決意しました。


─当初から江古田にスタジオを?


須江 うちは場所を3つ変わっているんですよ。最初は、スタジオ・ファンタジアの第2スタジオの一部を間借りしていました。ある程度量をこなせるようになってきたので、目白通り沿いのマンションに移り、それから今の江古田のビルに来ました。


─スタジオ・ファンタジアは惜しくも解散してしまいましたが、「ストラトス・フォー」(2003)や「奏光のストレイン」(2006~07)などのオリジナル作品で知られる、すばらしいアニメ制作会社でした。


須江 当時はOVA全盛期だったので、かなりの量をやりましたね。基本はファンタジアさんのOVA頼りで、そこの仕事をもらうのが草薙の出だしでした。作品が3本くらいあれば、設立メンバーの3人ぐらいだったら、十分食べていけましたから。


─美術監督デビュー作品は?


須江 初めのころは中座さんと共同でやっていまして、僕がガチでやったのはAICさんの「神秘の世界エルハザード」(1995)ですね。当時、ファンタジアさん以外に取引があったのがAICさんで、「エルハザード」はファンタジーものだったので、楽しかったですね。


「エルハザード」は美術設定も、自分でやっていたんですよ。筆で描いていた「エルハザード」のころは、美術監督自身が、得意不得意にかかわらず、設定画も描いていたんです。今は、美術監督と美術設定が分かれていますけど、色で表現するのと形で表現するのとでは、求める要素が違うからなのかなとも思っています。


─「おねがい☆ティーチャー」以降は美術設定のお仕事が多く、ゲームの世界観制作もなされています。


須江 アニメだけじゃなく、もっといろんなデザインがしたいと思っていたんです。中座さんがゲーム業界にもデザイン協力のお仕事がないかと当たり回ってくれましたが、スーパーファミコン時代はドット絵だったので、全滅でした。あきらめかけた時に見つけたのが、ファミ通に掲載されていた、スクウェア(当時)さんの一般スタッフ募集広告でした。


─「一般スタッフ」ですか。


須江 そうです。フリーとか新人とかが募集する一般スタッフの広告に、会社として応募したんです(苦笑)。プレイステーションの時代が始まったことで、ドット絵じゃないデザイナーが不足してきて、素人だろうが会社だろうが、デザインをやってくれるところであれば、仕事を出したい状況だったんでしょうね。すぐに電話があって、それからゲームのお仕事も増えていきました。


─スクウェアとの最初のお仕事は?


須江 「ファイナルファンタジーVII」(1997)です。ニブルヘイムの家の中の設定が送られてきて、「これと同じものが描けますか?」と言われたので、描いて出しました。向こうのデザイナーさんが何より驚かれたのは、スピードですね。短い期間で5点ぐらい描いて出しました。


ゲームのほうはしっかり作るから時間がかかり、アニメのほうはスケジュールが巻かれるから、手早くやらなきゃいけない。アニメは早いけど、詰めは甘いと思います。ここ一番の究極のオリジナリティということになると、やっぱりゲーム会社のデザイナーさんのこだわりというのは、ハンパないと今でも思います。


─ガンダム作品だと、「機動戦士ガンダム00」(2007~09)と「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」に参加されていますね。


須江 「00」監督の水島精二さんは、ファンタジアさんで作っていた「魍魎戦記MADARA」(1991)の演出助手だったんですよね。なので、結構面識があって。「00」でお会いした時には、「すっごいビッグになったな!」と思いました(笑)。「00」はガンダムというのもありましたけど、水島さんが監督というのも、僕が関わりたいと思った大きな理由です。


─「鉄血のオルフェンズ」で、気に入っているデザインは?


須江 火星の居住区ですね。僕にとってガンダムは特別なものなので、かなり乗り気で作りました。

関連作品

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(C) 2014 SPIN MASTER LTD. / Shogakukan-Shueisha Productions Co., Ltd. All rights reserved.

ONE PIECE FILM GOLD

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