「クラスの隅っこにいる人」のために、アニメを創る──「鬼平」監督、宮繁之の語る“創作の動機” 【アニメ業界ウォッチング第43回】

2018年03月31日 12:000

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いちばん大事なことをセリフにしない「鬼平」の作劇


── 「鬼平」(2017年)は非常に手堅いつくりのアニメでしたが、どんな気持ちで監督されたのでしょう?

 池波正太郎さんの原作小説は、アニメ向けに書かれているわけではありませんよね。アニメ的な落としこみではなく、世の中の縮図として喜怒哀楽を描いている、そこがすごくいいと思ったんです。僕が日々思っていること、たとえば「本当はこうありたいけど、なかなか難しいよな」「いま言いたいことがあるけど、いま言ったらダメなんだろうな」「裏切られたら、次からその人には声をかけづらいな」「手を差し伸べたいけど、勇気が出なかった」といった瑣末な感情って、僕らの日常に普通にあるじゃないですか。そういう日々の喜怒哀楽を描かずに、「こういうアニメが売れているから」なんて理由で作品を作るのでは、少々寂しい。アニメマニア出身でもない自分には、「アニメである」というだけではなかなか夢中になれないのです。
中学生のころ、「ロボコップ」(1987年)を見て感銘を受けました。「ロボコップ」という映画はポール・ヴァ―ホーベンのもつニヒリズムと、グロ、ナンセンスギャグなどで徹底的に観客を突き放すような演出をしていると思うんです。だけど、いい人ばかりしか出てこないような作品より、ずっと誠実で素晴らしいと思います。最後のマーフィーの笑顔が、「人生に何が起こっても」「身が引き裂かれるような絶望の淵に立っても」、それを乗り越えて行くんだと、いまだに自分の背を押してくれているように感じています。
この映画は、まさに僕らの日常にも根ざしています。人間のひどい部分をひどく描きつつも、「だけど、あなたのやりようによっては希望があるかもしれないよ」と伝えられる作品なら、多くの人を巻き込んでつくる意味がある。そう考えています。

── 「鬼平」は、声優さんの演技もとてもよかったです。

 声だけ聞くと、時代劇に聞こえないでしょうね。時代劇だと、つい抑揚の激しいデフォルメされた演技をイメージしがちですけど、不器用な人たちの不器用なドラマなので、ささやくぐらいの話し方でちょうどいいと思いました。抑揚のある話し方だと、余裕がある人たちに見えてしまう。いちばん大事なことをセリフで言わないドラマですから、声優さんには「演技しないでください」とお願いしました。すると、鬼平(堀内賢雄)は泰然自若とした、何もかもわかっている成熟した人物に見えてくる。半面、木村忠吾(岡本信彦)や彦十(飯塚昭三)は少しオーバーに演技してもらって、コントラストをつけています。

── 宮さんは「更一灯」というペンネームで総監督やスーパーバイザーも担当なさっていますが、なぜペンネームにしたのですか?

 幸いなことに10年以上も監督をやらせてもらえて、それなりにキャリアを積むことができました。いつの頃からか、後進を育てるというか、若手の作品を手伝ってもらえないかという話もいただくようになりました。だけど、宮という名前が手伝った作品に出るのもおこがましい。その作品のために徹夜して頑張っている人たちの名前が出ればいい。それで、ペンネームを使わせてもらっています。僕が何をやりたいかより、作品をちゃんと楽しんでもらえないと話にならないので、そこはプロとしてちゃんと期待に応えたい。ただ、それだけで終わってしまっていいのかという疑問がずっとあります。「ウソをつきたくない」「自分が生きることにはどういう意味があるのか」と問いつづけている僕のようなヤツは面倒くさいだろうし、なかなか難しい部分がある(笑)。
クラスの真ん中にいた人は、その後の人生もうまく行くだろうと思うんです。クラスの端っこで勉強や運動ができなかったヤツが淘汰されてしまうのは、あまりにつまらない。それでは、夢も希望もないじゃないですか。僕もかつてはクラスの端っこにいたし、端っこに追いやられている人たちの背中を押すのが、僕の仕事だろうと思うんです。たとえ端っこにいたヤツでも仲間と一緒に頑張れば、なんとか面白いこともできる。苦しい思いをしている人たちに向かって、「ここであきらめるなよ」と励ますような作品をつくっていきたいんです。



(取材・文/廣田恵介)

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