アニメーション監督・益山亮司 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第21回)

2018年02月17日 10:000

世代を超え受け継がれる、ガイナックス流コンテ術


─演出を始めたきっかけは?


益山 アニメーターをメインの仕事にしなくなったのは、「演出になれば、作品全体の薄い底上げをして、ひとつの話数を普通に回して、普通に終わらせることができるのではなかろうか」と思うようになったからです。原画マンとして他社のコンテをもらった時に、「これでいいのかな?」、「自分だったらこうするのに……」と気になって、コンテを直したりしたこともあります。


なおかつ、コンテ演出に転向することで拘束費なりをもらえれば、業界で食っていくことができるかもと思ったからです。自分の実力やスピードを考えたら、なんとなくアニメーターをしていく分にはできる、ただもともと動画でけつまづいている人間なので、数をこなすのが難しい。僕の頭には緊箍児(編注:きんこじ、「西遊記」主人公の金輪)がはまっていて、「さあ、トレスをしなさい」と言われると、頭をギリギリギリと締め付けられて(苦笑)。この緊箍児を外すためには、もう1回動画からやり直さないとだめだなと思い、転向を決意しました。


─演出デビュー作品は?


益山 「グレパラ 〜グレンラガン パラレルワークス〜」(2008)です。「グレンラガン」のスピンオフ作品なのですが、原画に上がって1年目くらいで初めてコンテ、演出、作監をやりました。これはガイナックスの変でいいところなんですが、手を上げればやらせてくれるんです。「さすがにやらせてくれないだろう。ただ、今手を上げておけばいずれ……」と思っていたので手を上げたら、「はい、どうぞどうぞ」みたいな感じで(笑)。「その代わり、責任持ってね」と釘は刺されます。ヴィラルの乗った飛行機が飛び立つシーンとか、カミナが玉座から立ち上がるシーンとかは、力を入れて描いた覚えがあります。


─ガイナックス独自のコンテの描き方みたいなものはありますか?


益山 やりたいこととやってほしいことが明確に描いてあり、読みやすいです。ガイナックスのコンテマンで言うと、庵野秀明さん、鶴巻さんとかの世代を経て、今石洋之さん、錦織敦史さんといった次世代の方がいて、そこには「コンテの源流」みたいなものがあるんです。アニメーターとしてもうまい人たちなので、本当にわかりやすくアニメーターを描かせる気にさせてくれます。

 

「アイドルマスター」との出会い


─「アイドルマスター シンデレラガールズ」(2015)では原田孝宏さん、鈴木健太郎さんとともに、助監督に抜擢されました。


益山 この段階でも、まったく監督希望者ではありませんでした。助監を振られた時も「本当にいいんですか?」といった感じで。恐らく、アニメーションプロデューサーの福島祐一さんが、気をきかせてくれたんじゃないかと思っています。「こいつはキャリア的に、そろそろ次の勉強をさせたほうがいいだろう」という意味合いで、入れてもらったのかなと。でも、そのおかげでこれまで、いち話数演出でしかなかったのが、助監で監督との距離がより短くなり、監督の近くで勉強できるようになって、ありがたかったです。


─高雄統子監督とご一緒された感想は?どのようなところを勉強されたのでしょうか?


益山 感想は、「正直、真似できない」です(笑)。高雄さんは自分が受け持つタイトルや話数への思い入れとか、作品を完成させるということに対しての気持ちの入り方とかがものすごい。命を燃やしてアニメを作り、自分にもとても厳しく、かつ絵描きとしてもうまい方です。


キャラクターを大事にすることに関しては、ずば抜けていますね。芝居ひとつにしても、安易にしがちな芝居で「いったん目を閉じて、前を見る」としたところを、「そこは目を閉じたら、感情として負けだからなくていい!」といった感じで、指示が非常に細かいです。キャラクターがどんな感情で動いているのかを大事にして、シーンを作るための情報、表情、ポーズ、行動なりを考えられています。パワフルに働く高雄さんの仕事ぶりにはガツンとやられました。


─監督を決意した経緯をお聞かせください。


益山 飲み屋で、ある先輩に「益山は何がやりたいの?」と聞かれて、「僕は皆さんの作品の底上げができれば、それでいいです」と答えたのですが、その人から「それじゃ、いつかアニメ嫌いになるよ」と言われ、その時は意味がよくわからなかったんですけど、仕事を続けているうちに、それはあるかもしれないと思うようになりました。


全体のしんどさの傾向が年々上がっている中で、タイトルのローテに入って、自分がやりたいことがないまま、ギリギリの戦いで話数を終わらせる日々。作品の多様化で自分に合うタイトルに当たるのも、難しくなってくるかもしれない。だったら、「企画を出したり、タイトルを持ったりしたほうが楽しいかも」というところが少し出てきて、ちょっと企画書でも書いてみようかなといったところで、「ブレンド・S」監督のお話をもらい、原作がおもしろく、自分にフィットした気がしてやってみたいと思いと引き受けました。


─キャリア上、転機になったお仕事は?


益山 タイトルで言えば、やっぱり「THE IDOLM@STER」が一番の転換期です。テレビシリーズのコンテ・演出を、初めてローテで担当しました。ちょうどガイナックスを出たタイミングでもあるので、そういう意味でも思い入れのある作品です。


─「パンティ&ストッキングwithガーターベルト」も、大変ユニークな作品でした。


益山 確かに他社からすると、とんでもなく変な作品ですけど、当時ガイナックスで仕事をしていた感じでは、いたって普通な感じでした(笑)。

 

深刻なアニメーターの技術力低下


─監督や演出家に必要な資質能力とは何でしょうか?


益山 「アニメーターに完成形態のビジョンをどこまで示せるか」、あとは「妄想・イマジネーションをどこまで広げられるか」でしょうか。


前者に関しては、アニメーターの技術力が低下しているとずっと言われていますけど、それは近年割とひどくなっていて、スケジュールや諸々あって最後まで作業できない人が増えている中で、完成ビジョンを演出家や監督がちゃんとした指標を持って示さないと、本当にふわっとしたものしかできません。自分が「こうしたい」とコントロールするからそうなるのであって、「誰かが何とかしてくれる」、「次の人に投げよう」というのではよい画面は作れません。


後者については、脚本の文章を読み解く時には、間を埋めていく作業も含めて、頭の中でフィルムの完成を考えながらコンテを描くわけですから、シーンを妄想できないと、何もふくらませることはできません。そういう意味で妄想する力は本当に大切です。


─原画マンの技術が低下すると、作画監督の負担が大きくなりますね。


益山 今の現場は、作監も総作監も原画の尻ぬぐい作業が多く、アニメーターにとって作監は花形であるはずなのに、上がりの悪さにひたすら全部描き直して作業量がふくらむうえに、スケジュールの都合で人をたくさん入れるのでお金もよくなく、疲弊(ひへい)するだけで、正直、負のループが業界内に蔓延(まんえん)しています。


作監って、本当はL/Oも直すセクションなのですが、今はキャラを直すことにいっぱいいっぱいで、L/Oを直せず、キャラだけ直すとどうなるかというと、キャラしか描けなくなる。本来なら「原画がうまくて、キャラクターのつかみもL/Oもうまい人」が作監に選抜されるべきですが、今は少し描けそうというだけで、制作さんが「ちょっとヘルプの作監やってくれない?」と声をかけて、そのまま別のタイトルでも作監をやっていたりする人が増えているのではないかと思います。


6割以上技術を習得したうえで作監ではなく、3割くらいの段階で引き抜かれて作監に移動すると、もうキャラしか直せなくなって、誰もL/Oそのものを直せなくなる。となると、演出が直すしかなくなるわけですが、じゃあ演出も直せなかったら?といった形で、悪循環がぐわーっと広がってます。もちろん、すべての現場がそうではないですが。


─「負のループ」、「悪循環」、ですか。


益山 基本的なことを教えてくれるスタジオが少ないのと、下積みを抜いた状態でいきなり原画を描く人が多くなったことも、原因のひとつかもしれません。もちろんそういった原画マンが悪いのではなく、誘う人間がちゃんと教えたりせず、放置する人が多いことが原因ではないかと思います。


「動画をがんばってがんばって、ようやく……」という過程がなく、動画時代に得られる知識とか、たくさん見ることで養われる引き出しとかがなかったりするので、誰かが指摘して教えないと、間違ったまま進んでしまいます。しかし、みんな忙しくてそんなこと伝える暇もない。


自宅作業の若いアニメーターでやる気があってもズレてる人たちを見ると、不憫に思ってしまいます。もし業界のノウハウも知らないままに、ネットなどのスカウトで原画に誘われた方がいるとしたら、教えてくれる人がつかなければ、断るべきだと思います。安易に受けると、誰も幸せになれないパターンが多いとだけ言っておきます。


─アニメ業界の将来に危機感はありますか?


益山 めちゃくちゃあります! 本当にヤバイと思うくらいです。監督をやって、さらにそのヤバさがわかりました。僕は「ブレンド・S」を、「これくらいの規模感に抑えて、最後は総力戦でがんばろう」と考えて作りましたが、ほかのもっと大変なことをしているタイトルはどうやって作っているのか、考えると震えるしかない。


毎回終わるたびに「これは奇跡!」、「これも奇跡だ!」となっていると、奇跡が起こらなかった時にはどうなるのでしょう? アニメーターとしては凡才でタイミングと環境、作品に恵まれただけでここまで来た人間ですが、自分にできることとして、時間が許すなら、言える人には教えていこうと心がけてはいます。

 

益山さん原作のオリジナルアニメも?


─今後挑戦したいことは?


益山 企画がうまく通って、オリジナルのタイトルがやれること。あとはCGタイトルも、ご縁があればやってみたいですね。CGはカメラワークに制限がないので、そういう意味で自分の持つテンポ感は、CGだとどうなるんだろうという興味があります。


─最後に、アニメファンの皆さんにメッセージをお願いいたします!


益山 自分の拙い話を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。また、「ブレンド・S」を観ていただいた皆さん、ありがとうございました!


現場の人間としては、皆さんに「『ブレンド・S』、おもしろい!」と言っていただけたのが現場のモチベーションアップや原動力になって、本当にうれしかったです。これからも関わる作品に対して貢献できるよう頑張りますので、応援のほどよろしくお願いいたします。

 

 


●益山亮司 プロフィール
アニメーター、演出家、アニメーション監督。オールジャンルに対応可能で、作品を底上げする演出に強みを持つ。大阪アニメーター学院卒業後、ガイナックスに入社。現在は、A-1 Pictures所属。原画マンとして、「天元突破グレンラガン」(2007)などに参加。演出家になってからは、「THE IDOLM@STER」(2011)、「ビビッドレッド・オペレーション」(2013)、「ご注文はうさぎですか?」(2014)、「ヤマノススメ セカンドシーズン」(2014)、「アイドルマスター シンデレラガールズ」(2015)、「リトルウィッチアカデミア」(2017)などの人気タイトルに関わり、「ブレンド・S」(2017)では初監督を務めた。同作は成功を収め、ファンからは早くも次作への期待が寄せられている。


※TVアニメ「THE IDOLM@STER」 公式サイト
http://www.idolmaster-anime.jp/tv/index2.html

※TVアニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ」 公式サイト
http://imas-cinderella.com/

※TVアニメ「リトルウィッチアカデミア」 公式サイト
http://littlewitchacademia.jp/tv1st/

※TVアニメ「ブレンド・S」 公式サイト
http://blend-s.jp/

※益山亮司 ツイッター
https://twitter.com/masuyama56


(取材・文:crepuscular)

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