「クジラの子らは砂上に歌う」イシグロキョウヘイ監督インタビュー 「作り物であることに芯を通した」――ファンタジーを生み出すメソッド

2018年01月26日 19:000

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全部をゼロから作り出す、ファンタジー作品に臨む難しさ


── TVシリーズの終着点を決めるにあたって、シリーズ構成の横手美智子さんとはどのような相談をされましたか?

イシグロ 最終回では、アモンロギアへ向かうという点だけは初めから頭の中にありましたが、そこでどうやって向かわせるのかを考えるのは難しかったです。スキロス編が終わった第9話でひとつの山場を迎えてしまうので、残りの3話でどうやってドラマを作ろうかと悩みましたね。原作の途中でアニメが終わることは決まっていたし、梅田先生からは「アニメならではの落としどころを見つけていただければ、原作通りじゃなくても大丈夫ですよ」と言っていただいたので、「スオウの決断を変えたい」と僕から提案させていただきました。原作ではスオウが泥クジラの秘密を民たちに明かさずアモンロギアへ向かいますが、アニメでは残りの話数的にも、秘密を共有しないとドラマが生まれないだろうと思いました。それに付随して、秘密を知ってしまうチャクロの困惑や、双子のシコンとシコクの反乱を組み合わせて、最終的な構成にしました。そして、タイトルに“歌”と入っているくらいですから、最後は歌でドラマを演出する流れで、横手さんに頑張ってまとめていただきました。

── 決して希望に満ちているわけではない未来を思わせる最終回は印象的でした。

イシグロ 漫画は今後も続きますから、旅が続いていくことをアニメでも踏まえたかったんです。原作ではアモンロギア編以降はいろんな場所へ行くことになるし、他国の人たちもたくさん出てきてどんどん世界が大きくなります。そういう意味でも、これからの広がりを最終回では表現したいと考えました。

── 本作の独自の世界を作るためのさまざまな創意工夫をうかがってきましたが、実はイシグロ監督がファンタジー作品の監督をされたのは今回が初めてだったんですよね。制作を振り返っていかがでしたか?

イシグロ 制作を終えて、やっぱりアナログの美術のよさは非常に大きかったなと感じています。多くの美術は画用紙に描いたものをそのまま使っているので、完成した映像でも画用紙の目がそのまま見えていました。その点は、僕の狙う“作り物っぽさ”、“絵本っぽさ”に繋がると信じていましたし、これがもし写真のような背景だったら、方法論が現代劇と同じになってしまうとも思ったんです。現代ものの作品ばかりやっていると、考え方も含めてフォトリアルな方向に行きがちになるんですよね。でもファンタジーって、誰かの頭の中で作られた世界を具現化したものじゃないですか。作り物であるといった記号には芯を通したほうがいいとずっと意識していましたし、その方法の一手として、シーンによってフィルムっぽい質感を入れることやアナログの背景を使うことで、自分の中でファンタジーのイメージを消化していきました。


── 現代劇とファンタジー作品とでは、取り組み方にどんな違いがありましたか?

イシグロ 現代ものは地続きの世界ですから、実景もあるし、何にしても想像が容易です。でもファンタジーやSFは本当にゼロから全部を作らないといけなくて、監督をやるとなると、それこそインフラがどうなっているかというところから考えておかないと成立しないんですよ。この大変さは、やってみて初めて思い知りました。梅田先生にお尋ねしたこともたくさんありますが、こちらから提案させていただいたものもいくつかあって、たとえば胎内エリアを照らす灯りは、漫画だと描かれていなくてもそこまで気になりませんが、アニメで描くときには何で灯りを取っているのか、その灯りはどこまで届くのか、ちゃんと考えないといけません。チャクロが記録を書くときに使うインクにしても、現代劇だと「インクはインク」と思ってしまうけれど、この作品の場合は「植物から染料を取っているのかな? それとも砂の海のから獲ってきたイカの墨? だったら真っ黒ではなく少し藍染めに近いような色だろうな」と考えていきました。染料で言うと服もそうですね。泥クジラの暮らしからするとたぶん植物性の染料だから、きっと濃い色はないんです。だから、スオウの服なんかは緑色ですけどすごく淡い緑にしました。そうやって1つひとつの起源を辿るわけですが、今思えばよく終わらせたなというすごい物量でした(笑)。でもすごく面白い作業ではありましたね。


── 本作の仕事の中で特に印象に残っていることは何ですか?

イシグロ 今回、演出協力というかたちで大先輩の桜美かつしさんにとても助けていただきました。各話の絵コンテや演出だけでなく、物量がありすぎて取りこぼしてしまう部分を補っていただきましたし、本来なら僕がやるはずのレイアウトチェックなど、申し訳ないくらいさまざまなことをやってもらいすぎました(笑)。作品そのものの話とはちょっと外れちゃいますけど、やっぱり統べられる人間が何人かいないとクオリティは保てません。そこがTVシリーズを作っていく大変さだなと改めて感じました。

── この作品を通じて桜美さんから何か吸収したという実感は?

イシグロ キャラクターの見せ方と、あとは絵作りですね。とにかくレイアウトが上手くて。スピードもとてつもなく速いですし、すごくピンポイントな話になりますが、桜美さんはキャラクターを影の中に入れるタイミングが本当に素晴らしいです。第11話は演出を全てやっていただいた回ですが、オルカが演説をするシーンは超カッコよかったですね。途中途中でちょっと「少女革命ウテナ」っぽくなるんですけど(笑)。しかもこの作品の美術監督は小林七郎さん(「ウテナ」の美術監督)の系譜を受け継ぐ水谷さんですから、面白いですよね。ホント、桜美さんがいなかったらこの作品は成り立っていなかったでしょうから、感謝しかありません。


── 最後に、本作を終えてのお気持ちを教えてください。

イシグロ 全部をゼロから考え出す作業は今までやったことのない取り組みでしたが、ちゃんとすべてを結実できて映像に落とし込めたのかな、と。仕事のスピードや自分でやりきれずに桜美さんにヘルプで入ってもらった部分など、反省点も多々ありますが、与えられたポジションの中で原作のよさを表現できたという満足感はかなり得られました。何より、ファンタジーの作品としてきちんとまとめられたことがよかったなと思っています。


(取材・構成/日詰明嘉、奥村ひとみ)


(C) 梅田阿比(月刊ミステリーボニータ)/「クジラの子らは砂上に歌う」製作委員会

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クジラの子らは砂上に歌う

クジラの子らは砂上に歌う

放送日: 2017年10月8日~2017年12月24日   制作会社: J.C.STAFF
キャスト: 花江夏樹、石見舞菜香、梅原裕一郎、島﨑信長、小松未可子、山下大輝、神谷浩史、石田彰、金元寿子、田丸篤志
(C) 梅田阿比(月刊ミステリーボニータ)/「クジラの子らは砂上に歌う」製作委員会

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