「ゆるキャン△」京極義昭監督インタビュー──ロケハンを重ねてキャンプの空気感、料理、温泉まで魅力をすべて詰め込みました!

2018年01月08日 14:000

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音楽や食べる演技にもこだわっています

 

――ストーリー的なことでは、アニメになったことでオリジナルの話は出てくるのでしょうか?

 

京極 ちょっとしたワンシーンなどオリジナルで作った部分もちらほら出てきますが、基本的な流れは原作に沿っています。この作品は時間の流れがゆっくりで、とても濃密なんです。オリジナルをいろいろ入れてキャラをふくらませようとしても、尺的に全然入らなくて(笑)。どうしても入れたいところは先生も一緒に考えてくれたので、とても自然なオリジナルになっています。

 

――原作では風景の描き方で見開きを効果的に使っているのも印象的でした。

 

京極 そうですね。見開きで描かれた場所に実際に行ってみると、どこも本当に素晴らしい景色なんです。アニメでもそういった風景の魅力を感じてもらえるよう力を入れています。

 

――音楽面はいかがでしょうか?

 

京極 漫画と一番違うのは音楽がつくところなので、雰囲気をしっかり出すために音楽にはこだわりました。具体的に言うと、普通のアニメではキャラクターの心情やシーンの雰囲気に合わせて音楽をつけるのですが、この作品ではキャラクターよりも情景に音楽をつける意識でオーダーしています。

 

そして、立山秋航さんがとても素晴らしい音楽をつけてくださり、各キャンプ場のテーマも作ってくださいました。キャンプ場には個性があるので、立山さんに写真を見せながら説明しまして。キャンプ場のテーマはそこでしか使わないという贅沢な作りになっています。

                        

――実際のキャンプ場でも聴いてほしいですね。

 

京極 ぜひ。それぞれのキャンプ場で空気が違う感じはとてもうまく出ていると思います。

 

――声もアニメでならではですが、メインキャストはオーディションで決めたのでしょうか?

 

京極 そうです。お恥ずかしい話、男の子ばかり出てくるアニメをやっていたので女性の声優さんはあまり知りませんでしたが、先入観なくキャラクターに合うと思った方にお願いすることができたので、本当に満足しています。

 

――Wヒロインであるなでしことリンについては、より具体的にお聞きしたいと思います。まずはなでしこについて。

 

京極 なでしこには天真爛漫さや野性味と言えるような元気さを求めていたので、花守ゆみりさんの声がとてもハマりました。爽やかでくすぐったい感じの声が魅力的で。

 

――なでしこの大きな魅力に「おいしそうに食べる」があると思うのですが、花守さんの食べる演技はいかがでしたか?

 

京極 ここは相当テイクを重ねたところです。“おいしそうに食べる子”に見えなければいけないので、花守さんは大変だったと思いますがこだわってやらせていただきました。おかげで、本当になでしこが食べている感じになりましたね。第1話でカップラーメンのテイクを重ねた後、花守さん自身が「お腹が空いた」と言っていたぐらいで(笑)。

 

――食べるシーンは原作でもカットを多く使い、表情のちょっとした変化などこだわりを感じました。

 

京極 料理ってただきれいに描けばおいしそうかと言えばそうではなくて、食べる反応があっておいしそうに感じると思うんです。なので、いかに幸せそうに食べるか、そこは声だけでなく絵の面でも強調しています。

 

あfろ先生が描きたい“日常の幸せを発見する瞬間”は、食べる表情にも込められているんだろうなと。センス・オブ・ワンダーといいますか、キャンプ場を歩きまわっているだけで何となく楽しそうに見えるという新鮮な魅力に満ちている作品なので、食べることに関してもがんばろうと思っています。

 

――リンはどうですか?

 

京極 リンはソロキャンパーですけど友達がいないわけではなく、別にコミュ障なわけでもない。でもひとりでいるのが好き。しかも、もともと感情がそんなに表に出ない子で、モノローグのセリフが多いから難しいだろうなと思ってオーディションに臨んだんです。東山奈央さんは短いひと言ひと言で的確に細やかな表現をしっかりできる方だったので、そこが本当によかったですね。

 

――ディレクションもあまりなく?

 

京極 第1話で時間をかけて役作りさせていただいてからは、キャラクターをつかんでいただいている感じがあります。

 

――では、キャラクターを描くうえで気をつけた点や特に苦労した人がいれば教えてください。

 

京極 全体的には、先ほど言った適度な距離感・関係性には気をつけました。

個々のキャラクターで言えば、なでしこが難しいんですよね。リンはモノローグが多いですし、割と感情移入してくれる方が多いと思うんです。でも、なでしこは天真爛漫で、かといって何も考えていないわけでなくちゃんと相手のことを思える子。グイグイ距離を詰めるけど、嫌がっている時は気を使える子なんです。いわゆるアニメ的なパターン化された無邪気さだけではないので、そのさじ加減をどうするか難しくて。

 

――いわゆる主人公キャラな感じで、懐にずかずか踏み込んでいくのかと思ったら違いました。

 

京極 あfろ先生の描くキャラクターはステレオタイプから少しずつずれているんです。奥行きがあって生っぽいというか。なので、そこは気をつけて描くようにしています。

 

――ちなみに、京極監督が個人的にお気に入りのキャラクターは?

 

京極 みんな好きですけど、誰かひとりなら斉藤さん(斉藤恵那)です。

 

――斉藤さんは野クル(野外活動サークル)のメンバーとも結構からみますよね。

 

京極 そうなんです。最初はただの友達という感じだったのに、実はなでしことリンを近づけるために暗躍している重要なポジションで。本読みのメンバーはみんな推しメンがいて、隙あらばその子の出番を増やそうとする人もいたので、ケンカしながら調整しました(笑)。

 

 

背景、料理、道具、犬、温泉……原作の魅力はすべて出てきます

 

――スタッフの布陣についてさらにお聞きします。シリーズ構成は田中仁さんです。

 

京極 仁さんとは初めてお仕事させていただいたんですけど、原作の魅力をとてもわかってくださり、表に出てこないような細やかな部分もしっかりと脚本に落とし込んでくださいました。オリジナルのシーンはともすれば「ゆるキャン△」の世界観から外れたりするのですが、うまくなじむように書いていただきました。本当に仁さんがシリーズ構成でよかったなと思います。

 

――キャラクターデザインも世界観を構築するうえで重要ですよね。

 

京極 佐々木睦美さんは本当に上手です。あfろ先生の絵って、元絵描きとして見ても非常に達者なんですよ。

 

――線の使い方とか独特に感じます。

 

京極 サラッと読めるんですけど、実はとても情報が整理されていて濃密な部分もあるんです。佐々木さんはかなり悩みつつ、原作のキャラクターをうまくアニメのキャラクターにしてくださいました。メインキャラ5人を描き上げるのに相当な時間を要しましたが、すごくいいデザインになったと思います。先生の絵は見れば見るほど難しいことをやっているので、それをアニメーターが描けるようにデザインとして落としこむのは難儀なんですよ。

 

――あfろ先生のこだわりだと思いますが、作中には犬がいっぱい出てきます。そこはアニメでも?

 

京極 斉藤さんが飼っているちくわもそうですし、必ずどこかに犬はいます。聞いてみたら、あfろ先生は犬とバイクが好きらしくて、原作通り犬の出番は確保しました(笑)。たまたま佐々木さんも犬好きなので、力を入れて描いてくれています。特にちくわのキャラ設定の描き込みがすごくて、ちくわだけ点数が多いんですよ。「ゆるキャン△」にとって、犬は欠かせない存在です。

 

――原作の魅力が欠くことなく全部詰まっている感じですね。

 

京極 そうありたいです。キャンプ道具もあfろ先生が実際にある道具をモデルにして描いているので、とりあえずリンが持っているキャンプ道具は一式買って、それを元に設定を起こしました(笑)。原作を読んだ時、キャンプ道具に男の子心を燃やされるというか、いじってみたくなるものばかりだったんです。実際に買ったらその通りで、組み立てているだけでも楽しいんですよ。そういうところも感じてもらえるようにがんばっています。

 

キャラクターやストーリーだけでなく、背景、料理、道具、犬と魅力の多い作品です。あfろ先生の仕掛けがすごく、そこかしこに面白いところを用意してくれていて、読んでも読んでも飽きないですよね。アニメでもそれを目指したいと思っています。

 

――ちなみに、原作は4巻まで出ています。4巻分を1クールというボリュームで描くのはどうなのでしょうか?

 

京極 通常のアニメですと1クールで原作の5〜6巻分になります。なので、原作量が足りないように見えるかもしれませんが、逆に濃密すぎてどうやって押し込めようか悪戦苦闘しています。あfろ先生はとても上手にはしょるところははしょっているのでサラッと読めるんですけど、同じことをアニメでやろうとするとすごく時間がかかるんです。映像にする時には漫画のコマ通りにはいかないので、丹念に描こうとすると入らなくなってしまって、泣く泣くカットしたところもあります。

 

――男性ファンの声を代弁してお聞きします。温泉シーンはありますか?

 

京極 ちゃんとあります(笑)。それもキャンプの魅力のひとつなので、キャンプに行って温泉に入りたくなるように描きたいと思っています。でも、サービスショットがバンバン出てくるような作品ではないので、原作と同じようなさり気なさでやっています。

 

――それを聞けて安心しました(笑)。

 

京極 ロケハンで温泉も入りましたけど、富士山を見ながら入る露天風呂はたまらなかったです。アニメを作らずにずっとキャンプして温泉に入っていたいよね、と話していました(笑)。

 

――話を聞いているだけで行きたくなります。

 

京極 ぜひ行っていただきたいです。僕らもそうでしたが、現地に行って原作を読み返したら何倍も面白かったですから。秋冬にキャンプをやる魅力のひとつとして、空気が澄んでいるから遠くまできれいに見えるんです。温かいものがおいしいですし。でも、本当に寒いのできちんと準備して行ってくださいね。

 

――最後に、初監督ということで京極監督の土台についてもお聞きします。監督はどのような作品に影響を受けてきたのでしょうか?

 

京極 僕は小さい頃から宮崎駿さんの作品が好きで、モロに影響を受けて育ってきました。逆にそれ以外のアニメはあまり詳しくないんですよね。

 

――宮崎アニメも自然の描き方は魅力のひとつなので、この作品とマッチしていますね。

 

京極 そうなんです。プロデューサーが言うには、僕のアニメの描き方はどちらかというと映像的というか実写的なので、この作品にマッチすると思ったそうです。逆にアニメアニメしたものはあまりやったことがないし、引き出しが少ないので、そういう作品でなくてよかったなと(笑)。日常を丹念に描くのはもともと好みだったので、キャンプをしたり食べたりを魅力的に描けるこの作品はすごくやりがいがあります。

 

――そういう監督が描くからこそできたアニメなのですね。

 

京極 がんばります! ハードルはあまり上げたくないですけど(笑)。

 

(取材・文・写真/千葉研一)

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放送日: 2018年1月4日~2018年3月22日   制作会社: C-Station
キャスト: 花守ゆみり、東山奈央、原紗友里、豊崎愛生、高橋李依、井上麻里奈、大塚明夫
(C) あfろ・芳文社/野外活動サークル

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