「ウルトラマンゼロ」で劇伴作曲家に
─キャリアについてうかがいます。プロの作曲家になる前は、どのようなことをされていたのですか?
藤澤 実は……すぐに辞めちゃったんですけど、アニメの制作進行をやっていた時期がありまして(苦笑)。どうしたら劇伴の仕事ができるかわからなかったので、「とりあえずアニメのほうに行ってみよう!」と思い、上京して、ボンズとサンライズとProduction I.Gに応募して、ボンズに受かったので、そこで制作の仕事を経験しました。
でも、当たり前ですが「ここじゃ音楽の仕事はできない」とすぐにわかったので(苦笑)、辞めて関西に戻り、アマチュアで劇団のミュージカルなどを作ったりしていました。その後、いろいろな作家事務所に応募するようになって、SUPA LOVEに受かったので、このキャリアを始めることができました。
─アニメ音楽に関わることになったきっかけは?
藤澤 SUPA LOVEでは最初、J-POPの仕事を主にやっていました。アニメの最初の仕事は、「BLUE DRAGON 天界の七竜」(2008~09)だったと思います。ED曲で、下川みくにさんの「イ〜じゃナイ!?」を作編曲しました。ただ、それはタイアップでしたし、アニメというのは特に意識してなかったんです。
─劇伴のお仕事は、いつ頃からでしょうか?
藤澤 事務所にたまたま「ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国」(2010)のアレンジコンペの話が来たので、思い切って応募したところ、受かったんです。それが最初です。
その後で、テレビアニメの劇伴として「電波女と青春男」(2011)を初めてやらせていただき、2012年にファイブエイスに移ってからは、「有頂天家族」や「ラブライブ!」の劇伴をやるようになりました。
─「電波女と青春男」は、前山田健一さんと板垣祐介さんの3人で作曲されていますが、師弟関係はございますか?
藤澤 僕たちにそういうのはないですね。お2人とも僕より年がひとつ上なので、先輩ではありますが、特に師弟関係はありません。メインテーマなど多くは前山田さんが作曲されました。
─京極監督からは、直接オファーがあったのでしょうか?
藤澤 「ラブライブ!」はどういう経緯でチョイスされたのかわからないですけど、「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」(2015~16)、「まけるな!!あくのぐんだん!」(2017)、「宝石の国」はコンペでしたが、監督からお話をいただいています。
─「ゆるゆり」シリーズは、OVA「なちゅやちゅみ!」(2014)以降、参加されていますね。
藤澤 畑博之監督が「有頂天家族」を気に入ってくださり、お声がけいただきました。
─2017年は、いしづかあつこ監督の「ノーゲーム・ノーライフ ゼロ」が大ヒットしました。
藤澤 いしづか監督とは「プリンス・オブ・ストライド オルタナティブ」(2016)の時にコンペがありまして、それ以来のご縁になります。
初期衝動がつまった「ラブライブ!」
─転機になったお仕事は?
藤澤 やっぱり「ラブライブ!」ですね。初めて自分で1から10まで作曲したので、すごく印象に残っています。その時にやりたかったことをやれた、全ての初期衝動がつまった、思い出深い作品です。
─「Dimension W」(2016)は椎名豪さんとの共同作曲ですが、ご一緒されていかがでしたか?
藤澤 椎名さんはすごい作曲家だと思います。楽曲ももちろんそうなんですけど、椎名さん自身が魅力的な方なので、音楽もスタッフの僕らも、それに引き寄せられていく感じがするんですよ。この現場はすごく刺激的で、おもしろかったです。
─「有頂天家族」のお仕事はいかがでしたか?
藤澤 森見登美彦さんが描く京都には、すごく「宇宙」を感じるんですよね……。僕はそんな森見さんの作品が大好きで、「有頂天家族」だけじゃなくて、ほかの作品も結構読んでいます。
吉原監督とは「有頂天家族」で初めてご一緒させていただいたんですが、監督の作品への向き合い方には、度肝を抜かれました。あまり言葉数が多い方ではないんですが、ミリ単位のL/O(レイアウト)のお話までされて、綿密に映像を作っておられました。「有頂天家族」は僕の視野も広がった、すばらしい作品でした。
脱線しますが、「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」(2004~05)の吉原さんのコンテ・演出回「左眼に気をつけろ POKER FACE」(編注:第14話)は、めちゃくちゃかっこいいので、皆さんも観てみてください(笑)。
劇伴は「点を線にする」仕事
─アニメの劇伴作曲家に必要な資質能力とは何でしょうか?
藤澤 積み上げていくのが好きな人がすごく向いていると思います。劇伴が1曲で完結することは絶対にありません。映像というのは「線」なので、1曲1曲の「点」をつないで、「線」にする作業が必要なんです。「線」作りは音響監督の仕事でもありますが、共通のメロディで別アレンジをしたりとか、僕らのほうでできる仕掛けもたくさんあるんですよ。「点を線にする」のが劇伴の醍醐味だと思うので、そこに興味がある人は向いていると思います。
─今後挑戦したいことは?
藤澤 アニメもそうですけど、実写も含めて映画音楽が、やりたいことのひとつですね。今年は「ノーゲーム・ノーライフ ゼロ」をやらせていただきましたが、「やっぱりおもしろいな」と思いました。もちろん監督の決断が全てですが、映画の劇伴は、設計をすごく綿密にできるのが魅力なんです。
─バンド再開のご予定は?
藤澤 ここ1年くらいで、「こういうことをやってみたいな」というのが出てきまして、バンドにつながるかわかりませんが、仕事以外の自分の音楽も細々とやっていきたいですね。
─2018年1月には、「宇宙よりも遠い場所」と「スロウスタート」が始まります。音楽的なポイントは?
藤澤 「宇宙よりも遠い場所」はマッドハウスオリジナルの青春もので、自由に作っている感じがする作品です。音楽も青春していますし、そういった空気を感じながら、物語や音楽を楽しんでいただければと思います。
「スロウスタート」はきらら作品ですが、「今までの流れとは違う」作品に仕上がっています。僕は「日常もの」にはなぜかフランス映画のイメージがあって、10代の女の子たちにちょっとだけオシャレを、背伸びをさせたいんですよね。「スロウスタート」でもそういうことを意識しているので、音楽から感じてもらえれば嬉しいです。あと、「スロウスタート」は劇伴だけじゃなく、オープニングテーマ「ne! ne! ne!」も作編曲しています。
─アニメファンの皆さんに、メッセージをお願いします!
藤澤 僕はいつも「絵の見える」音作りを心がけていますので、どこかで僕の曲を耳にしたら、絵を思い浮かべながら、聴いていただければ幸いです。
それと今後は、自分がやってきたことを1回壊して、新しいことに挑戦したいと思っています。音楽性もそうですが、考え方とか諸々を切り替えて、作品に反映させていくつもりですので、その辺りも期待していただければと思います。
●藤澤慶昌 プロフィール
作曲家、編曲家。京都の大学を卒業後、アマチュアミュージシャンを経て、2006年に作家事務所SUPA LOVEでプロデビューを果たす。2012年、ファイブエイスに移籍。ストリングスアレンジで、音を減らして効果的に聴かせることを得意とする。「ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国」(2010)や「電波女と青春男」(2011)の共同作曲で経験を積み、「ラブライブ!」(2013)の劇伴で一躍脚光を浴びる。そのほかの劇伴作品には「有頂天家族」(2013、2017)、「悪魔のリドル」(2014)、「RAIL WARS!」(2014)、「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」(2015)、「ミカグラ学園組曲」(2015)、「ゆるゆり さん☆ハイ!」(2015)、「プリンス・オブ・ストライド オルタナティブ」(2016)、「Dimension W」(2016、椎名豪さんとの共同作曲)、「バチカン奇跡調査官」(2017)、「ノーゲーム・ノーライフ ゼロ」(2017)、「宝石の国」(2017)、などがある。2018年1月からは「宇宙よりも遠い場所」と「スロウスタート」が始まり、今後の活躍にますます目が離せない。
※TVアニメ「有頂天家族2」 公式サイト
http://uchoten2-anime.com/
※TVアニメ「バチカン奇跡調査官」 公式サイト
http://kisekichosakan.jp/
※TVアニメ「宝石の国」 公式サイト
http://land-of-the-lustrous.com/
※劇場アニメ「ラブライブ!The School Idol Movie」 公式サイト
http://www.lovelive-anime.jp/otonokizaka/sp_movie_caststaff.html
※劇場アニメ「ノーゲーム・ノーライフ ゼロ」 公式サイト
http://ngnl.jp/
※TVアニメ「宇宙よりも遠い場所」 公式サイト
http://yorimoi.com/
※TVアニメ「スロウスタート」 公式サイト
http://slow-start.com/
※藤澤慶昌 ツイッター
https://twitter.com/meganebanchow
※株式会社ファイブエイス 公式HP
http://5-8.jp/
(取材・文:crepuscular)