藤澤音楽は「いなたい」
─お得意な音楽やジャンルは?
藤澤 一番得意、というか好きなのはストリングスアレンジで、音を減らして効果的に聴かせることを意識的にやっています。でも、僕はジャンルというものにとらわれるのが嫌で、変なものは変でOKだと思いたいんですよ。僕自身がすごく普通な人間なので、普通なことをやると、オーソドックスになってしまうんです。それはそれでおもしろいですけど、なるべくネジを外すようにやっています。
それと、自分でも自覚があるんですけど、僕の音はちょっと「いなたい」んです。なんていうか、なまっているんですよね(苦笑)。T-SQUAREやSnarky Puppyはタイトで都会的ですし、聴くぶんには好きなんですけど、僕がアウトプットすると、必要以上に土臭くなって、都会的じゃないんです。そういう質感みたいなのは、ほかの人にはないんじゃないかなと思っています。得意とはちょっと違うんですけども、特色にはなっているかもしれないですね。
─「有頂天家族」(2013、2017)や「宝石の国」(2017)では、そういった藤澤さんの個性が生かせたのではないでしょうか?
藤澤 「有頂天家族」は、特にそうだと思います。僕は京都の大学に通っていたんですが、京都って、街中は百貨店なんかもあって、普通に都会なんですよ。でも、ちょっと離れると、いわゆる古都らしくなって。そのハイブリッド感を音楽で表現する時、「たぬきなのに、シンセ成分が多い」とか、人がチョイスしないような音をあえて選びました。打ち合わせで聴いた参考曲にはエキセントリックなものもありまして、吉原正行監督に振り幅を作ってもらえたから、できたことでもあると思います。
─「宝石の国」の月人登場曲もユニークで、東洋神秘的な雰囲気を感じました。
藤澤 音響監督の長崎行男さんから、「ガムランなんかどう?」と提案があったのが最初です(編注:ガムランはインドネシアの民族音楽)。ガムランで使われている楽器は、西洋楽器と仕組みが違うので、キーとピッチが合わないんですよ。でも、実際に作ってみると、その不協和音がすごくおもしろかったので、ストリングスとガムランの「ミスマッチ感をマッチさせる」ことを意識した、ゆらぎを生かした曲にしてみました。不気味さと美しさと、得体の知れない感じが出せたんじゃないかと思います。
─藤澤さんの音楽が、「宝石の国」の世界観構築に果たした役割は大きいと思います。
藤澤 「宝石の国」に関しては、大変なことは大変だったんですけど、フィルムスコアリングもできて、すごくやりがいがありました。メニュー納品と違って、フィルムスコアリングは自分が思うことをそのままアウトプットできるので、もちろん監督と音響監督の演出意図を元にですけど、自分が映像に音楽をつけた感じがするんです。
─「バチカン奇跡調査官」(2017)には、パイプオルガンのミサ曲や賛美歌がありました。
藤澤 米たにヨシトモ監督がすごく具体的なメニューを上げられていて、「こういうことをしたい」という明確なビジョンが全曲にあり、そういったメニューを見たのは初めてでした。参考曲は本格的な宗教曲だったり、映画音楽だったりしたので、テンポ感とか色味とかを意識しながら、作品に落とし込んでいきました。ボーイソプラノはこれまで扱ったことがなかったんですが、いいチャレンジになりました。
─作中には映画「エクソシスト」を彷彿とさせるシーンもありました。
藤澤 そのシーンの参考曲は、まさに「エクソシスト」でした。あえて「エクソシスト」を意識して作っていることがわかるようにしつつ、「気持ち悪いオルガン」も入れて、「バチカン」用にオーダーメイドしました。
─「RAIL WARS!」(2014)の楽曲も、作品の雰囲気に大変マッチしていたと思います。
藤澤 スケジュールはタイトだったんですが(苦笑)、「ブラスをかっこよく使いたい!」と思って作りました。
「絵が見えるように」作り、「音の匂い」を感じたい
─作曲はメロディ、それとも、コードからでしょうか?
藤澤 メロディとコード、一緒に作ります。エレクトーンをやっていると、コードからになりがちですが、コードでやるとコード内で動けることに限定されちゃうんですよね。そうならないように、基本的にはテーマをはっきりさせたいので、メロディを作りながら、それにコードをあてて、「どうやったら気持ちいいかな?」と探しながら作っています。あまり展開が多くない日常曲とかだと、コード進行で作ることもありますね。
─メロディ作曲時に使用する楽器は? やはりエレクトーンで?
藤澤 ギターと鍵盤、両方使います。楽器が変わると手の動き方も違うので、出てくるメロディラインが違ってくるんですよ。
─制作環境で気をつけていることは?ヘッドフォンで集中力が変わるとか。
藤澤 ヘッドフォンをしてギターを録っていると、あっという間に2~3時間経っていたことが何回かあったんです。周りの音が遮断されて、静謐(せいひつ)の中でやっている感じになるからだと思います。いつもじゃないですけど、そうなることが多かったので、作業開始時はヘッドフォンをしています。ある一定の形までできたら、スピーカーで聴いて、「ちょっと音が多い」とか、「音が近い」とか、調整をしています。
─藤澤さん独自のルールみたいなものはございますか?
藤澤 「ある時に、他人事になるくらいまで引いてみる」、「ぼーっと考える」というのが、ある意味、僕のルールかもしれません。近くでものを見るとまわりが見えなくなるので、全体を見渡せるように俯瞰(ふかん)で見る、ということです。でないと、曲が同じになっちゃって、メロディが違ったり、コードが違ったりしても、全部一緒になっちゃうんです。ぼーっとすることと、瞬間的にフォーカスすることは意外にリンクしているんですよ。
─過去のインタビューによると、劇伴は「絵が見えるように」作るそうですね。
藤澤 アニメに登場する具体的な絵もありますが、「僕が思い描いた曲の完成形」という意味で「絵」と説明しました。「曲の全景が見えたら、あとは形にしていくだけ」と言う方もいらっしゃいますが、僕にはそれが信じられなくて(苦笑)。ごくまれに「あ、これだ!」とパッと出てくることもあるんですけど、大体はもやっとした何かがあって、それが何かを探すように曲を作っています。もやをひとつずつ取って晴らしていくか、もやっとしたものをパズルのようにはめていくか、そのどちらかが僕のやり方です。
─生演奏のこだわりは?
藤澤 明確にあります。今のサンプル音源は、パッと聴いて生演奏と判別がつかないクオリティのものも多く、もちろんそれもおもしろいんですが、僕はその日、その瞬間にしか録れない「音の匂い」が好きなんです。演奏者の個性とか体調とか、その時の湿度とか、スタジオにたまたまあったマイクとか、そういうことも含めて「楽器」だと思うんです。「イージー・ライダー」だったら、あの時のあのハーレーの音だから、いいわけじゃないですか。可能な限り、僕もそういう「音の匂い」が感じられるような録音を心がけています。
─「ミカグラ学園組曲」(2015)は、音楽ユニットLast Note.のライトノベルが原作ですが、作業上、何か違いはありましたか?
藤澤 原作は1巻ごとにLast Note.さんのテーマ曲があって、それを聞いて、「こういう世界観なのか」というのは意識しましたが、それ以外の資料があまりなかったので、悩みながら作った記憶があります。最初は「電気的な音楽が合いそうだ」という話になったので、割と振り切ってそうしたんですが、「それはちょっとやりすぎ」と止められまして(苦笑)、今の形に落とし込みました。
「ラブライブ!」制作秘話
─「宝石の国」や「ラブライブ!」(2013~15)など、京極尚彦監督とはお仕事をご一緒されることが多いようですが、打ち合わせはどのようにされているのですか?
藤澤 京極監督とは仕事を重ねてきたこともあって、打ち合わせでメニューをいただいて、2時間くらいで話をつめています。逆に言うと、その機会を失うと、自分が迷路にはまっていっちゃうので、聞けることは聞く、特に「監督がどうしたいのか」というのを拾うようにしています。監督が何を求めて、どういう画を作り、どういう空気感にしたいのか、といったことをノートやメニュー表に書きなぐって、なるべく記憶が新しいうちにまとめています。これは、どの作品でも同じですね。
あと、監督やプロデューサーは、日常会話の時に大事なキーワードをポロッと言うんですよね。だから、そこも聞き逃さないよう気をつけています。「ラブライブ!」の時も、最初は「アイドルか……」と思っていたのですが、打ち合わせで監督から「スポ根」と言われて、「ええっ!」とびっくりしました(笑)。
─メニュー曲を1曲ずつ、確認していかれるのですか?
藤澤 「ラブライブ!」1期の時は1曲ずつ監督のやりたいことと、音響監督やプロデューサーが思っていることを聞いていきました。
─「ラブライブ!」2期には「肉屋のにこちゃん」や「凛の戸惑い」など、シーン限定曲も多かったですね。
藤澤 「肉屋のにこちゃん」ははっきり覚えています(笑)。監督から「スーパーで流れるアレ」とお話があり、ME(編注:音楽と効果音を一緒に録音したもの)として作りました。2期は基本的に「単発で、ここでしか使わない」前提で作っています。脚本が上がっていたので、音響監督の長崎行男さんから「このシーンはこういうふうに曲をかけたい」と説明があったので、そのシーン専用で作りました。もちろん、その後変更になったものもありますけど。
─ダビングにも参加されますか?
藤澤 「ラブライブ!」は2期以降、スケジュール的に合わない時以外は、全てのダビングにうかがいました。劇場版の時は、アフレコにも参加しました。ダビングに行くと、効果音がどのように調整されて、音楽がどこにいるのか、すごくよくわかるんですよね。テレビでは作品として完成された形でしか確認できませんが、作っている工程だとバラバラに解体されて見えるので、すごく勉強になって、その後の曲の作り方も変えていくことができるんです。
写真やキャンプで息抜き
─息抜きですることは?
藤澤 写真は昔から、見るのも撮るのも好きです。別になんてことのないものですが、あまり考えないでできることなので、リラックスできるんです。「脳みそを止める」ことが一番大事で、映画とか観ると、動いちゃうんですよ。あと、キャンプに近いことも好きで、自然の中で焚き火をしながら、ぼーっとするのが好きですね。
─写真は風景ですか?
藤澤 風景は勉強中で、人を撮っています。「この人は、今から何を食べるんだろう?」とか、ぼーっと考えながら写真を撮っていると、リラックスできます。
─料理もされますか?
藤澤 イタリア料理やキャンプ用の仕込み料理なんかは、結構凝って作りますよ。