始まりは「週刊ストーリーランド」
─キャリアについてお尋ねします。まずは脚本家になられたご経緯をうかがえますか?
待田 子供のころからお芝居が好きで学芸会の脚本なんかも書いていましたが、それが生業になるとは思っていませんでした。大学を卒業後は、普通の企業に就職しましたし。働いていた会社がテレビドラマのスポンサーをしていて、チェックのために送られてくるドラマの脚本を読む機会がありました。毎回、それを読んでは、「なるほど、こういう展開になるのか」とか、「え〜、まさか!こんな風に!」とあれこれ勝手なことを言っているうちに、本気でシナリオを書きたいなと思うようになったんです。それからは会社に勤めつつシナリオ・センターに通い、コンクールに応募して、1999年に橋田寿賀子シナリオ新人賞を取ったのを機に、シナリオ1本でやっていくことに決めました。
─アニメ業界に入られたきっかけは?
待田 運がよかったと思うんですけど新人賞を取った直後に、日本テレビの「週刊ストーリーランド」(1999~2000)というバラエティー番組の求人がありました。10分くらいのアニメの脚本家を募集していて。とはいえ、最初から脚本が書けるわけではなく、一般の方から送られてくるアイデアの下読みをしたり、プロットを出したりしつつの日々が続き、ようやく、シナリオを書くチャンスが巡ってきました。結局、「母ちゃんの弁当箱」、「天国からのビデオレター」など、7本脚本を書きました。
当時は平行して、TVドラマのプロット書きもしていました。その時、一緒にやっていたのが、今、「おんな城主 直虎」を書かれている森下佳子さんです。とあるドラマの脚本コンペの最終で森下さんに負けて、その時は、本当にショックと同時に悔しくて、テレビ局の帰りにそのまま新幹線に乗って、実家の名古屋に帰っちゃいました。「ストーリーランド」の仕事があったので、1週間後に戻ったのですが、気づけば、ベランダに洗濯物を干したままで……(苦笑)。
─実写とアニメ両方されていたのですね。その後、アニメ専門に?
待田「ストーリーランド」が終了して、まったく仕事がなくなってしましました。せっかく何本か書いたし、アニメ制作に触れて、興味もわいていました。そこで知り合った制作会社さんに、「アニメでがんばっていこうと思います!」と片っぱしからメールを送りました。そこから声をかけていただいた会社がいくつかあって、今に至るという感じです。
─最初のTVアニメの脚本は何でしょうか?
待田 ベガエンタテイメント社長でプロデューサーの松土隆二さんに、「ふぉうちゅんドッグす」(2002~03)のお仕事をいただきました。「ストーリーランド」は10分足らずの短編アニメで、「ふぉうちゅんドッグす」で初めて30分枠のシナリオを書きました。松土さんにはいろいろ教えていただき感謝しています。
─「無敵看板娘」(2006)でシリーズ構成デビューを果たされますが、抜擢の理由は?
待田 何人かの脚本家が呼ばれ、コンペで選ばれました。
─待田さんのお好きなコメディですね。
待田 そうですね。すごく楽しかったです(笑)。
転機は「ふぉうちゅんドッグす」と「らき☆すた」
─キャリア上、転機になったお仕事は?
待田 「ふぉうちゅんドッグす」の現場で学んだことは、今でもすごく役に立っています。あと転機になったということでいえば、やっぱり「らき☆すた」(2007)ですね。「らき☆すた」では「アニメのおもしろさをどう表現するか」ということに対して、何というか、妥協なく真摯に立ち向かっていくというか、そういう姿勢を学ばせていただきました。
─アニメ脚本家に必要な資質能力とは何でしょうか?
待田 シナリオライターに限らずですけど、好奇心と探究心は必要だと思います。シナリオを書いている時にわからないことがあって調べると、どんどん引き出しが埋まっていって、それが別の仕事でも役に立ったりするので。
あとは、本読みの場は自分の書いたものを毎週、公開処刑されるようなものなので、それに耐えられる精神力が必要かもしれないですね。たとえば私の場合、自分ではギャグで書いたところを、「これ、どこがおもしろいんですか?」と真顔で尋ねられたりして、「これはですね、ここがフリで、ここがオチで、ここがフォローで、ここのところがカブセです」とこちらも真顔で説明している時には、「切ないなぁ」と心で泣いています(苦笑)。まぁ、脚本家にはナイーブな方が多くて、私自身もすごく打たれ弱いんですけど。
オリジナルアニメや舞台劇をやりたい
─今後挑戦されたいことは?
待田 オリジナル作品を書きたいです。それもゼロからのものを。
─ハリウッドのように、脚本家が企画を持ち込むというのは難しいのでしょうか?
待田 どうですかね……。「誰に持ち込むか」というのがまずあるあると思います。私自身も脚本家としてそこはやっていかなきゃいけないのかなと思い、仕事の合間にいろいろ書きためてはいます。書きたいお話はいっぱいあるし、結構、ネタは豊富になってきました(笑)。
以前、気仙沼に行った際、大漁旗をバックに筋肉隆々の漁師たちがドーンと写っている、「漁師カレンダー」というのを見かけたんですよ。そこでふと、出身地である愛知県の「はだか祭」のことを思い出しました。はだか祭は極寒の季節に、厄年の男たちが褌(ふんどし)一丁で参加するお祭りなんですが、子供のころから、「もしかして、出たくない人もいるんじゃないかな?」と思っていました。なんでしょうね、たとえば住んでいる地域とか、世襲の家業とか、「それを」やらなきゃいけない……。やるのが当たり前、みたいな環境にいる人の心境を想像しているうちに、ふと思いついたのが、「漁師の家庭に生まれたけれど、ひ弱で体を鍛えることに自信も興味もなくて、漫画を描いたりするのが好きな男の子と、漁師の家庭に生まれたわけではないけれど、漁師をやりたくて仕方がない男の子の話」です。あちこちで「漁師ものをやりたいです!」と言っているんですが、誰も乗ってこなくて……。なんなら、漁船が変形してロボットになったり、タイムマシーンになってもいいんですけど(笑)。
あと、女の子達の友情物語もすごく書きたいですね。
─活劇劇団「楽天舞隊」やアクターズユニット「PADETRE」の今後のご予定は?
待田 「楽天舞隊」は2000年ごろから数年にわたってカンフー活劇を、「PADETRE」は2010年に10か月間、コント芝居をやっていました。いずれも仕事との両立が難しくなり、今はできなくなってしまいました。戯曲を書く時間はあっても、稽古する時間がなかなか取れないんですよね……。
─待田さんはアニメ舞台の脚本も書かれていますよね。
待田 「Wake Up, Girls! 青葉の記録」、「ノブナガ・ザ・フール」(2014)朗読劇の脚本、それから「SHOW BY ROCK!!」ミュージカルのストーリー原案を書かせてもらいました。時間があれば、お芝居の脚本・演出をやってみたいと思います。歌舞伎や落語なんかも書いてみたいですね。
─監督業にご興味は?
待田 難しいですね。監督ということになると、シナリオとは違ったスキルが必要になってくるので、それを学んだうえで、やれるかやれないかという話になるかと思います。今の自分に監督ができるとは思えないですね。
─アニメファンの皆さんにメッセージをお願いいたします!
待田 漁師かどうかはさておき、死ぬまでにはオリジナル作品を実現したいなと思っていますので、その時まで見守っていただけるとうれしいです。
●待田堂子 プロフィール
脚本家、小説家、劇作家。大学卒業後、企業勤務をしながらシナリオセンター青山表参道校に通い、シナリオを学ぶ。在学中の1999年、橋田寿賀子シナリオ新人賞を受賞。「週刊ストーリーランド」をきっかけにアニメ脚本家となる。コメディを得意とするも、群像劇、ファンタジー、美少女もの、ホラー、風刺劇など、そのほかの分野でも非常に高い評価を得ている。「無敵看板娘」(2006)、「らき☆すた」(2007)、「ティアーズ・トゥ・ティアラ」(2009)、「GA 芸術科アートデザインクラス」(2009)、「おおかみかくし」(2010)、「THE IDOLM@STER」(2011)、「戦国乙女〜桃色パラドックス〜」(2011)、「棺姫のチャイカ」(2014)、「長門有希ちゃんの消失」(2015)、「SHOW BY ROCK!!」(2015~16)などのヒット作でシリーズ構成・脚本を務め、抜群の創作センスを発揮。活躍の場はアニメにとどまらず小説、漫画、実写、舞台にも及ぶ。2017年も精力的な執筆活動を展開しており、「チェインクロニクル ヘクセイタスの閃」、「ロクでなし魔術講師と禁忌教典」、「DIVE!!」、「セントールの悩み」のシリーズ構成・脚本を務める。
※TVアニメ「おおかみかくし」 公式サイト
http://www.tbs.co.jp/anime/okami/
※TVアニメ「戦国乙女〜桃色パラドックス〜」公式サイト
http://www.tv-tokyo.co.jp/anime/sengoku_otome/
※TVアニメ「棺姫のチャイカ」 公式サイト
http://s.mxtv.jp/chaika_ab/
※TVアニメ「SHOW BY ROCK!!」 公式サイト
http://showbyrock-anime.com/
※TVアニメ「チェインクロニクル ヘクセイタスの閃」 公式サイト
http://chronicle-anime.com/
※TVアニメ「ロクでなし魔術講師と禁忌教典」 公式サイト
http://rokuaka.jp/
※TVアニメ「DIVE!!」 公式サイト
http://www.dive-anime.com/
※TVアニメ「セントールの悩み」 公式サイト
http://centaur-anime.com/
※待田堂子 ツイッター
https://twitter.com/sakuribo
(取材・文:crepuscular)