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絵を描く演出家の哲学。引き出しをすべて出した作品に
── 第6話(case16 Loudly Laundry)(TV放送#07)の洗濯工場の回はシリーズ中盤のお話ですが、監督がみずからコンテを切られています。これにはどんな理由があったのでしょうか? 橘 洗濯工場の話は息抜きの話になっていて、この話数にしか出てこない女の子がいるので、その子のキャラクターをきちんと作る必要があると思ったからです。洗濯工場で働かなくてはいけない家庭の事情や、どんな気持ちで働いているのかといったバックボーンを自分で考えて、生き生きとした子どもたちを描き出したいと思っていて、それを別の方に説明しても伝わりづらいかなと思い、自分でコンテを切りました。
── 洗濯工場関係は当時の社会状況などが特に強く表れていたことが、監督が切られた理由だったのかと想像していました。 橘 工場内の間取りが複雑だったり、洗濯機のディテールとかその他の要素も含め面白そうだと思ったのが理由としてありますね。女の子たちが健気に働いている感じをうまく絵に出したいなとか。あとは借金取りのフランキーといったゲストキャラもキャラが立っている人物は、僕からラフデザインを出しています。
橘監督のキャラクターラフスケッチ、マリラ達(第7話)
橘 マリラはドロシーと被らないようにお姉さん肌を感じさせるようにしたりして、キャラクターを固めて作っていきました。僕の中では、絵が固まるときっとこういう性格だろうなとキャラクターがつかみやすくなるんです。そこで表情を描き足して、演出家にこの子はこういう子ですと伝えながら作っていきました。
── 橘監督のフィルモグラフィーを見ると演出家としてのお仕事が並んでいますが、アニメーターもされていたんですか? 橘 いえ、東映アニメーションで演出助手から始めました。学生時代はマンガ家になろうと持ち込みをしていたこともありました。結局、アニメーションや映画の監督をやりたかったので下積みをきちんとしようと思いまして、東映に入りました。そんなふうに自分で絵を勉強していたこともあり、ある程度は描けました。ただ、アニメ業界に入ってからのほうが描くスピードが速くなりましたね。僕の世代は宮崎駿さんの影響がすごく強く、僕も宮崎さんの映画を見たりメイキング映像を見て業界に入った人間なんです。メイキングでは宮崎さんはいつも絵を直していて、「これが映画をコントロールすることなのか!」と大きな勘違いをしていたものです(笑)。自分で絵を描いて直すと、そこに齟齬が生まれないというメリットがある半面、アニメーターの個性を潰してしまうデメリットもあります。僕の場合レイアウトは全部目を通して、ある程度、絵で指示したほうがやりやすいのでこうした方法を採っています。
── 監督にとってこの作品はどんな作品として位置付けられそうでしょうか? 橘 今まで自分がやってきたことを出し惜しみせず作ることができた、集大成の作品だと思っています。作品作りには予算などの制限がつきものですが、ありがたいことに、この作品はかなり自由にやらせていただいているので、非常に幸せな作り方をさせていただきました。その中で自分の引き出しを全部出してしまおうという気持ちで取り組みました。
── 最終回の締めくくりをご覧になったファンの方は続きを楽しみにしているかと思いますがいかがでしょうか? 橘 個人的な気持ちとしてはぜひとも作りたいと思っています。キャラクターがいい感じに育ってくれたので、何らかの形で皆様にお届けできればいいですね。
(取材・構成/日詰明嘉)
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