アニメーター・田中紀衣 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第12回)

2017年04月21日 18:300

「このすば2」でギャグの作画方法を見直す

 

―「この素晴らしい世界に祝福を!2」に参加することになったご経緯は?


田中 私は1度もスタジオディーンさんと仕事をしたことがなかったんですが、プロデューサーさんからお誘いのメールをいただきました。「このすば2」ではディーンに席を置いて、作業しています。


―総作監のポイントは?


田中 「このすば2」は決まりきった顔があんまりないので、アニメーターの個性が出やすい作品です。たとえば、7話のアクア様が手でカズマの顔をはたいているカットなど、表情が本当におもしろくて、ほとんどそのまま使わせていただきました。


コンテ寄りの表情になっているのも、この作品の特徴です。アニメーションにはキャラ表があって、作画監督はそれに合わせて各カットを修正するんですけど、そうなってくると金崎貴臣監督ご自身が描かれたコンテの表情からはずれていってしまいます。きれいな顔にはなっていくけれど、ニュアンス的には違った感じになるんです。


コンテとアニメーターの個性を尊重した結果、キャラ表にはない面白い表情がたくさんできたと思いますよ。


―田中さんは3、5、7、9話を担当されています。


田中 最初に入った3話は、きれいな絵ではあるんですけど、あまりはっちゃけてなくて、おとなしい感じでした。放送時には絵が整いすぎて、「『このすば』っぽくない」と言われましたね(笑)。なので、以降はそこから軌道修正しつつ、もっと表情豊かにするように意識しました。


きれいな表情とちょっと汚い表情を絶妙に混ぜ込むと、ギャップが出て面白いんです。きれいな顔が続きすぎたら退屈で、あまり省略しすぎると、手を抜いているように思われてしまう。なので、バランスを取りながら、ちゃんとした時とギャグの時の振り幅が大きくなるよう気をつけました。


今まであまり考えずにギャグの表情を描いていましたが、「このすば2」はいろいろと勉強になりました。「なぜ今、この顔をしているのか?」というのを考えて描かないと、画面からニュアンスが伝わってこないんです。菊田さんの修正を見たり、監督の指示を聞いたりして、「ギャグは積んで積んで、崩すから面白いんだ」ということを学びました。


―田中さんの話数はキャラクターが本当によく動き、生き生きとしていました。


田中 原画さんたちが表情や動きを楽しんで自由につけてくれるので、自分もそのおかげでのびのびと描かせていただきました。


―「このすば2」で印象に残ったエピソードは?


田中 キャラクターデザイナーの菊田幸一さんの絵が1期よりさらにパワーアップされていて、その変化が一番衝撃的でした。リアルタイムで菊田さんの修正を追いつつ、私自身にも何か「このすば」で表現できるものがあるだろうかと刺激になりました。「このすば2」という作品の懐の深さには本当に感服させられましたね。


―ツイッターには「このすばチロルチョコ」の画像がアップされていましたね。


田中 バレンタインに趣味で描いて、スタジオの皆さんに配っただけです(笑)。スタジオは関係なく、全部自費で作りました。塗りも自分でやっています。


―転機になったお仕事は?


田中 キャリア上の転機は、先ほどお話した「ダンボール戦機ウォーズ」の総作監です。アニメーターとしての転機は「咲-Saki-」(2009)の原画ですね。そこで感情芝居などをやらせてもらい、枚数を使っちゃったんですけど、使ってもらったのが嬉しくて、とてもやりがいを感じました。個人的に気に入っているのは、透華が従えている召使いとのラブラブなシーンです(笑)。

 

やる意味のある作品に参加したい

 

―近年、アニメーターの負担が大きくなっていると聞きます。田中さんはいかがお考えでしょうか?


田中 クオリティアップを求められているのは感じます。でも、作品数が多く、アニメーターも掛け持ちが多いので、1つの作品に割ける時間があまりありません。要求に見合う報酬が出れば掛け持ちも必要なくなるんですが、そうでない場合もあって、難しいですね。


―参加作品はどうやって決められますか?


田中 ルーチンワークにならない目新しい作品、やっていて意味があるなと思える作品、ちゃんと自分が結果を残せる作品なら、やりたいなと思います。


―アニメーターに必要な資質能力とは?


田中 向上心と発見する能力です。自分自身もそうだし、周りの仕事のこともそうだし、いろいろなことに対し何か発見できる人が、アニメーターに向いていると思います。

 

演出より撮影に興味、イラストレーターもやってみたい

 

―今後挑戦されたいことはございますか? 監督にご興味は?


田中 監督や演出的な部分も勉強したいと思いますけど、そこまで興味があるわけではありません。撮影のほうがわりと興味ありますね。


―画集の出版はいかがでしょうか?


田中 画集というより、イラストレーター的な仕事はちょっとやってみたいなと思います。


―同人活動のご予定は?


田中 今は時間がありませんが、やりたくなったら再開すると思いますよ(笑)。

―海外にご興味は?


田中 海外のアニメーションはちょくちょく観ていまして、おもしろそうなのでチャンスがあればやってみたいなと思います。


―最後に、アニメファンの皆さんにメッセージをお願いします!


田中 アニメーターという職業に興味のある人は、ぜひアニメ業界に入ってみてほしいです。実際に体験してみないとわからない楽しさもたくさんあるんで、もし迷っているなら、1回入ってみて、一緒に仕事をしてみませんか?

 

 

●田中紀衣 プロフィール
アニメーター、作画監督、総作画監督、キャラクターデザイナー。代々木アニメーション学院大阪校を卒業後、スタジオ・ワンパック入社。上京して最初はC2Cを拠点に活動、現在はスタジオディーンに席を置く。美少女作品、子供向け作品、感情芝居を得意とする。総作画監督として「ダンボール戦機ウォーズ」(2013)、「アブソリュート・デュオ」(2015)、「この素晴らしい世界に祝福を!2」(2017)に参加し、「ハンドレッド」(2016)では総作画監督だけでなく、キャラクターデザイナーも務めた。


※TVアニメ「ダンボール戦機ウォーズ」 公式サイト
http://www.tv-tokyo.co.jp/anime/lbxwars/index2.html

※TVアニメ「アブソリュート・デュオ」 公式サイト
http://absoluteduo.com/

※TVアニメ「ハンドレッド」 公式サイト
http://hundred-anime.jp/

※TVアニメ「この素晴らしい世界に祝福を!2」 公式サイト
http://konosuba.com/

※田中紀衣 個人HP
http://www.kii-nicoma.com/

※田中紀衣 ツイッター
https://twitter.com/1_tttnaka


(取材・文:crepuscular)

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