世界各地でのレコーディングをひとつに取りまとめるのは、想像を超えて大変でした
── 第2期では、マリアッチの要素はどうなったのでしょう? 横山 ギターは第1期と同じ方に入っていただきましたが、今回はマリアッチは意識しませんでした。ただ、第2期でも本編ではマリアッチ風の音楽がかかっています。ここは仁さんのうまいところで、第1期の曲をここぞというシーンで使っているんです。
── ほかに、第2期ならではの特徴をあげるとすると、何がありますか? 横山 モビルアーマー・ハシュマルの曲などに、ハンガリーのクワイアやボーイソプラノを使っています。これは、第1期でお世話になったドイツのチームを介して紹介していただいた人たちで、現地作業はお願いして、インターネットを通じたリモート・レコーディングになりました。
── 横山さんご自身は日本にいて、現地とやり取りしたんですね? 横山 そうですね。第1期の時に直接ドイツに行ってミュージシャンとコミュニケーションを取ったり、リモート・レコーディングを試したりしていたので、今回はスムーズなやり取りができました。リモート・レコーディングをうまく進めるには、一度は現地に行って直接話し合うことが大切です。それを「オルフェンズ」では身にしみて感じました。
── 「オルフェンズ」の世界におけるモビルアーマーは、神がかったメカとして描かれていました。荘厳なクワイアは合いますよね。 横山 なにしろ、ハシュマルは唯一ビームを出しますからね(笑)。もともとのガンダムのイメージにあった荘厳、壮大な音楽をここでやることができました。
── 第2期はギャラルホルン側のキャラクターが増えて、そちらに付ける音楽も多くなっていますよね。 横山 ギャラルホルンとして特徴的なのは、セブンスターズのために作った曲ですね。これは完全にクラシックです。ヨーロッパの人たちにとっては自分のフィールドなので、これに関しては向こうに強みがありました。曲を渡したら、「こういうことをやりたいのか。わかるよ、好きだよ」と(笑)。日本のコンポーザーが得意としているのは、世界のいろいろな音楽を解釈して、うまく混ぜていくということだと思っています。しかし、純粋にひとつのジャンルを突き詰めるなら、その土地の人たちのほうが当然、優位ですよね。適材適所で制作ができたと思います。セブンスターズの曲には、ボーイソプラノを使ったものもあります。
── ボーイソプラノの子は、どんな子なんですか? 横山 ハンガリー人の男の子です。実はガンダムで歌ってくれた子はもう 声代わりしてしまって、後日別のレコーディングをお願いしようとしたところ、「もうあのボーイは難しい」と現地のスタッフに言われました。
── ボーイソプラノを出せる期間は限られています。今はもうなくなってしまった声が、「オルフェンズ」のサントラには残されているということですね。 横山 ボーイソプラノの魅力は、まさにそこですね。貴重な存在だと思います。
── DISC-2の1曲目「The Soul of Orphans」にもボーイソプラノが使われていますが、この曲には歌詞がついていました。 横山 造語です。これも、ヨーロッパのスタッフが考えてくれました。日本人が考える造語とは感覚がまったく違うので、勉強になりました。この曲はメインテーマのアレンジで、どんどん鉄華団が追い詰められていく悲壮感を表現しています。
── ストーリーが進むごとに悲壮感が増していったので、第2期のサントラは全体的に重厚な印象がありました。 横山 第1期から第2期へと進む中で、音楽的にもストーリーをうまく組み立てることができたと思っています。
── それにしても、参加ミュージシャンがワールドワイドですよね。 横山 オーケストラとクワイアはドイツとハンガリー、ブラスはニューヨーク、ギターやストリングス、木管アンサンブルは日本。ミックスまで含めるとロサンゼルスでの作業も入ってきます。
── 作業の取りまとめは、大変だったのではないでしょうか? 横山 それはもう。現地に行ったり、何百通とメールのやり取りをしたり。時差もありましたが、ぼくは日本では極端に夜型の生活なので、そこは有利でしたね(笑)。プロダクションの方法が日本とは違うので、日本でいつもやっているやり方をお願いしても、「それはちょっと違う」という反応になって、結局は向こうのやり方に合わせることになるんです。でも、やってみると、その合理性が理解できて。ミュージシャンの感性からプロダクションまで、土地土地の違いをつかんだうえで、どうやってそれを曲に落とし込んでいくのか、というのが、コンポーザーに試されるところだと思います。でも、こういった事は珍しくもなく、当たり前になっているとも思います。どれだけ、これらを効果的に曲として表現できるか、が大切です。
── 「オルフェンズ」のサントラの作業を終えて、今、どのようなお気持ちですか? 横山 大変でしたが、なんとか最後までやり遂げることができました。とにかく、いろいろな実験をやらせていただけたのが幸せでしたね。今までやってきた仕事の中で、こんなことをやってみたいという種がいっぱい溜まっていて、それを「オルフェンズ」ですべて実らせることができたという感覚です。新たな課題も見つかったので、それを発展させて、次の仕事へと繋げていきたいですね。
── 今やられている仕事は? 横山 TVアニメ「Fate/Apocrypha」の音楽を進めています。ルーマニアが舞台なので、偶然にも繋がって。
── すごいリンクですね! 横山 もちろん音楽的には「オルフェンズ」と同じということはなく、あちらはあちらでいろいろなアイデアを仕込んで制作していますので、そちらも楽しみにして頂きたいです。
横山克 プロフィール
よこやま まさる/1982年生まれ。国立音楽大学卒業。作曲・編曲家
映画、ドラマ、アニメなど、映像音楽を中心に、ポップスなども手がける。音楽を担当したアニメ作品に、「四月は君の嘘」、「迷家-マヨイガ-」、「クズの本懐」など。2017年夏スタートの「Fate/Apocrypha」でも、音楽を担当する。
映画、ドラマなどの実写作品では、「ちはやふる」(映画)、「リバース」、「砂の塔~知りすぎた隣人」(TVドラマ)などがある。ももいろクローバーZ、バニラビーンズ、イヤホンズ、ロッカジャポニカ、ときめき宣伝部への楽曲提供も。
■「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズOriginal Sound Tracks II」
レーベル:ランティス
2017年3月29日発売
3,500円(税別)
〈収録曲〉
DISC-1
01. Crescent Moon - Mobile Suit Gundam : Iron-Blooded Orphans 2
02. RAGE OF DUST (TVsize)/SPYAIR(作詞:MOMIKEN/作曲:UZ)
03. Upstart
04. Brave Figure
05. Tenderfeet
06. The Decision as Family
07. Gallop
08. Assault Waves
09. Suite of the Seven Stars
10. Battle of the Seven Stars
11. Next Stage
12. Distorted Thought
13. The Lord
14. Revenge of the Faithful
15. Secret Maneuvers
16. The Battle for Death
17. Face the Reality
18. Our Home
19. Thank you, Mika
20. No One Knows
21. Eschatology
22. Last Extremity
23. Fatigue and Rest
24. At the End of Sorrow
25. Standing on the Edge of the Cliff
26. Hashmal - The Legend of the Calamity War
27. Prove Myself
28. 少年の果て (TVsize)/GRANRODEO(作詞:谷山紀章/作曲:飯塚昌明)
DISC-2
01. The Soul of Orphans
02. Fighter (TVsize)/KANA-BOON(作詞・作曲:谷口鮪)
03. Daily Life of the Tekkadan
04. The Power of Unity
05. The Life in My Hands
06. Peace and Relief
07. Move Forward
08. Feel Free
09. Flower in Bloom
10. Distress
11. Confliction
12. Betrayal
13. Remake
14. Ein System
15. The Dignity of Lords
16. Last Stand
17. Trust in Orga
18. The Path to the End
19. Cry for the Moon
20. In a Fury
21. All Out
22. Signs of Victory
23. Period
24. One Way
25. Withered Flowers
26. フリージア (TVsize)/Uru(作詞:Uru/作曲:岩見直明)
27. Crescent Moon - Mobile Suit Gundam : Iron-Blooded Orphans 2 - Piano Solo
(取材・文/鈴木隆詩)
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