浦上靖夫さんとの思い出
―キャリア上、転機となったお仕事は?
松尾 転機というか、大きかったのはやはり「レイアース」になりますね。最初というのもありますし、音響監督の浦上靖夫先生との思い出が強く印象に残っているのもあります。
アニメでは音楽が割と細かく編集されて、ちょっとしか使われないことが多いのですが、浦上先生は3分ぐらいの戦闘曲である「大乱戦」をまるまる使ってくださったりとか、非常に斬新な使い方をされていて、とても感激しました。
もちろん、シーンが変わるので細切れになるのは仕方のないことですが、長い曲をまるごと使うというのは、やはり書いたほうとしては嬉しいですし、それが効果的に使われていたので、すごく驚いた記憶がありますね。
―技術革新で制作環境も大きく変わったと思います。
松尾 アニメも昔は譜面で書いて、生で弾いていただくというのが中心だったのですが、コンピューターの発達により打ち込みでも結構いい音が出るようになって、今はシンセでやるのがメインになってきていますね。
ゲームはもっと大きな変化がありまして、昔は内蔵音源というのがありまして、パート数も音色数も発音方式も非常に限られていました。ファミリーコンピュータであれば3声+1、PCゲームやスーパーファミコンでは6声しか使えず、昔はゲーム音楽というと、サウンドのことを示していたんですよ。
たとえば、スーファミだとバイオリンの音をサンプリングしなければなりませんでした。「オウガバトル」ではメモリーが限られている中でオーケストラをやろうとしたので、あっちを立てればこっちが立たずの状態で大変でした。バイオリンもトランペットもホルンもとサンプリングしていくと、どんどん波形が小さくなってしまうんです。
1991年に発売された「マスターオブモンスターズ」はメガドライブでFM音源でしたが、こちらも8声ぐらいしか使えず、苦労しました。崎元くんに実機の打ち込みをお願いして、毎日彼の家に行っては、いかにオケっぽくするか、いかに低音を出すかとあーだこーだ話し合っていた記憶があります。
今はゲームも進化してストリーム再生が中心になり、要するにアニメと変わらない普通の音楽になっていて、制作過程も同じになっています。なので、聞いただけではアニメ音楽なのかゲーム音楽なのかわからなくなって、壁がなくなってきています。昔のゲームはサウンドが特徴的だったわけですが、今は曲そのもので世界観を表したりするようになりました。ストリームなので楽は楽なのですが、ほかの音楽と同じになってきているので、その分特徴を出すというのが非常に難しくなっていますね。
いろんな曲を聴き、分析する能力
―アニメやゲームの作曲・編曲に必要な資質能力とは何でしょうか?
松尾 月並みですけども、まずいろんな曲を聴くというのが大切です。ゲーム音楽にあこがれてゲーム音楽ばかり聴いていると、それを超えられないというか、たぶんそこまで至らないと思うんです。
たとえば10の曲を書くのであれば、15の技術と知識がないと10の曲は書けないんです。そういった意味で、いろんな音楽を聴いて知識とか引き出しを増やす必要がありますね。特に昔のゲームは限られたハードだけでしたが、今は垣根がなくなっているので、いろんな音楽を聴いておかないと、勝負できないと思います。
それともうひとつ大切だと思うのは、音楽を分析する能力です。「この曲好きだ」ということで終わりにするのではなくて、「なんでこの曲が好きなのか?」、「どこがいいと思ったのか?」といったことを細かくどんどん分析していくと、「ここがいい」と思った瞬間が見つかり、自分のものになっていきます。
仕事になると突然、「ハワイアンを書いてください」とか、「ケルトミュージックを書いてください」とか、「演歌を書いてください」とか、やったことのない音楽を求められることが結構あるんです。その際、「こういうことをやれば、こういう音楽になるんだ」というのを短期間で習得しなくてはいけないので、そういった意味でも分析能力は重要になってくると思いますね。私は今でも初めてのことが結構あります(笑)。
―今後挑戦されたいことはございますか?バンドや吹奏楽など音楽をテーマにしたアニメ作品もありますが、そういった作品にご興味は?
松尾 こういうのはめぐり合わせですので、お話が来れば、どんなことでもやりたいなと思っています。音楽アニメも試みとしてはとても面白いですね。
あと挑戦という意味では、苦手なフレット楽器を弾けるようになりたいと思っています。生演奏でギターが弾けるようになればいいですね(笑)。
―コンサートはいかがでしょうか?
松尾 人前で演奏するスキルはありません。友達の結婚式で弾くくらいが関の山です(笑)。
―最後に、アニメファンの皆さんにメッセージをお願いします!
松尾 アニメというのは作画、シナリオ、演出、声優さんの演技、音楽などの総合的な作品です。最初はやはり絵や声優さんの演技に注目されると思うのですが、何度も観る時には、音楽のことも少し気にして観ていただけると嬉しいなと思います。
●松尾早人 プロフィール
作曲家、編曲家。東京芸術大学音楽学部作曲科卒業後、フリーを経て、イマジン入社。1990年代から現在に至るまで、アニメとゲームの最前線で作品に求められるすぐれた楽曲を提供し続けている。アニメの代表作としては「魔法騎士レイアース」(1994)、「怪盗セイント・テール」(1995)、「黄金勇者ゴルドラン」(1995)、「強殖装甲ガイバー」(2005)、「HELLSING」(2006)、「神のみぞ知るセカイ」(2010~11、13)、「ジョジョの奇妙な冒険」(2012、Part1)、「ドリフターズ」(2016、ただし石井妥師さんとの共作)、「競女!!!!!!!!」(2016)などがある。特撮の「仮面ライダー555」(2003)では、TVシリーズと劇場版の劇伴を手掛けた。ゲームやアニメのオーケストラ・コンサートのための編曲作品も数多くあり、アニメでは「涼宮ハルヒの弦奏」(2009)の「God knows...」や「ガールズ&パンツァー オーケストラ・コンサート」(2015)の「DreamRiser」などをアレンジしている。
※TVアニメ「神のみぞ知るセカイ」 公式サイト
http://kaminomi.jp/
※TVアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」(Part1 ファントムブラッド・Part2 戦闘潮流) 公式サイト
http://jojo-animation.com/fb_bt/
※TVアニメ「ドリフターズ」 公式サイト
http://www.nbcuni.co.jp/rondorobe/anime/drifters/
※TVアニメ「競女!!!!!!!!」 公式サイト
http://keijollllllll.com/
※松尾早人 プロフィール(株式会社イマジン 公式HPより)
http://www.imagine-music.co.jp/artist/matsuo/
(取材・文:crepuscular)