「神のみ」では登場人物ごとにテーマ曲
─「神のみぞ知るセカイ」(2010~11、13)では3期にわたり音楽を担当されています。どのようなことを意識して作曲されましたか?
松尾 本作は次から次へと魅力的な女の子が登場しますので、女の子ごとにテーマを変えて作曲しました。オケでドカンというよりは小編成のピアノ曲や室内楽にして、それぞれのキャラクターを表現できるよう工夫しました。
─「月を愛でる小さき少女」は教会音楽を彷彿とさせる、荘厳な感じのオルガン曲に仕上がっていますね。
松尾 比較的こちらにまかされていましたので、どういったサウンドが合うかというのは、こちらで考えていました。
─「女神攻略」などは、女の子のテーマ曲とはサウンドが大きく違っていますね。
松尾 主人公の桂馬が中心になっている時と女の子が中心になっている時とでサウンドを分けよう、というお話がありました。女の子のほうはピアノやバイオリンといった生楽器を中心にした室内楽になるのですが、桂馬の時にはリズムものとかシンセといった、バンド系のサウンドにしています。
「女神攻略」は音響監督の岩浪さんから、「こういう時はリズムが複雑な感じがいいな」というお話もあったので、それでちょっと混沌としたプログレっぽい感じになっています。
「ジョジョ」は時代背景を意識
─TVアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」では、第1部「ファントムブラッド」(2012)の劇伴をされています。どのような点に注目して作曲されたのでしょうか?
松尾 原作では19世紀のイギリスが主な舞台になっていますので、音楽もそういった感じにしたいと思いました。この時代にシンセサイザーは当然ありませんので、必然的にオーケストラ中心となるわけです。もちろん、古い時代だからといってシンセを使ってはいけないということはありません。しかし、ファーストシーズンなのであまり奇をてらったこともできず、オーソドックスにオーケストラで作曲しました。お話も暗めで登場人物も悲惨な目に合いますので、暗めで重厚な感じになっています。
─「仙道使い」はプログレ調の楽曲ですね。
松尾 音響監督の岩浪さんから「ここはプログレでどうですか?」とご提案いただきました。「ジョジョ」や「神のみ」に限らず、ほかの作品でも時々プログレが入っていますよ。
─本作ではジョジョとディオという、2人のメインキャラクターがバトルをします。戦闘曲を作るにあたってイメージされたことは?
松尾 戦闘がものすごくダイナミックで、人と人が戦うだけでなく、建物が壊れ、火事になったりもして、スケールもかなり大きいですよね。なので、それに対応した形で大きいサイズの、壮大なアクションオーケストラを書きました。
「競女!!!!!!!!」は美少女よりもスポーツを重視
―2016には「競女!!!!!!!!」にも参加されています。音楽のポイントをお聞かせいただけますか?
松尾 最初に資料をいただいた時、「『競女』とは何ですか?」と尋ねたら「スポーツものですよ」と返ってきたので、「何のスポーツですか?」とさらに聞いたら「尻相撲です」と説明されました。野球やサッカーであれば、試合のシーンやテンポ感も想像がつくのですが、尻相撲と言われてもですね、これがわからないんですね(笑)。
その後、原作を読んで打ち合わせに臨んだわけですが、髙橋秀弥監督から「真面目なスポ根をやりたい」とお話があったんです。それならやりようがあるなと思いまして、女の子ばっかりなんですけども、美少女よりもスポーツということを重視して、割と硬派で骨太のスポ根の曲にしています。
―主人公たちは水の上で戦うわけですが、作曲で水を意識されたことは?
松尾 柔道場のようなひとつのステージが決まっていて、その上で戦うということになるので、特に水を意識したということはないですね。ただ、戦闘シーンに関しては絵コンテもすでにいただいていて、衝突シーンがド派手になるのは目に見えていたので、戦闘シーンの曲は結構派手に作らせてもらいました。
―「神のみ」のように女の子ごとのテーマ曲というのはございますか?
松尾 この作品は登場人物がものすごく多く、テーマ曲を作るとイメージが分散して印象に残らなくなってしまうんです。なので、キャラクターのテーマ曲はのぞみとさやかくらいにして、あとは場面や心情といったものに合わせて曲作りをしました。
―第7話ではのぞみがお尻でカブを引っこ抜く訓練をしていて、そこで松尾さんのドラマチックな音楽が流れていましたね。
松尾 一見するとコミカルなシーンなんですが、あの劇の中では真剣なんですよ。なので、あそこで不真面目なコミカルなものをやってしまうと、カブを抜くことに自分の成長のヒントが隠されているというのが希薄になってしまうので、真面目な音楽でということになるわけです。
―アニメ1期はプロ編の前で終わりましたが、もし2期のお話があったらいかがですか?
松尾 やってみたいですね。本当に続編を作ってほしいと思っています。