「レイアース」で劇伴デビュー
─キャリアについてお尋ねします。松尾さんは最初からアニメ・ゲーム業界をご志望だったのでしょうか?
松尾 大学在学中は特に何も考えずに過ごしていましたが、友人がバイトでゲームの作曲をしていて、「ちょっとやってみない?」と誘われて、私もゲーム音楽をやるようになりました。そういったことの延長で始まったのが、アニメの劇伴になります。来たものを断らずにやり続けていたら、こうなった感じです(笑)。仕事にするつもりはなかったのですが、もともと「宇宙戦艦ヤマト」や映画の劇伴が好きだったこともあり、すんなり受け入れたというのはありますね。
─現在所属されているイマジンさんでお仕事を始められたのは、いつ頃でしょうか?
松尾 「魔法騎士レイアース」(1994)を始めた直後です。それまではフリーでやっていました。
─「レイアース」が初めての劇伴のお仕事でしょうか?
松尾 単独で作曲したのはこの作品が初めてになります。すぎやまこういち先生にご紹介いただき、担当することになりました。すべてが初めての経験で、期間もあまりなかったので、苦労した記憶がありますね。生オケで数曲やっているのですが、自分の作曲で譜面まで書いて、弾いていただくといった作業も始めてだったので、印象深い作品です。
─「レイアース」作曲時のポイントは?
松尾 登場人物には女性が多いのですが、いわゆる美少女キャラとは違った骨太な感じでしたので、そっちに傾かないようにしていた記憶があります。いろんな音楽のジャンルがありますが、ファンタジーとかああいった世界観のものは得意なほうだったので、やりやすかったですね。私は昔からゲームがすごく好きでして、「レイアース」も非常にゲームっぽい展開をするので、そういった意味でも助かりました。
初めての特撮
─「仮面ライダー555」(2003~04)では特撮の劇伴も作曲されました。ご感想をうかがえますか?
松尾 仮面ライダーというとヒーロー作品という意識があり、「かっこよく、スカッと」という感じのオーダーが来るだろうと思っていました。ところが、プロデューサーさんや音響監督さんとの打ち合わせに行ってみると、「これはヒーロー作品というより現実の厳しさを教える、シリアスで暗い作品なんです」というようなお話があって、「今の仮面ライダーはこういうものなんだ」と非常にびっくりしました。
特撮で暴れる部分は後半しかなくて、ほとんどが人間ドラマなんです。人間の醜い部分であったりとか、子供向けの作品なのに、大人でも楽しめるようになっているんです。それと、カメラの位置が常に数メートルと近いので、「大演奏のオーケストラでドカーン」というのが合わないんですよね。ですので、そういった人間ドラマや距離感を重視しながら、少しソリッドな感じで曲を書きました。
─個々の楽曲はどのような発注があったのでしょうか?
松尾 発注される監督さんによりけりですね。たとえば、「これは戦闘なんだけども、ちょっと劣勢に立っている」とか、「劣勢に立っているけども、後半で優勢に立つ」とか、細かい説明がある場合もあれば、「戦闘1234567でお願いします」と来る監督さんもいらっしゃいました。
─変身シーンの作曲のポイントは?
松尾 唯一ヒーローっぽいところなので、ここだけはあまり深刻にならないように作った記憶があります。過去の変身曲も聴きましたが、あまり似てもしょうがないので、適度な感じで参考にしました。