コンセプトはイデオン×ひみつ道具? サンライズ・矢立文庫が贈る“動かないロボもの”「バシレイオン」の魅力に迫る

2017年03月16日 12:000

※本コンテンツはアキバ総研が制作した独自コンテンツです。また本コンテンツでは掲載するECサイト等から購入実績などに基づいて手数料をいただくことがあります。

「機動戦士ガンダム」「装甲騎兵ボトムズ」など多くの名作・ヒット作を生み出してきたアニメーション制作会社・サンライズが運営するWebサイト「矢立文庫」(http://www.yatate.net/)。そんなロボットアニメファン注目のサイトで連載中の小説「メゾン・ド・アームズ バシレイオン」は、頭部がごく普通の2階建て住宅という変わったデザインのロボット・バシレイオンが登場する作品だ。

以前、矢立文庫・河口編集長へのインタビューした際に「動かないロボもの」として予告されていた本作。その予告どおり、現在(2017年3月16日時点)までに劇中で立ち上がったのは一度だけという、そのロボットものにあるまじき“動かなさ”ぶりが読者の間で話題となっている。
サンライズがWebサイト「矢立文庫」を運営するわけとは? 「矢立文庫」編集長・河口佳高に聞く【前編】

今回はそんな個性的な本作誕生の経緯、そしてその魅力について、本作のプロデューサーであり矢立文庫編集長でもある河口佳高さんと、著者であるジョージ クープマンさんにインタビューを行った。

ひみつ道具×「伝説巨神イデオン」=バシレイオン!? 
“動かないロボもの”はなぜ生まれたのか


──本当にロボが動かない「メゾン・ド・アームズ バシレイオン」。たいへんユニークな企画ですが、こちらの企画が生まれた経緯についてまずは教えてください。


河口佳高(以下、河口) 企画の始まりは2010年ごろですね。サンライズはよくロボットアニメを制作しているんですけど……、ロボットを動かすのって大変なんですよ(笑)。現場のアニメーターさんからはドンドン不満が出てくるし、いろいろと辛い思いもしたので、いっそ「動かないロボット」が登場する、でも面白いロボットアニメができないかな、と思ったのが「バシレイオン」誕生のきっかけですね。
あと、ロボットものをやるのであればロボットがお話しのど真ん中にある話をやりたいな、という思いがありました。


──「ど真ん中」というのはどういった意味でしょうか?


河口 昔のロボットアニメって、ロボットがお話の真ん中にあったと思うんです。まずすごいパワーをもったロボットが1体あって、それに乗った主人公が敵をやっつける。主人公が強いというより“すごいロボットに乗れるから強い”という理屈ですよね。
これが変わったのは「機動戦士ガンダム」以降で、ロボットは量産されていて敵にも味方にも存在していて、それに乗るパイロットの能力がすごいという作品が主流になりました。最近サンライズで作るロボットアニメも基本的にはこういった「ガンダム」風の作品が多い。そんな流れの中で、原点回帰としてロボットの存在を中心にドカンとすえた作品をやりたいな、と。


──そのふたつの理由が合わさって、「バシレイオン」の企画ができ上がったわけですね。


河口 ただ、いろいろやっている途中で気づいたんですけど、ロボットものとしてはダメですよね。アニメをやってもスポンサーなんて絶対つかない(笑)


ジョージ クープマン(以下、クープマン) だってこれ、ロボットものじゃないですよね(笑)。ロボットものというか“家もの”ですよ。


河口 そうそう(笑)。矢立文庫のコンセプトは「サンライズの企画のお蔵出し」ですが、そういう意味では「バシレイオン」はその蔵にも入ってなかった企画ですね。ただ私は矢立文庫編集長でもあるので、自分でもなんかひとつぐらいやっとかないとまずいかなー、と。そこで、この「バシレイオン」を小説として復活させることにしました。

──執筆は、今回この「バシレイオン」で初めて小説を書くことになるジョージ クープマンさんです。ジョージ クープマンさんに依頼されることになった理由を教えてください。


河口 「バシレイオン」はそういったちょっとひねった作品なので、誰にお願いしようかな、と考えていたんです。そこで、とあるシナリオライターに相談したところ、演劇をやっているジョージ クープマンさんを紹介してもらって。ジョージ クープマンさんは自身で脚本を書いて自分で演じているんですが、その演劇がちょっとひねくれていて面白かったんですよ。なので、ぜひこの人に書いてもらおうと思いました。

──小説執筆の依頼が来たとき、いかがでしたか?


クープマン 脚本のほうでいろいろ行き詰っていたのでいい機会だな、と。ブレイクスルーというか、ものづくりを新しい角度から改めて考え直すチャンスだと思いましたね。


──実際に小説にチャレンジした感想を教えてください。


クープマン 困ったのはとにかく「戦わせるな」「動かすな」という河口さんからの指示ですよね。立ち上がらせようとすると「まだ立たせないでくれ」、いくら動かないロボっていっても途中1回ぐらいは戦うでしょう?と聞いたら「いえ、戦いません」と(笑)。


河口 まぁ、そんなやり取りをへて第6回でめでたく立ち上がりましたけどね(笑)。とにかく、主人公である露島真世が外に出て、コンビニに買い物にいくのが大きな冒険になるような、そんな物語にしたかったんです。


クープマン 逆に、ロボットものとしては変な話ですけど、もはや「戦っていいですよ」っていわれても何していいのかわからないです。書いていて面白いのは確かですけど。


──ちなみに舞台が今(2017年3月中旬)話題の中央卸売市場ですよね。


河口 僕はもうちょっと山がちというか、起伏のある場所のイメージだったんですけどね。


クープマン 別に何かメッセージ性を込めたかったわけではなく、土地勘があったので舞台を豊洲っぽいところにしました(笑)。


河口 でも結果的にすごくいいイメージになったと思います。鈴木さんに描いてもらったメインビジュアルもいい雰囲気です。

鈴木雅久さんによるメインビジュアル。夕暮れの中たたずむバシレオンが印象的な詩情(?)あふれる1枚


クープマン 河川敷で巨大ロボットが体育座りしているとか、すごい絵ですよね(笑)。


──頭部がごく普通の2階建て住宅という、特徴的なデザインのバシレイオンですが、このデザインについて教えてください。


河口 メカデザインは鈴木雅久さんです。小説「ARIEL」のイラストなどを担当されているベテランで、ほかの作品の企画書を読んだときに、すごくエッジの効いたシャープなロボットをデザインしているのが印象に残っていて、今回お願いしました。
頭を家にしたのは……鈴木さんのアイデアですね。もともとのコンセプトというか、アイデアの元となったのは、とある有名マンガに登場する「ひみつ道具」ですね。腰につけるカタツムリの殻のようなひみつ道具なんですけど、中は広くて快適で、シェルターみたいに安全という。僕はあの道具がすごく好きなんです(笑)。

 

同じくサンライズ制作のロボットアニメ「伝説巨神イデオン」に登場するイデオンをイメージしたというバシレイオン。頭部は2階建住宅の形状をしており、主人公・真世はここで暮らす


あと、デザイン面ではひと目見たときの無敵感が欲しかったので、鈴木さんには「イデオンのイメージを取り入れてください」とお願いをしました。下から見上げたときの迫力、直線的なデザイン、カラーリングはイデオンから取り入れたエッセンスですね。バシレイオンは作中で動かないので、やはり見た瞬間に「強い」とわかるのは大事なんです。

クープマン デザインからすでに無駄に強そうですよね(笑)。あと、河口さんからアイデアを頂戴した搭載武器も全部必殺兵器ばっかりなんですよ。物語中で使用しかけたプラズマ兵器「焼き尽くし光線」とか、こちらは実際に使いましたけど「床ドンシステム」とか……。あと地球破壊爆弾みたいなものもあるんですけど、戦略兵器ばかりで戦術兵器がない。


河口 基本的にバシレイオンの武装は“抑止力”なんですよ。これだけの兵器をもっているから攻撃してこないでね、という。


クープマン なので、バシレイオンが戦うとそこで物語が終わってしまうという。主人公機がそういうロボットなので、戦うのは主に人間ですよね。引きこもりの主人公がコンビニいったり、トンカツソースを買いにいったり、ヒロインがバイト先でいじめられたり。作品紹介では「出会いとバトルのスラップスティックストーリー、ここにブートアップ」となっていますが、戦うのがロボットだとは言ってない(笑)


──そういう意味では、本作はキャラクター同士の会話や心理描写が面白い作品ですよね。


河口 作中では、深いテーマや重い話はやらなくてもいいというお願いはしていて。とにかく登場人物の会話が面白ければそれでいいというコンセプトですね。


(C)サンライズ

画像一覧

ログイン/会員登録をしてこのニュースにコメントしよう!

※記事中に記載の税込価格については記事掲載時のものとなります。税率の変更にともない、変更される場合がありますのでご注意ください。

関連記事