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作品のテーマとは別に「自分が作品をつくるためのテーマ」が必要
──そうは言っても、「ひるね姫」には、社会のインフラだとか大人たちの事情だとか、これまでの神山作品のエッセンスが散りばめられていますよね。 神山 そういう要素をなくしてしまうと、僕が撮る意味がないと、周囲に言ってもらえました。それも、ありがたかったです。
──「ひるね姫」は女子高生の森川ココネが主役ですが、いまの女子高生たちを応援したいという気持ちはありますか? 神山 不景気だとか未来は暗いとか言っても、いまの女子高生たちは、少なくとも僕よりはハッピーだと思うんです。僕が勝手に「かわいそう」と思っていた人たちも、僕より全然ハッピーかも知れない……と、考え方が変わりました。そのうえで「あなたたちが気づけなくて、僕たちオジサンに気づけることもあるかもよ?」といった具合に、立ち位置をいままでと変えて、(年齢的に)ちょっと自分の視線を下げて、新しい角度からアプローチしてみました。若い人を「救ってあげよう」ではなく、僕自身が救われることもあるだろうから、そのお返しをしたい気持ちが強いです。
──その変化には、50代に入った神山監督の、精神的なことも作用していますか? 神山 アニメ監督には、40代の壁と50代の壁があると思います。あれだけいた同世代の監督もだいぶ減ってしまった中、まだ僕がアニメ監督でいられることは幸運です。それと同時に、50代で作品をつくるには、“なり”でつくってはいけないとも感じています。
──“なりゆき任せ”の“なり”ですね。
神山 僕の心の師である押井守監督は「そんなのはくだらん、自分の思ったように撮るべきだ」とおっしゃっていたので、人によるとは思います。その押井監督も、最近は「俺ほどしっかり、周囲のオーダーに応えている監督はいない」だとか、ちょっと変わってきたみたいですけど(笑)。
──押井監督は「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」(2008年)のとき、「娘と会ったことが大きい」とおっしゃっていました。当時の押井監督は50代後半でしたし、アニメ作品と監督の家族構成、年齢は、意外と密接に関係しているのでは? 神山 映画のテーマとは別に、自分が映画をつくるためのテーマが必要で、両者をまったく無関係にすることは不可能なんじゃないかと思っています。自分の心理状態と、作品の制作状況との関係性にあらがうか、100パーセント乗るのか、そのどちらかしか選択肢はないと思います。「映画監督はサービス業だ」と割り切ったとしても、作品をつくるためのテーマ、動機は必要なんです。逆に、職業監督として、メシを食うためだけに監督している人がいるとしたら、それこそ天才でしょう。
押井監督も、映画をつくる根拠を失っている時期があったように感じていました。庵野秀明監督とは何度かお食事させてもらいましたが、やっぱり消耗してしまうことがあったようです。どうして、庵野監督は僕を「シン・ゴジラ」(2016年)に呼んでくれたんだろう?と、不思議に思っていました(神山監督は企画協力として参加)。宮崎駿監督と一緒に被災地を回ったそうなので、庵野監督なりに希望が見つかったのかなと思いました。「この国には、まだ捨てたものではない大人たちがいるんだ」と思えたからこそ、「シン・ゴジラ」をつくれたのではないでしょうか。逆に、僕は希望を見出せない時期だったので、庵野監督のお役には立てなかった気がします。
──つまり、「なぜ自分は映画をつくるのか」、そのテーマを見つけないと難しいわけですね? 神山 やりたい企画があっても、自分の気持ちと合致しないことがあるんだ、という経験をした数年間でした。どんな監督でも、気持ちが噛み合わないまま作品をつくることはあるんじゃないかな……と勝手に思って、自分の力に換えているんですが(笑)。
──「ひるね姫」は、いかがですか? 神山 やっぱり、手探りではありました。だけど、つくっているうちに楽しくなってきた。半信半疑でスタートしたけれど、実在しないはずのハッピーな女子高生を描いているうちに、自分もエネルギーをもらえたというか。やはり、自分が楽しくないと、見てくれる人たちにも伝わらないと思うんです。
──「ひるね姫」の作画監督は佐々木敦子さんですが、やはり女性が描くと違うんですか? 神山 もちろん人によりますが、佐々木さんの場合、男の描き手が女性キャラに求めてしまう不謹慎な部分や毒気がなくて、そこがいいんです。
──他にも、黄瀬和哉さんも作画監督ですし、安藤雅司さん、井上俊之さん、西尾鉄也さん……と、そうそうたる作画陣ですね。 神山 ええ、僕のキャリアの中でも豪華なメンバーに集まってもらえました。厳密にいうと、描く人によって絵柄は違うのですが、各アニメーターの個性を、うまく丸めてくれるキャラクター・デザインなんだと思います(キャラ原案は森川聡子さん)。
──「009 RE:CYBORG」のように、3DCGでやろうとは考えませんでしたか? 神山 求められるものと制作状況のなかで最善の選択をしようとすると、「ひるね姫」は作画でやるのが最適でした。今回はデジタル作画(原画から動画までペンタブレットによる作画)ですが、アニメーションの制作状況が厳しくなって、いままでのつくり方が通用しなくなっているのは事実です。だからといって、疲弊して終わるのではなく、「ひるね姫」をつくる以上、スタジオにもお土産を残したい。3DCGと手描きをつなぐためのチェーンとして、今回はデジタルで作画しています。ペンタブレットで作画するうえで、どういうソフトがあるのか、3Dとの相性はいいのか探ってみて、すこしだけ進展がありました。アニメ業界のインフラが硬直化しているなか、そこを変えることで、もう少し外部からお金が入ってくるようにできないだろうか。そんなプロデューサー的なことを考えはじめたのも、年齢が関係しているのかも知れません。
──すると、「ひるね姫」によって、モチベーションが上がったのではありませんか? 神山 モチベーションは上がりましたね。道がひらけたというか、向こうに明るいものが見えてきた気がしています。
(取材・文/廣田恵介)
(C) 2017 ひるね姫製作委員会