片渕須直監督と僕ら観客とで探す“アニメーション映画の居場所”

2016年12月17日 11:000

※本コンテンツはアキバ総研が制作した独自コンテンツです。また本コンテンツでは掲載するECサイト等から購入実績などに基づいて手数料をいただくことがあります。

アニメ映画は、制作に2~3年もかかってしまう


──最近は深夜アニメの劇場版か、アニメファンを狙い撃ちにした企画がほとんどですよね。日々の生活や歴史をリアルに描いたアニメ作品は、途切れてしまう予感がします。

片渕 いえ、そうした作品も、傾向としては残るでしょう。だけど、お客さんを集められないようでは困ってしまう。「この世界の片隅に」によって、日々の生活を描きこんだアニメーション作品が何とか支えられて、同じ路線でもう一押し、二押し踏みこんだ作品が出てきてくれればうれしいです。この手の地味な作品は、小さなテリトリーの中でつくられ、少数の人に見られてきたに過ぎませんでした。だけど、もう少し外側にテリトリーを拡大していかないと、アニメーション文化自体が行き詰まってしまう。ここから先、いかにして外側へ広げるかが重要なんです。

──では、「この世界の片隅に」以降のテーマは、テリトリーの拡大ですね。

片渕 難しいですね(笑)。「マイマイ新子と千年の魔法」と「この世界の片隅に」を比べると、「この世界の片隅に」では、高年齢層の発掘ができてるんです。だけど、次回作も引きつづき高年齢層に見てもらえるかというと、それは無理でしょう。高年齢層のお客さんが「この手のアニメーションは面白いんだな」と次の作品を待っていても、制作に3年もかかってしまっては、あまり意味がないように思います。

──新海誠監督は、「君の名は。」のおかげで、次回作でも大ヒットを期待されてしまっていますね。

片渕 新海監督の場合、次回作はまったく違うテイストの作品を自由につくれたら、一番いいんじゃないでしょうか。そのうえで、何本か並んで存在している映画のうち、一部が似たような傾向を示していれば、“ジャンル”として認められるはずなんです。だけど、いまは単発の映画が1本ずつバラバラに公開されているだけですよね。劇場アニメーションの制作に2~3年かかるというスパンの長さも、確実に影響していると思いますし……。


──大ヒットする作品は年に1本あってほしいけど、それとは違う傾向の作品がゆるやかに公開されていれば、アニメーション文化も広がっていくと思うんです。

片渕 そう、ゆるやかにね。かつて撮影所システムが生きていてころは、実写映画も含めると、毎月毎週、すごい数の邦画がつくられて公開されていたじゃないですか。その頃と比べると、少なくともアニメーション映画は、2~3年に1本しかつくれないわけです。そんなペースで公開されること自体、希少価値です。

──制作本数が少ないから、失敗が許されない。

片渕 そうなんですよ(笑)。それと、映画1本がペイするには、かなりの集客が必要であることは、間違いないんです。「36万人も見てくれた」と聞くと、もちろんうれしいんだけれど、制作費のモトはとれないわけです。ああ、難しいなあ……。

──なかには「この世界の片隅に」は1,800円でも安い、もっとお金を払ってもいいという方もいらっしゃいますよ。

片渕 すべての映画について、「もっと払ってもいい」と思っていただけるとありがたいんです。今より入場料金が下がって、多くの人が頻繁に映画を見にいってくれたほうが、映画業界全体は豊かになると思うんです。

画像一覧

関連作品

この世界の片隅に

この世界の片隅に

上映開始日: 2016年11月12日   制作会社: MAPPA
キャスト: のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓、小山剛志、津田真澄、京田尚子、佐々木望、塩田朋子
(C) こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

マイマイ新子と千年の魔法

マイマイ新子と千年の魔法

上映開始日: 2009年11月21日   制作会社: マッドハウス
キャスト: 福田麻由子、水沢奈子、森迫永依、本上まなみ
(C) 2009 原作:髙樹のぶ子・マガジンハウス/「マイマイ新子」製作委員会

アリーテ姫

アリーテ姫

上映開始日: 2001年7月21日   制作会社: STUDIO4℃
キャスト: 桑島法子、小山剛志、高山みなみ、沼田祐介、こおろぎさとみ、佐々木優子
(C) 2000. アリーテ製作委員会

ログイン/会員登録をしてこのニュースにコメントしよう!

※記事中に記載の税込価格については記事掲載時のものとなります。税率の変更にともない、変更される場合がありますのでご注意ください。