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アニメ映画は、制作に2~3年もかかってしまう
──最近は深夜アニメの劇場版か、アニメファンを狙い撃ちにした企画がほとんどですよね。日々の生活や歴史をリアルに描いたアニメ作品は、途切れてしまう予感がします。 片渕 いえ、そうした作品も、傾向としては残るでしょう。だけど、お客さんを集められないようでは困ってしまう。「この世界の片隅に」によって、日々の生活を描きこんだアニメーション作品が何とか支えられて、同じ路線でもう一押し、二押し踏みこんだ作品が出てきてくれればうれしいです。この手の地味な作品は、小さなテリトリーの中でつくられ、少数の人に見られてきたに過ぎませんでした。だけど、もう少し外側にテリトリーを拡大していかないと、アニメーション文化自体が行き詰まってしまう。ここから先、いかにして外側へ広げるかが重要なんです。
──では、「この世界の片隅に」以降のテーマは、テリトリーの拡大ですね。 片渕 難しいですね(笑)。「マイマイ新子と千年の魔法」と「この世界の片隅に」を比べると、「この世界の片隅に」では、高年齢層の発掘ができてるんです。だけど、次回作も引きつづき高年齢層に見てもらえるかというと、それは無理でしょう。高年齢層のお客さんが「この手のアニメーションは面白いんだな」と次の作品を待っていても、制作に3年もかかってしまっては、あまり意味がないように思います。
──新海誠監督は、「君の名は。」のおかげで、次回作でも大ヒットを期待されてしまっていますね。 片渕 新海監督の場合、次回作はまったく違うテイストの作品を自由につくれたら、一番いいんじゃないでしょうか。そのうえで、何本か並んで存在している映画のうち、一部が似たような傾向を示していれば、“ジャンル”として認められるはずなんです。だけど、いまは単発の映画が1本ずつバラバラに公開されているだけですよね。劇場アニメーションの制作に2~3年かかるというスパンの長さも、確実に影響していると思いますし……。
──大ヒットする作品は年に1本あってほしいけど、それとは違う傾向の作品がゆるやかに公開されていれば、アニメーション文化も広がっていくと思うんです。 片渕 そう、ゆるやかにね。かつて撮影所システムが生きていてころは、実写映画も含めると、毎月毎週、すごい数の邦画がつくられて公開されていたじゃないですか。その頃と比べると、少なくともアニメーション映画は、2~3年に1本しかつくれないわけです。そんなペースで公開されること自体、希少価値です。
──制作本数が少ないから、失敗が許されない。 片渕 そうなんですよ(笑)。それと、映画1本がペイするには、かなりの集客が必要であることは、間違いないんです。「36万人も見てくれた」と聞くと、もちろんうれしいんだけれど、制作費のモトはとれないわけです。ああ、難しいなあ……。
──なかには「この世界の片隅に」は1,800円でも安い、もっとお金を払ってもいいという方もいらっしゃいますよ。 片渕 すべての映画について、「もっと払ってもいい」と思っていただけるとありがたいんです。今より入場料金が下がって、多くの人が頻繁に映画を見にいってくれたほうが、映画業界全体は豊かになると思うんです。