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“主流”から外れたアニメーション映画たち
──「マイマイ新子と千年の魔法」は、ファーストランが松竹系38館でのロードショー公開で、累計の動員数が2万4012人でした。「この世界の片隅に」は、11月26日と27日の2日間だけで、4万4048人も動員しています(累計では36万人)。 片渕 「マイマイ新子~」は、ファーストランでの興行収入は全体の60%です。残りの40%はセカンドラン以降、座席数の少ない、小さな独立系の映画館で稼いだわけです。つまり、ほそぼそと長く上映することに意味がある。「この世界の片隅に」で、配給を東京テアトルにお願いしたのは、「マイマイ新子~」での経験があったからです。「座席数は多くなくていいから、長く上映していれば広がるんじゃないか」という自分たちの期待値の最大限を、ちょっと上回るような状況になっていますね。
──すると、企画のときから「これぐらいのスケール感で公開しよう」と想定はしていたわけですね? 片渕 もっと少ない館数、全国30館もあれば……という気持ちでした。「この世界の片隅に」は全国63スクリーンで公開がはじまりましたけど、「大丈夫かな?」と思いました。実際、すべての映画館が満席というわけではなくて、地方の映画館は苦戦されたんじゃないでしょうか。都市部でも、テアトル新宿、立川シネマシティ、テアトル梅田などに集中する傾向がありますよね。そういう面では、「マイマイ新子~」のとき、ラピュタ阿佐ヶ谷の単館レイトショーだけは全回満席だった、あの雰囲気に近いように感じています。
──たとえば、「ガールズ&パンツァー」はソフトが発売されたにもかかわらず、昨年11月から今年11月まで映画館にファンが殺到し、1年をこえるロングランとなりました。こうした興行の動きが、今後さらに重要になっていく気がするのですが? 片渕 そうですね、ライブコンサートに近い感覚で、映画が見られるようになってきていますね。
──そうした潮流の中で「この世界の片隅に」は、今後どうなっていくと思いますか?
片渕 どこへどう収束していくのか、まだわかりません。1月に入ってからは、さらに映画館が拡大するのですが、お客さんの流れがどう変わるのか、気になっています。興行上のテコ入れも必要なので、僕の1月のスケジュールも、ほぼ埋まってきています。
──いま、毎日のように舞台挨拶、取材、トークショーに休みなく対応なさっていますが、どんな感触をお持ちですか? 片渕 クラウドファンディングのことを、いまだによく聞かれます。公開後なのに映画の中身ではなく、製作方法を質問される。もうひとつ、映画冒頭近くの中島本町の再現度について質問されることが多いです。だけど、中島本町から話題を広げるのは、僕が公開前に決めていたことなんです。公開後になっても、まだこちらの仕掛けたレールから、話題が広がっていかない(笑)。それはやはり、映画の中身を言語化しづらいことの、直接的なあらわれかもしれません。
──つっこんだインタビューは少ないということですか? 片渕 そうですね。内容に踏みこんだ質問は、もうちょっと映画が普及してからでないと出てこないと思うんですが、問題は「じゃあ、それはいつ頃なの?」(笑)。おそらく、来年の春以降なんでしょうね。
──昨年夏、「アキバ総研」でインタビューしたとき、「ユンカース・カム・ヒア」や「ジョバンニの島」のように、「いい作品なんだけど地味でお客を呼べない」ジャンルに収まってしまうとまずい、とおっしゃっていましたね? 片渕 いや、「まずい」ということではなくて、そうした映画たちが、丸ごと浮上すべきだと思うんです。よほどのトピックスがないかぎり、良質の作品が一般に認識されにくくなっているとしたら、アニメーション文化の発展に際して、きわめて難しい状況なのではないか。「この世界の片隅に」は、クラウドファンティングが起爆剤となってブレイクスルーをもたらしたわけです。だけど、それ以前の問題として、絵コンテができていて、中身がきちんと伝わっても、「……だけどなあ」と、スポンサーに二の足を踏まれてしまった。その「……だけどなあ」という躊躇は、たんなる懸念ではなくて、事実にもとづいている。現在のアニメーションの主流から、やや外れたところにある作品群が、「マイマイ新子と千年の魔法」を筆頭に、たいした実績を残せていないからです。そのセオリーを、「この世界の片隅に」で少しでも動かせるのであれば、公開した意味はあると思います。