プロとアマチュアの垣根はもはや存在しない
─細居さんとは、ご自身の同人サークル「松風工房」でもご一緒されていますね。
中村 松風工房は6人のメンバーでやっていますが、現在は細居さんのイラスト集制作がメインになっています。細居さんはご自分で宣伝などはされないので、告知などとまとめ役が僕の担当ですね。僕らのサークルは、昔から同人活動をしてきたというのではなくて、いい歳の人たちがあるとき思い立って始めたというのが、変わってる点かもしれないです。
活動を始める前から、細居さんは「イラストを描くお仕事をしてみたかった」とおっしゃってましたし、僕も学生時代に小説を書こうとして、書ききれなかったという経験がありました。そこで、細居さんから「自分がイラストを描くようになったら、中村さんは小説を書きましょう」と提案していただいて。細居さんはできていますが、僕はまだできていないので、やれたらいいなと思い・・・、実は今やっております(笑)。
─同人活動のご感想は?
中村 松風工房で勉強になったことはたくさんあります。イベントなどで、買いに来られるお客さんと直接ふれることは、それだけでもすごく大きな経験なんです。僕らはふだん机に向かって作業していて、お客の顔がイメージできないところがあると思うんですよ。言葉にするのは簡単な話なんですが、これだけはやってみないとわからなかったことだなと思います。
僕は特に「コミティア」が好きなのですが、イベントに行くたびに、新たなエネルギーをもらっています。松風工房を始めた時に相談したのは、「僕らは一応プロとして仕事をしているわけだから、同人だからという言い訳では作らないようにしよう。自分たちの作品として胸を張れるものをつくろう」といったことでしたが、今となってはコミティアに参加する皆さんが、商業で出版される質を上回るものを作っているようにさえ感じますね。クリエイティブに関して言えば、「プロとアマチュアの垣根はもはや存在しない」と思っています。
僕らが10代~20代前半のころに、どんなに調べようと思ってもわからなかった創作活動の過程が、今はその気さえあれば、ネットを通していくらでも調べられるようになったのも、大きいでしょうね。表現する、ということに対する感覚のスタートが全然変わってきていて、近い将来に自主制作のオリジナルアニメが、今までよりももっとたくさん、次々と出てきてもおかしくないなと感じています。
─キャリア上、転機になったお仕事はございますか?
中村 1作1作が転機です。僕はかけもちができない性格で、1作1作、集中して取り組むというスタイルでしか仕事ができないんです。なので、1本1本、作る中で自分は変わってきているし、それをほかの人から見たときには、「成長している」と伝わればいいなと思っています。自分にはわからないことなので。
─アニメーション監督に求められる資質能力とは何でしょうか?
中村 これはほかにインタビューを受けた皆さんが何をおっしゃるのか、すごく興味がありますね(笑)。僕は総論で言いますが、監督にはあまりにも多くの能力が求められるので、すべての能力を兼ね備えている人なんて、ひとりも存在しません。
その中で、自分の得意分野を持つことが必要だと思います。それは1人ひとりすべての人が違うので、他人に指図されるのではなく、かならず自分が決めなければいけません。また、自分が不得意だと感じる部分は、自分とイメージを共有して、表現してくれる仲間とチームを組み、また初めて仕事をする相手の場合にも、ていねいに伝えていこうとする気持ちが大切です。