アニメーション監督・中村亮介　ロングインタビュー！（アニメ・ゲームの“中の人”第7回）

3Dでやる時は、3Dの特性を引き出した作品を作りたい

─3Dアニメにご関心はないのでしょうか？

中村　僕は演出家なので、3Dは3Dで面白いと思う部分がたくさんあります。ハリウッドの3Dアニメを観ると、3Dならではの特性を存分に演出に生かしています。今日までに日本で作られてきた3D作品は、まだ演出上そこまでの経験値をつめていないのではないでしょうか。2Dのためのカット割りが、単にキャラが3Dに置き換わっているだけの場合などは、ちょっとがっかりしてしまいます。

ハリウッドのようにリッチでなくても、3Dの特性を別の形で引き出した作品は作れそうな気がしてまして。最近だと、「ズートピア」（2016）には衝撃を受けましたが、もし自分が3D作品にたずさわることがあったときは、3Dならではの特性を存分に生かした作品作りを、自分なりにしてみたいですね。それはシナリオ面からすでに発想が変わります。

─2Dも3Dも、それぞれの特性を生かしたアニメを作りたいというわけですね。

中村　そうです。「ねらわれた学園」は2Dをわざと強めに意識したところもありまして、つぶしたり、伸ばしたりという表現を多めに取り入れています。小黒祐一郎さんには「『ど根性ガエル』みたい」だと言われましたけど（笑）、そうした表現を3Dがあまり得意としていない分野だと、当時は思っていました。でも、今の3Dはそうしたことも得意になってきていて・・・、別に戦っているわけではないのですが、やはり表現する人間としては、表現の可能性の進歩には自覚的でいたいなとは思っています。

─「魍魎の匣」で採用された「撮影ボードシステム」とは何でしょうか？

中村　美術監督はシーンごとに美術ボードを描いて、背景の方向性を決めるわけですが、それと同じことを撮影でもやりました。

シーン単位で撮影の方向性を決めるテスト撮をして、そこで決めたことはタイムシートに書かなくても反映され、それ以外のカット固有の撮影処理だけをタイムシートに書くというやり方です。撮影ボードは「AfterEffects」で作られて、コンポジションデータになっていますから、それを皆さんでコピペすればすぐに共有できるわけですし。実際はカットごとの調整が必要なのですが、ざっくり言うとこういう話です。

今となっては、大半のアニメ現場がこうしたやり方を採って、撮影表現の統一をはかっていると思うのですが、当時はまだ誰もやっていなかったし、撮影ボードという言葉もなかったので、僕が監督になった際にはそうしました。

─監督はご自身の作品において、スタッフの選定はどのようにされていますか？

中村　前の仕事でよかった方は、基本的に次もお願いするというのを自分の考えにしています。その人の仕事がよかったという気持ちを伝えるのに、一番は、またお願いすることだと思うからです。もちろん別の仕事が入っていたり、スケジュールが合わない場合もありますね。

同じポジションで一番長くお願いしているのは、美術の金子英俊さんと撮影の五十嵐慎一さんです。お2人には「魍魎の匣」の時からずっとお願いしています。細居美恵子さんも「魍魎の匣」では総作監に入ってもらってます。細居さんとの最初のお仕事は「逆境無頼カイジ」（2007～08）で、社内から「鉄骨渡り（第13～14話）は中盤の山場なので、僕と荒木君に頼みたい」という話で。僕が13話で、その作画監督が細居さんで、一緒にお仕事をして、なるほどたしかにこの話数のために呼ばれるだけの人だなと感じました。めちゃくちゃパワフルで、「これはすごいな」と。

その次に監督した「青い文学」シリーズの「走れメロス」(2009)は、「魍魎の匣」で全体のバランスをとることを重視していた自分が、ガチで2話分のコンテ演出を隅々までやってみたいという作品だったので、そのガチに付き合っていただける細居さんに、初めてキャラクターデザインをお願いしました。その後、「ねらわれた学園」や「グリムガル」でも引き続きお願いしています。