アニメーション監督・中村亮介 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第7回)

2016年12月03日 08:000

育児期間を経て、監督デビュー


─「MONSTER」終了から「DEATH NOTE」開始までの2年間、育児をされていたとのことですが、お仕事は休まれていたのですか?


中村 自宅で絵コンテを描いていました。僕と妻は共働きなのですが、相談して、彼女がフルタイムで働き、僕が子育てや家事をメインでしつつ、家事の隙間や夜中に、ほそぼそと絵コンテを描くという生活を送っていました。


─アニメ業界で男性の方が育児休暇を取るというのは、めずらしいことではないでしょうか?そのころ、どういったお気持ちでいらしたのですか?


中村 めずらしいというか、当時はほぼないと思います(笑)。ポジティブにとられることもなくて、あの人は出世をあきらめたんだな、残念だな、みたいな空気でした。
演出としてある程度こなれたころではあったのですが、監督をやっていくイメージが湧かなかった時期でもありました。気づけば業界に入って5、6年が経過してまして。この仕事をこれからも続けていくつもりなのか、がむしゃらに頑張るだけでなくて、人生のペースをスローダウンして考えてみたかったんです。


僕は地位に対する欲求が薄めで、目の前の仕事が面白ければ、それで満足という気分が今もあります。監督になりたくてアニメ業界にきたものの、自分が求めていた充実感が、監督という仕事の中にしかないものなのか、わからなくなってしまったんですね。それくらい各話演出や助監督といった仕事に、面白さを感じてもいたんです。リーダーよりもフォロー役のほうが性格的に合っていると感じていたのもあります。


それと、僕は同世代では早めに結婚したほうで、余裕があって子育てしているわけではなかったので、妻が働きに出られる環境作りが必要でもあったんですね。監督をやったらそれもむずかしい。そんな気持ちで、まだ言葉もうまく話せない幼い息子を見ていたら、仕事に明け暮れるうちに気づいたら息子が大きくなっていた、ということにだけはなりたくないなと。そう思うと矢も楯もたまらなくなってしまって。今思えば、少し気持ちが疲れていたのかもしれません。


丸山さんからは「育児で半分業界を離れるというような人間には、今後監督の仕事はふれない」といった趣旨の話がありましたけれども、その時の僕には、それはどうでもよかった。幼い息子と濃密に過ごした2年あまりの時間は、僕の人生の中では何にもかえられない、かけがえのない時間だったと今でも思います。


─とはいえ、2008年には「魍魎の匣(もうりょうのはこ)」で監督デビューされましたね。


中村 どなたかはわかりませんが、「中村に監督をやらせてみたい」と丸山さんに言ってくださったのだと思いますね。丸山さん発でなかったのは確かだと思います。監督と言われてもすぐにはピンとこなかったのですが、2年あまりの間に気持ちの疲れが取れたのもあって、自分なりの監督のありようが、イメージできる気がしてきたんです。その時に、3年早く監督をやらなくてよかったなと思いました。


─初監督のご感想は?


中村 監督をやった時に助かったのは、小島さんにずっと付いていた日々に学んだことでした。小島さんはよく言うと任せてくれる方で、悪く言えば僕にどんどん仕事が回ってくるのですが(笑)、監督の仕事で自分がやったことのない作業というのがほぼなかったんです。唯一やったことがないのが、シナリオライターに脚本を発注する作業だったのですが、それも僕は発注される立場で経験していたので。なので「初めてのことばかりで、監督の仕事が不安だ」と思うことはありませんでした。取材対応くらいじゃないですかね、初めてのことは。


─最初からおひとりで、監督業をそつなくこなされたということですか?


中村 引き受ける前に、同期の荒木哲郎くんにだけは相談しました。彼からは「今まで各話演出として納得いくまでやりきれていたのが、監督だと100しかキャパがないところに400ぐらいの仕事が来るイメージで、自分の稼働時間をいくら長くして必死に200ぐらいこなしても、残りの200は指の隙間からこぼれ落ちていく。それに耐えながら見守る仕事だ」みたいな話があったと思います。


なので「魍魎の匣」の時は、なるべく自分が各話の負担を引き受けすぎないようにして、パンクしないことに気を配りました。事前に荒木くんの話が聞けて、よかったと思います。


─その後も自己管理を徹底したスタイルで監督を?


中村 逆にパンクするまでやってみようと思った仕事もありまして、「ねらわれた学園」(2012)はそうですね。最後のパートはついに自分ひとりではやりきれなくなって、その時も荒木くんが手伝ってくれました。


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  • 中村亮介監督

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