アニメーション監督・中村亮介 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第7回)

2016年12月03日 08:000

マッドハウスで演出、脚本、原画を学ぶ


─中村監督は東京大学をご卒業後、1999年にマッドハウスに入社されています。最初からアニメ業界をご希望でしたか?


中村 アニメーションを観るようになったのは、大学2年生ごろからです。今ではめずらしいと思いますが、「あまりテレビを観てはいけない」家だったので。居間のテレビは基本的にいつも消えてましたし、ごはん時に観るなんてもってのほかで。昔はときどきそういう家があったんです。だからといって不満もなくて、テレビ以外のことにたくさん没頭して、自分なりに楽しくすごしてきたつもりです。アニメだけでなくて、単に世の中にあるテレビ番組をよく知らなかったんです。


だから、同世代の作家が観てきているようなアニメを知らない。これは今となっては、自分にとっていい面も悪い面もありまして。今さら自分の過去を変えるわけにもいきませんし、自分の特徴として生かしていけばいいことだと思っています。


少し後ろ向きな言い方をしますけれども、僕は大学を卒業するまでに自分が何をやっていきたいのか、決まっていなかったと思います。なので、アニメ業界に意気込んで来たというよりは、正直なところ「長続きしないかもしれないけれど、とりあえず3年間、どんなところか見てみようかな」という気持ちでした。


こんなにも淡い動機でこの業界に来た人間が、今もこうしてアニメの仕事を続けていられるのは、たくさんの良い出会いに恵まれたからだと思っています。


─「スポーツライター」に憧れた時期もあったそうですね。


中村 今でも「Number」とかで書きたいなと思うことはありますよ(笑)。もしオファーをいただいたら、その時は何をおいても書こうとするんじゃないですかね。
ライターの中でもスポーツライターって「脚色する」、別の言い方をすれば「演出する」部分が大きい仕事だと思うんです。今思えば、若いころから書くことについても、演出に興味があったのかもしれません。


スポーツ選手って、実人生以外に、選手人生があるじゃないですか。その選手人生の中には、実人生以上に濃密に凝縮されたドラマがあって。若いころの自分は、そこに魅せられていたと思うんですよ。


今となっては、あざとい演出って好きではなくて、もっと自然体を好むように自分も変わってきましたが、若いころにそうしたライティングが、読むのも書くのも好きだったという気持ちは、何歳になっても残るもののように思います。


─スポーツと言えば、「バッテリー」(2016)エンディングの絵コンテ・演出もされていますね。


中村 「バッテリー」は児童文学であり、大好きな作品でもあるので、関わることができて本当に光栄に思っています。


─マッドハウスさんを選ばれた理由は?


中村 児童文学のサークルで一緒だった、平山理志くんが「マッドハウスが面白そうじゃないか」と言うのを聞いて。思い入れがなかった分、気軽な気持ちで決められたというのはありますね。


当時のマッドハウスでは浅香守生さんが20代で監督をやっておられるというような話も聞いた覚えがあって、だから演出になりやすい的な趣旨だったように思いますが、浅香さんみたいな天才と比べて、今思えば無茶な話だなと思ったりしますけれども(笑)。


─監督のブログでは、小島正幸監督を「師匠」と呼ばれていますね。


中村 僕は制作進行としてマッドハウスに入社したのですが、最初の仕事が小島監督の「MASTERキートン」(1998~99)だったんです。その時から小島作品とはご縁がありまして、初演出は西村聡監督の「はじめの一歩」(2000~02)ですが、その後の「花田少年史」(2002~03)では最多の5本の演出をやらせてもらいました。1本ごとに上達していく感覚があって、気持ちが充実していたと思います。


「アニメの演出とは何なのか」について、小島さんから学んだ部分は大きいと思います。表現を難解にしたり、エキセントリックな編集をしたり、極端なレンズを選ぶことが演出ではなくて、素直に、正直に、ストレートに、人間を掘り下げて、世界と物語に奥行きを生み出すこと。演出の、王道の基本と呼ぶべきことですね。それを若いうちに学べたのは、本当に幸運だったと思うんです。


教わるというのは学校で授業を受けるのとは違います。一緒に仕事をする中でいろいろ質問をしたり、小島さんの技術を研究して、僕が勝手に自分のものにするわけです。昔の言い方だと「盗む」と言います。ですので、小島さんに「師匠」と言っても、「俺、何もしてないよ」みたいなことを言いそうですが、アニメ業界での師匠と弟子とはそういうものだと思ってまして。僕と小島さんは、アニメ業界では最近ではちょっとめずらしいくらいの、典型的な師匠と弟子だと思いますよ。

 

─キャリアのスタート時期から、脚本も書かれていますね。


中村 入った直後は絵がまったく描けなかったので、当時社長だった丸山正雄さんや浦畑達彦さんからは「脚本家になるべきだ」と言われていました。演出になってからもしばらくは脚本の道に戻されそうになったり。浦畑さんのシリーズ構成の下、30本以上は書きました。もっとかな。演出の勉強になったとは思います。


─原画を描かれることもあるみたいですが、独学ですか?


中村 独学ですね(笑)。母校の大先輩でもある高畑勲監督が「監督は絵を描かない仕事」と何かのインタビューでおっしゃっていたので、うっかり真に受けてアニメ業界にきてしまったのが僕ですが、マッドハウスの演出家はとにかく絵がうまいんです。それは衝撃でした。


理由としては多分、当時のマッドハウスが川尻善昭監督を「理想の演出家」としていたのもあると思います。別に「川尻さんのように仕事すべし」と言われたことはありません。でもアニメーターが演出に求めることを総合していくと、そういう意味にしかならないんですよ。


アニメーターに伝えるために「言葉じゃなく、絵で説明する」ことを徹底させていたんです。だから僕も演出をやるうえで、絵を描かざるをえなくて。だから当時は「これはすぐクビになるだろう、自分でもそう思う」という感じでした(笑)。


でも不思議なもので、1日に何十枚と描いていれば、少しずつ上達していくんですね。一番大事なことは、うまくなろうという気持ちなのだとも思ったりします。


幸運だったのは、僕の演出回で何度かアニメーターの濱田邦彦さんに、作画監督として入っていただいたことです。最初は「MONSTER」(2004~05)の第29話で、その時は僕がいくら描いても、全修になりました。直されたのを見て「なるほど、こうすればいいんだ」と。で、すかさずコピーして(笑)。あとからも何度も見て研究するわけです。僕には絵の才能はないですが、研究するのが好きだったので、こんな場面で生きたと思います。こうして技術を少しずつ盗んでいくわけですね。


僕は芝居の肝でひと工夫加えるのが好きでして。たとえば「電話の受話器を取る」という芝居を演出した際、原画マンの芝居も十分によかったんですが、自分なりにひと手間加えたんですね。それが濱田さんのところに行ったら、倍くらいの原画枚数になってて、しかもめちゃくちゃカッコいい。そして動きの中に、これまでに見たことがないような何か、演技の上での、アニメータ―の特徴のようなものを感じたんです。


デッサンであったり、パースであったりといった技術は、どんな絵描きにも共通する要素ですが、すぐれたアニメーターはさらに「その人ならではの、その人にしか表現できない何か」を、動きとタイミングに持っているものです。それを初めて体験したのが、この話数での濱田さんの仕事で。それは受話器のカット以外にも、本当にたくさんあったんですよ。で、そう感じたらすかさずコピーすると(笑)。


それ以来、別の作品でも「あ、今の動きは濱田さんだ」とわかるようになってしまいまして。特に手の動きには特徴があるんです。だから、アニメーターということに限ると、一番勉強させていただいたのは濱田さんということになります。そして、ご本人に、教えた意識はまったくないとおっしゃるのも、きっと小島さんと同じだろうと思います。

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