サンライズがWebサイト「矢立文庫」を運営するわけとは? 「矢立文庫」編集長・河口佳高に聞く【前編】

2016年12月06日 12:000

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「機動戦士ガンダム」「装甲騎兵ボトムズ」といったロボットアニメをはじめとして、400を超えるさまざまなジャンルのアニメ作品を世に送り出してきた株式会社サンライズ。日本のアニメ業界を代表する制作会社として、世界中のアニメファンから親しまれている。

そんな同社が2016年夏より運営しているWebサイト「矢立文庫」(http://www.yatate.net/)では、「装甲騎兵ボトムズ」や、「勇者王ガオガイガー」「ベターマン」、「ゼーガペイン」といったファンにはおなじみのサンライズ作品の外伝ストーリーなど、さまざまなコンテンツを積極的に展開中だ。

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いったい矢立文庫とは何なのか? アニメファンにとって気になる存在「矢立文庫」について、編集長である河口佳高さんにお話をうかがった。

サンライズが運営する「矢立文庫」について編集長に聞く


──まずは矢立文庫のコンセプトについて教えてください。


河口佳高(以下、河口) まずキーワードとして「サンライズの企画のお蔵出し」というのがあります。サンライズ社内には出番を待っている企画書がたくさんあるんです。そういった企画を一度みなさんの前にお蔵出ししてみようというのがひとつのコンセプトですね。
また最近はオリジナルアニメを作ることが難しい環境になってきていて、マーケティングだなんだと考えるとどうしても“狭い”企画になってしまうことも増えています。そういった中で、サンライズとして「こういう作品を作りたいな」「こういう作品があったら面白いんじゃない」と、提案できる場所を作れれば、という思いもあって。そんなところから、矢立文庫というサイトを立ち上げることになりました。

──いつごろからそういったサイトをつくろうという企画が動き始めたのでしょうか?


河口 アイデアが出たのは1年ぐらい前ですね。編集経験なんてない、これまでアニメの企画や制作ばかりやってきた人たちが集まって、どういったサイトにするのか、作品のラインアップをどうするのか、マンガがいいのか小説がいいのか・・・・・・と、考えていました。でも、そんな段階だったのに2016年春に社内で「矢立文庫」が夏にスタートすると発表されちゃったんです(笑)。

──そう聞くと、かなりタイトなスケジュールだったんですね。

 
河口 さすがに大丈夫か? 間に合うのか? とメンバー皆が思いつつもラインアップをいろいろと決めていきました。6月ぐらいまではそんな感じで、8月のサンライズフェスティバル2016で告知をスタートして、9月頭にプレオープン、本オープンが9月末・・・・・・と、皆があきらめずにがんばってくれたおかげでなんとかなりました。
アニメ業界的にいえば9月は“夏”ですからセーフということで(笑)。


──(笑)。そうやって生まれた矢立文庫ですが、サイトのメインターゲットについて教えてください。


河口 基本的には今放送している作品も、過去の作品も含めて“サンライズの作品を観てくれている方”がひとつのターゲットですね。かつて観ていたアニメで「新しく何かが始まったらしい」とか「好きだったあの作品の続きってどうなったんだろう」と思って来てもらえればいいなと思っています。そういう流れなので、1980年代からは「装甲騎兵ボトムズ」、1990年代は「勇者王ガオガイガー」と「ベターマン」、2000年代は「ゼーガペイン」と、それぞれの世代から作品を登場させていますね。


──作品のラインアップを見るとだいたい30~40代がメインターゲットなのかな、と感じていました。


河口 今、編集部員的な立場で参加しているメンバーがサンライズの企画担当だったり、プロモーション担当だったり、プロデューサーだったりするのですが、30~40代のメンバー中心なので、過去の企画の掘り起こし系やメカ物といった“重い”企画が多くなっています。そういう意味では、若干ターゲットの年齢層は上めな感じになっているのは確かです。
現在連載中の「ミレニアムソーン」はその典型ですね。こちらは既存の企画書を基にした連載ですが、“ヘビー”サンライズ的なテイストで、メカもすごくカッコイイので、最近のサンライズに物足りないコアなファンの皆さんにも気に入ってもらえたらと思います。

 


──たしかにこの雰囲気にシビれるものを感じるアニメファンは多そうですね。


河口 もちろん、できれば今後はもっと新しいファン層も増やしていきたいと考えていて、新人作家のクゲアキラさんの「はるかの星」や、若い世代に人気のある大川ぶくぶさんの4コママンガ「IPポリス つづきちゃん」はそういった若い方に読んでほしいと考えてラインアップに加えた作品です。

 

 


──こちらはどちらも過去の企画ではなく、矢立文庫のため新しく企画された作品なんですね。


河口 はい。そして矢立文庫では今後もそういった若い人向けの作品を増やしていきますし、もちろん過去のサンライズ作品の企画もどんどん追加していく予定です。そして相互にファンが循環していくような環境を作っていければいいなと思いますね。


──なるほど。さて、本オープンして2か月ほど経ちますが、読者の方からの反応はいかがでしょうか?


河口 反応は・・・・・・どうなんでしょう(笑)。


──えっ!?

 

河口 こういったサイトの運営そのものがサンライズとしても初めての試みなので、基準となる数字がないんですよ。なので、いいのか悪いのかよくわからないという(笑)。もちろん、ファンの声というか、ネットでの評判を見ることはありますけど。そういう意味ではさきほど話題にでた「IPポリス つづきちゃん」はSNSなどで話題になりやすい作品ですね。若者ファンはもちろん、取り上げている作品の往年のファンたちが反応してくれています。
「覇界王 ~ガオガイガー対ベターマン~」や「機動戦士ガンダム Twilight AXIS」もすごく反応がよかったですね。


── 連載小説ということで、ファンの反応によってストーリーが変わっていったりするんでしょうか?


河口 実はどの程度書き溜めを行っているのかは作品によって違っていて、完結まですでに書き上がっているものを1話ごとに読みやすい長さに分割して掲載している作品もあれば、1か月分ずつ制作されている作品もあります。そういう意味ではまだ書かれていない部分がある作品については、当然ファンの皆さんの反応が反映されることもあるかも知れません。
一方、作家さんからは「新聞小説みたいなもの? 雑誌連載小説みたいなものを書けばいいの?」と聞かれることもありました。たしかに形態としては似ているのですが、編集部側としてはそういった連載小説やTVアニメのように毎回毎回キッチリと盛り上がりを意識して書く必要はありません、とお話ししています。


──それはなぜでしょう?


河口 
矢立文庫の今後にも関わる話なのですが・・・・・・矢立文庫はまだまだできたばかりで知名度も高くはありません。我々も編集経験に乏しい。そんな中で今いる読者の方の反応だけを追いかけて、来週もそのまた来週も盛り上げよう! という作り方をしてしまうと、作品性を見失いそうで・・・・・・。
そうではなくて、このあと作品をどんどん溜めていって、1年後に初めてサイトにやってきてひとつの掲載作品を読んでくれた方が、矢立文庫内のほかの作品についても興味をもって読んでくれる、そして、これが映像化になったらどうなるんだろうと想像してもらう。そういう状態にしたいと思っているんです。


──今だけ楽しませるのではなく、将来まとめて読んだときのことを考えて掲載しているんですね。


河口 
実際問題としてどのぐらいコンテンツを溜めていくのか、という運用的な部分はこれから考えていかないといけない部分です。たとえば今後、単行本や電子書籍化されたときにすべて読めなくしてしまうのか、それとも試し読み的なスタイルで一部だけ残すのか・・・・・・という。このあたりはご協力いただく出版社さんの考えもあるでしょうし、一番良い方法を模索していければと思っています。


──矢立文庫を運営していて気がついたWebにおけるメリットを教えてください。


河口 
Webのいいところは、締め切りを自分たちで決められるところですね。どこかに納品するわけではないですし、本当に気が楽で(笑)。現段階では基本的に矢立文庫の仕事は各メンバーが本来の仕事の合間に時間を見つけてやっているので、自前のサイトで進行に多少の余裕があるというのはありがたいですね。もちろん、これから先、より本格的に運用していくことになれば、それに伴ってキビしくなっていくとは思いますが。


──いっぽうで、大変なことは? 


河口
 
どうやって矢立文庫を知ってもらうか、という点でしょうか。書籍であれば発売されて店頭に並ぶことそのものが宣伝でもありますが、Webだとむしろそう簡単にはいかないです。あと、本業の出版社さんのサイトや小説投稿サイトをはじめとしたライバルも多く、そういったライバルたちの中でどうやって存在感を出していくのか、というのはこれから取り組んでいく必要がありますし、とても大変なことだと思いますね。


矢立文庫がプロデューサー・監督の登竜門になる!?


──ちなみに、サンライズ社内から「自分の企画を矢立文庫でやりたい」みたいな話はくるんですか?


河口 
けっこう現場から話がきたりはしています。ただ矢立文庫には専任の編集部員というのはいませんので、基本的に言い出した人間が編集担当として頑張るという前提なんです。ですから、今やっている仕事をやりつつ担当できるのであれば「いいよ」と。


──やってもいいけど自分でなんとかしてね、という。


河口 
厳しいようですが、これはアニメのプロデューサーの仕事にも通じる部分ですからね。アニメの制作現場には将来プロデューサーや監督になりたいという人がいるんですが、そういった人たちにとって、作家さんやイラストレーターさんとやりとりをしつつ、ひとつの作品を作り上げるという経験は非常に重要だと思います。
昔はアニメも1作品50話近くあったり、2年以上も続く番組があったりして「この1本はあいつに任せてみるか」ということができていたんですが、最近は1作品あたりの話数も少なくなり、かつ、求められるクオリティも上がっているために、そういう余裕もなくなってきています。若手が“実戦”経験を積む場が少なくなってきているというのが実情なんですが、そんな中、矢立文庫がそういう経験の場所のひとつになったらいいな、と。


──将来、矢立文庫で経験を積んだプロデューサーが作ったアニメを見ることができるようになる?


河口 ・・・・・・かもしれません。それと、読者の投稿作品を掲載するようなことはしないの? と聞かれることもありますね。これも将来的にはやるかもしれません。でも、まず矢立文庫は我々サンライズの内側から出てくるものをアピールしていく場にしていきたいと考えているんです。


──最初のコンセプトのお話にもあった「サンライズとして提案できる場所」というのはそういうことなんですね。それでは今後の矢立文庫について教えてもらえますか?


河口 
まずは年明けくらいに、またタイトルを増やしていきます。ホラー的なものとか、サンライズ的な美少女ものとか、動かないロボもの(笑)とか。今後もできれば3か月ごとに作品を増やしていければなぁと考えています。
あとは小説などのボリュームのあるものだけではなく、ちょっとした記事的なものをやりたいですね。少し前に「クロスアンジュ 天使と竜の輪舞」の原画を掲載したりしましたが、ああいう気軽に読めるようなものも順次増やしていきたいです。また、12月5日には「2017年サンライズカレンダー」がもらえる写真投稿企画「ガンプタグラム」もスタートしましたので、ぜひ写真投稿してくださいね。

後編へ続く)



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