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ルーツにある松竹映画のような空気感のアニメを目指して
──今作で宅野監督が新たに挑戦していることや表現はありますか? 宅野 今作のようなドラマ性の強い作品を作るのは僕自身、初めてのことなんです。そのため、ちゃんとドラマを組み立てるということ自体に、新しい発見があります。以前はサンライズで仕事をすることが多かったので、アクションやロボット、またはコメディ色の強いアニメを作ることが多かったのですが、個人的には日本映画が好きで、ドラマものはずっとやってみたいジャンルだったんですよ。なおかつ、今作は主人公が男性だし、キャラクターの年齢が全体的に高めというのもあって、非常に楽しんでやらせていただいています。
──日本映画の中で、特にお好きな作品や作家をあげていただけますか? 宅野 骨がらみに好きなのは、「男はつらいよ」や「釣りバカ日誌」といったシリーズ作品に携わる森崎東監督ですね。作品作りをするうえでの目標と言ってもいい存在です。ほかにはTVドラマ「男たちの旅路」や「ふぞろいの林檎たち」シリーズの脚本を手がけた山田太一さんからも、多分に影響を受けていると思います。一番好きなのは「輝きたいの」という女子プロレスを題材にした作品です。ああいった女性の青春をモチーフとした作品が好きなんですよ。ほかにも「想い出づくり。」も大好きですし、「ふぞろいの林檎たち」も。あげればキリがないですね(笑)。日本映画の中でも、松竹映画の雰囲気が好きなんです。ですから、今作は家族が重要なモチーフになっていて、僕が好きな空気を感じられたので、お話をいただいてうれしかったですね。
──映像的な部分で、新しく試みていることは何かありますか? 宅野 水彩処理は、これまでの作品で用いたことがありませんでしたから、表現としてはかなりチャレンジしているところですね。最初にライデンフィルムの柴宏和プロデューサーから、「YAWARA!」のような絵にしたいと提案をいただきました。キャラクターに白いハイライトが入っているような感じにして、水彩調の塗り残しをイメージしています。全体的に絵にやわらかさを出したかったので、背景美術でも塗り残しの部分を作ったり、撮影処理ではフレームに白っぽいフィルターを入れたりしています。背景は水彩処理を施すのが技術的に難しく、美術監督の合六さんにはかなり頑張ってもらいました。そのひとつに、水彩のムラ感の強度を距離によって変えるというものがあります。たとえば手前にあるものはムラ処理を強くし、空などの無限に遠いものにはうっすらとかけるといったようにテイクを重ねて、背景を詰めていきました。
──音楽のこともうかがいたいと思います。木琴やリコーダーといった木の楽器を音に取り入れていたり、温かくて懐かしいような音作りですね。音楽面ではどういった相談をされましたか? 宅野 こういった雰囲気の作品ですから、温かさややさしさというものを表現するために、アコースティックなものをベースにしたいと思いました。音楽の橋本由香利さんも原作を読んで香川へ行かれるなど、ご自身の中にかなりイメージを持たれていたので、私からは具体的にこうというよりも音響監督を通じてお任せした形ですね。
──ポコの登場で木琴を使っていたりとキャラクターごとにテーマがありますね。 宅野 そうですね。中島が登場した際にはブルースみたいな曲が流れますし、ひろしのテーマは明るい男をイメージした音楽になっています。あとは、香川と東京でまったく違う音楽になっていたりと橋本さんのほうでかなり楽器やジャンルの使い分けはされていますね。
──次回予告で“うどん県副知事”の俳優・要潤さんがナレーションをされているのにも驚きました。これはどのような経緯で? 宅野 要さんは香川県のご出身で、製作委員会から「要さんにお願いできないか」と提案がありました。そこで直接、要さんにお伺いしたところ、「だったら“うどん県副知事”としてやったほうがいいでしょう」と言っていただけたんです。香川県公認の役職ですから(単独でアニメに出演するのには)、少しハードルが高いのではないかと思ったのですが、快く引き受けて頂くことができました最終的にはタスキまで付けてやっていただけることになりました 。要さんはアニメの声優は初めてとおっしゃっていましたが、収録は一発OKで「さすが!」と思いましたね。ご自身がキャラクターとして登場するということもあって、楽しんでやってくださいました。先行上映会でも、ある意味で一番盛り上がったのは次回予告でした(笑)。
──後半に向けて、視聴者に注目してほしいポイントを教えてください。 宅野 第1話や後々の話数で、金色のキラキラとした粒子のようなものが飛んでいるシーンを入れています。あれは最終回に向けて重要なキーになってくるので、覚えておいてください。物語は宗太を中心に進んでいきますが、その他にも宗太の友人の中島や、姉の凛子といった、さまざまなキャラクターが登場します。男だったり女だったり、地元でずっと暮らしてきた人、子供がいる人やいない人などそれぞれに生き方があり、それはドラマとして、とても普遍的なテーマだと思います。また、今作を監督するにあたり、これは「家族で見られるアニメ」だというイメージがありました。僕の両親は普段アニメにまったく関心を示さないですが、今作は「見たい」と言ってくれたんです。キャラクターごとの視点で物語が進み、幅広い年齢層に共感してもらえる作品だと思います。若い人やアニメファンだけでなく、年配の方も一緒になって家族で見ていただけるとうれしいです。
(取材・構成/日詰明嘉・奥村ひとみ)
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