新海誠監督・最新作品「君の名は。」公開記念特別インタビュー

2016年08月25日 16:550

キャストについて

──キャストについておうかがいします。立花 瀧役の神木隆之介さんについては、監督も絶賛されていますが、事前に演技の指導などはされたのでしょうか。

新海 今回、神木さんに瀧役を決めさせていただくにあたっては、実際に会ってしゃべってもらって決めました。その後もアフレコ前に何度かお会いしています。ただ、演技指導みたいなことは一切していないです。話をしたと言っても、「どれくらいの女の子っぽいトーンで行けばいいですかね?」くらいのことです。今回は、絵コンテだけではなくビデオコンテという形で、取りあえずセリフのニュアンスやテンポ感を固めるために、全部僕が自分でしゃべったものを作っているんですよ。「君の名は。」は全部で107分間の映画ですが、100分ちょっとくらいのビデオコンテを先に作っていまして、それを見れば、それが役者さんの演技指導的なものにもなりますし、作画のための最初の設計図にもなるし、音楽を担当する「RADWIMPS」の設計図にもなるというわけです。あるいは、プロデュースサイドにとってみれば、この100分のビデオコンテを見れば、面白いか面白くないかが判断しやすい。脚本や絵コンテだけではわからないテンポやイメージもつかみやすいわけですよ。そういうすべてのベースにビデオコンテを使っていきました。もちろん、ビデオコンテでは僕のつたない芝居が入っているだけなので、実際には役者さん達がそれを何倍にもふくらませてアフレコに臨んでくれたんだと思います。当たり前ですが、キャストの方の声が入ったおかげで、この作品が何倍にもコミカルになり、カラフルになり、楽しいものになったと思いますね。

──立花 瀧役の神木さんもそうですが、宮水三葉役の上白石萌音さんもすごくハマっているなと思いました。

新海 上白石さんの声は、関わった大人はみんな好きになってしまいますよね(笑)。オーディションではいろんな女優さんに参加していただいたのですが、僕の中では上白石さんがダントツでした。芝居も本当にうまいですが、声の透明感というか声の情報量が、アニメの絵に乗るんですよね。そのうえで、三葉ってこういう子なんだって、実際に会ったら思わされてしまうような存在感みたいなものがあって、彼女に決めました。

新海誠監督



ビデオコンテについて

──今、お話のあったビデオコンテですが、100分以上の長編ということで、制作で苦労された点などはあったのではないですか。

新海 作業の物量がひたすら多かったのがきつかったですね。今作は、全部で1650カットくらいあるんですが、カット数で言うと僕の過去の作品の中でも一番多くて、107分という尺のアニメーション映画の平均から見ても、多分相当多いと思います。この107分の時間軸をいかにコントロールするかが、一番大きな仕事でしたが、そこは楽しいところでもありましたし、やりきったという感覚もあります。こんなことを言うと情けないんですが、過去の作品でも100分程度の長編はあったわけですが、時間軸を自分で把握し切れていなかったという感じが、振り返ってみると強くあるんです。長編作品を観ているときの、観客の気持ちの変遷まで自分の中では追い切れていなかった。なので、今回はそれをとことんやりきろうと思ったんです。そのためのビデオコンテでもあったわけです。

やっぱり時間軸をきちんと設計しないと、お客さんは見ているうちに興味を引かれる部分もあれば、先が予想できてあきてきちゃう瞬間もあるわけじゃないですか。なので、本当にお客さん1人1人の気持ちになって、今作の107分間を、なるべく退屈させないようにしたいと思いましたし、先を予想させない展開とスピード感をキープしようと思いました。でもやり過ぎると、映画とお客さんの理解の間が離れすぎてしまって、どうでもいいやとなってしまうので、時々、映画が立ち止まって、お客さんが追いついて「ああ、そうだったんだ」と思う瞬間をこの辺に準備しないといけないとか、明快なコントロールをしていきました。音楽の使い方も、ここでちょっと気持ちよくなってもらおうとか、そういうことを徹底して107分間を仕切れたような気持ちはあります。そこは楽しかったですね。

先ほども言いましたが、「言の葉の庭」以降、ようやく物語ることが身についてきた感じがあって、今回であればそれができる、107分間を自分でコントロールし尽くすことができるという自信のようなものがありました。それを実際に形にするために、じゃあビデオコンテを作り込もうと。そのビデオコンテも、今までは「Photoshop」で描いて、それを編集ソフトに読み込んで並べてということをやっていたんですが、それだと手間がかかりすぎたので、ソフト選びからやり直しました。新しいソフトによって、試行錯誤がしやすくなったり、制作のスピードも上がりました。細かいことですが、制作スピードが上がることでコンテをブラッシュアップできる時間が増えましたので、映画制作にとっては結構大きな効果だったかなと思います。

また、音楽のやり取りをビデオコンテを基にして行えたというのも大きかったと思います。今までも、今作では、ボーカル曲が4曲も劇中に入っていて、それと映画の進行の時間、登場人物の感情の動き、カット割りなどがキレイにシンクロできたのは、ビデオコンテを使った面が大きかったと思います。

──今作を制作するにあたって、監督ご自身が新たにチャレンジしたような部分は何かありますか。

新海 うーん。監督業に徹するみたいなところは今作が一番大きかったですね。これまでは、撮影(コンポジット)や色彩設計など細かいところまで手を出していたんですが、今回は撮影は撮影担当になるべく任せるようにして、いわゆる監督業に今回ほど専念したことはなかったと思います。とにかく、107分という時間軸を見ている人は僕しかいないわけで、これをコントロールできる権限のある人も僕しかいないので。

あともうひとつ、映画の制作中に小説版を書いたというのも結構大きな出来事でした。今までは、映画制作が終わってから書いていたんですが、今回は、ビジネス的な要請もあって、なるべく早く小説版を出したいということで。最初はスケジュール的に難しいと思ったんですが、細田監督もやってらっしゃるし(笑)、じゃあ、できませんっていうのも恥ずかしいなと思って(笑)。でも、書き始めてみたら、スケジュール的には厳しかったんですが、とても楽しい作業でした。一度書いた台本のキャラクターのセリフの感情の流れを再体験することになるんですよね。これが、アフレコの演出の場面ですごくいい結果をもたらしました。小説を書くことで、「このキャラクターはなぜ今このセリフを言うのか」みたいなところが全部理屈づけできたので、自分の中では非常にクリアになりました。


音楽について

──今作は音楽も印象的ですが、「RADWIMPS」さんとはどんな作業をされたんでしょうか。

新海 「RADWIMPS」のフロントマンの野田洋次郎さんに一番最初に渡したのは脚本の第一稿ですね。企画会議の2か月後くらいにはすでに第一稿があったと思うので、映画制作開始の割と早い時期からご一緒することは決まっていました。それで脚本をお渡しして、それから4か月後くらいに、洋次郎さんから数曲のラフが上がってきたんですね。その中には、主題歌の「前前前世」とか「スパークル」などの曲もありました。なので、最初は脚本の全体的なイメージから曲を書いていただいたわけですが、それがあまりにも素晴らしくて。僕は「RADWIMPS」のファンでもあるわけですが、映画とは関係なく聞いても新鮮な曲で、「これはすごいものをもらってしまった」という気持ちになりました。それなら、ミュージカルではないですが、ストーリーの中で、ある時間軸は音楽が支配するような部分を作らなければという気持ちとになり、そこからは平行作業でした。ビデオコンテを作りながら、上がってきた曲をはめてみて、こうじゃないと戻したり、もう少しここはこういう風になりませんかという形で戻したりと、そういうやり取りを1年半ほどやってきました。


今後の抱負など

──最後に、今後やってみたいことなどがあれば教えてください。

新海 まだ全然決めてないですが、今作のように、全力でエンターテインメントの長編映画をもう1本、2本作らせていただければとは思っています。もう1~2本作れば、次に進むべき道も見えてくるんじゃないかと思いますので。



新海誠

1973年生まれ、長野県出身。
2002年、個人で制作した短編作品『ほしのこえ』でデビュー。同作品は新世紀東京国際アニメフェア21「公募部門優秀賞」をはじめ多数の賞を受賞。2004年公開の初の長編映画『雲のむこう、約束の場所』では、その年の名だたる大作をおさえ、第59回毎日映画コンクール「アニメーション映画賞」を受賞。2007年公開の『秒速5センチメートル』で、アジアパシフィック映画祭「最優秀アニメ賞」、イタリアのフューチャーフィルム映画祭で「ランチア・プラチナグランプリ」を受賞。2011年に全国公開された『星を追う子ども』では、これまでとは違う新たな作品世界を展開、第八回中国国際動漫節「金猴賞」優秀賞受賞。2012年、内閣官房国家戦略室より「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」として感謝状を受賞。2013年に公開された『言の葉の庭』では、自身最大のヒットを記録。ドイツのシュトゥットガルト国際アニメーション映画祭にて長編アニメーション部門のグランプリを受賞した。同年、信毎選賞受賞。次世代の監督として、国内外で高い評価と支持を受けている。

関連作品

君の名は。

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上映開始日: 2016年8月26日   制作会社: コミックス・ウェーブ・フィルム
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(C) 2016「君の名は。」製作委員会

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上映開始日: 2007年3月3日   制作会社: コミックス・ウェーブ・フィルム
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(C) Makoto Shinkai / CoMix Wave Films

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上映開始日: 2013年5月31日   制作会社: コミックス・ウェーブ・フィルム
キャスト: 入野自由、花澤香菜
(C) Makoto Shinkai / CoMix Wave Films

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新海誠 プロフィール

1973年生まれ、長野県出身。2002年、個人で制作した短編作品『ほしのこえ』でデビュー。同作品は新世紀東京国際アニメフェア21「公募部門優秀賞」をはじめ多数の賞を受賞。2004年公開の初の長編映画『雲のむこう、約束の場所』では、その年の名だたる大作をおさえ、第59回毎日映画コンクール「アニメーション映画賞」を受賞。2007年公開の『秒速5センチメートル』で、アジアパシフィック映画祭「最優秀アニメ賞」、イタリアのフューチャーフィルム映画祭で「ランチア・プラチナグランプリ」を受賞。2011年に全国公開された『星を追う子ども』では、これまでとは違う新たな作品世界を展開、第八回中国国際動漫節「金猴賞」優秀賞受賞。2012年、内閣官房国家戦略室より「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」として感謝状を受賞。2013年に公開された『言の葉の庭』では、自身最大のヒットを記録。ドイツのシュトゥットガルト国際アニメーション映画祭にて長編アニメーション部門のグランプリを受賞した。同年、信毎選賞受賞。次世代の監督として、国内外で高い評価と支持を受けている。

新海誠