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頑張っている若者の足を引っぱりたくない
──丸山さんがマッドハウスにいらっしゃる時、今敏監督の企画「夢見る機械」を制作するつもりでいらしたそうですが?
丸山 4~5年ほど、「誰か、今さんの後を継いで完成させてくれないか」と粘りました。その時点で今さんによる脚本と絵コンテ、フィルムの一部まで出来ていたので、今さんの真似はできても、彼らしさは誰にも出せない。たとえば、仮に細田守くんが引き継いだら、それなりに面白くはなるでしょう。だけど、それは細田守の作品であって、今敏の作品ではない。「夢見る機械」は今さんの作品であるべき。規模を縮小した再生産のようなことをするのは良くない、やめた方がいい……そう決断するのに、数年かかっちゃったわけです。 その代わり、今さんの原作を誰かがアニメ化したら、その誰かの作品になりますよね。それだったらやりたいし、他にドキュメンタリーをつくれないかと考えています。
──今監督が生きていたころの記録を残したいという意味ですか?
丸山 別に、彼の生い立ちがどうとかいうドキュメンタリーではなく、作家としての今敏が何をつくりたかったのか、たとえば海外の監督にリサーチしてみたい。本当は誰かにつくってもらって完成を楽しみに待ちたいんですけど、誰もいなかったら僕がやります(笑)。ドキュメンタリーでなくとも、今さんの映画をまとめて見られるような機会ができれば、べつに何でもいいんです。
──マッドハウスをやめてまでMAPPAを立ち上げた明確な理由は何だったのでしょう?
丸山 明確な理由はあったような、なかったような……。単純に、仕事をつづけたかったんです。マッドハウスも体制が変わって、僕が離れたほうが、会社にとっても良いのではないか。その代わり、マッドハウスの主要な人たちを連れて出るのはイヤでした。僕は何もないゼロ状態のMAPPAから頑張るので、マッドハウスには、すでに築きあげた体制、日本テレビのバックアップで頑張ってほしい……と。 今回も同じで、スタジオM2がどうであろうと、MAPPAで頑張っている大塚くんの足を引っぱるのは、僕はイヤなんです。MAPPAにいづらくなった人は、M2に来てもらってもいいんですけどね。「丸山のことだから、そのうち、もうひとつぐらい別会社をつくっちゃうんじゃない?」と周囲から笑われていますが、これが最後でしょうね。
「ダメかも知れない」作品に心を動かされる
──MAPPAの制作した最初のアニメ「坂道のアポロン」は、丸山さんのプロデュースでしたね。
丸山 ええ、マッドハウス時代に、渡辺信一郎くんと「何かやろう」という話をしていました。当時、渡辺くんは3年ほど仕事していなかったので、「君のような人が3年も仕事していないのは良くない。とにかく、現場で仕事するが一番だ」「この話を気に入ろうと気に入るまいと、監督してくれ」と僕から薦めたのが、「坂道のアポロン」でした。彼は他人の作品で音楽プロデューサーをやるぐらい音楽が好きだし、「イヤとは言わせないよ」と強引に迫りました。
──とても渡辺さんのセンスとマッチした、いい作品でしたね。
丸山 何をやらせても、自分流に処理してくれるのが渡辺くんですからね。「坂道のアポロン」のとき、渡辺くんが「大塚学と組みたい」と言って、それで大塚くんがプロデューサーとしてMAPPAに来たんです。ですから、「坂道のアポロン」は、丸山・渡辺・大塚の3人体制。「残響のテロル」もそうですね。
──「坂道のアポロン」と同じ2012年に、「てーきゅう」のようなフットワークの軽い作品も制作していましたね。 丸山 マッドハウス時代から、僕はやることが支離滅裂なんですよ。真面目な「はだしのゲン」のような作品もやるけど、「デ・ジ・キャラット」も嫌いじゃない。好きな人にやらせると良い作品が出来るので、スタッフによりけりですね。「てーきゅう」は音響会社の人が「やりたい」と言ってきて、僕もやぶれかぶれなところがあるから「“こーきゅう”じゃないところが面白いね!」と話に乗って、結果的には赤字を出しながらやりました。
──「この世界の片隅に」の前に、MAPPAの劇場アニメとしては「劇場版 牙狼〈GARO〉-DIVINE FLAME-」がありましたね。
丸山 「牙狼〈GARO〉」に関しては、原作の雨宮慶太さんの弟子たちと、僕はずっと仕事をしてきたんです。寺田克也、韮沢靖、竹谷隆之……雨宮さんの周囲で若いころをすごした人たちとは仕事をしてきたんだけど、ボスの雨宮さん本人とは組んだことがなかった。 僕は、雨宮さんを非常にリスペクトしてるんです。日本に“怖い綺麗”を定着させた、唯一無二の貢献者ですね。最初に井戸を掘った人、最初にウニを食った人は偉い! 尊敬すべき人ですよ。それで成立した企画だったのですが、それぞれの作品ごとに質が違いますからね。うんと真面目なものも面白いし、うんとフザけたものも面白い。それぞれ面白ければいい、というのが僕の基本ラインです。面白くて当たってくれると、すごくうれしいんですけどね。
──では、広い意味で「面白い」ものを常に探してらっしゃる?
丸山 僕はあまりにも「面白い」の幅が広すぎて、しまいきれてないんです。「てーきゅう」は本当に面白いのか? と聞かれれば、「面白いじゃん!」としか答えようがない(笑)。「この世界の片隅に」と同じ意味で「てーきゅう」を面白い、と言っているわけではないので。
──ほかの会社がどんな作品をつくっているか、気になりますか?
丸山 個人的には、気にならないですね。時おり、「何だこれは?」と驚かされる作品があります。ボンズの「血界戦線」なんて「面白い、くやしい」「こういうのをやりたいのに!」と思いましたよ。「ボンズに入れてくれよ」って、南雅彦くんに頼んだんですけど、年齢制限で弾かれてしまいました。「ジジイはいらない」って(笑)。 僕に好みがあるとするならば、「これはダメかも知れない」「企画にならないかも知れない」という作品が好きみたいです。よその会社に断られた企画が僕のところへ来ると、「何とか形にしたい」と、その気になってしまう。それは僕の性癖、病気のようなものです。よそで断れた理由がわかると、「ならば何とかしてみせよう」とムラムラしてしまう……やはり、病気ですね(笑)。僕は、失敗しながら生き残った典型、悪い見本ですから。そこは、自覚しております。
──いえ、とても魅力的な生き方だと思います。
丸山 この歳まで仕事できているので、まだ恵まれています。そういう意味では、アニメ業界は幅が広いというか、いろいろなことに挑戦できる余地のある場所なんでしょうね。
(取材・文/廣田恵介)