音響監督・三間雅文 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第3回)

2016年07月21日 17:000

オリジナルで大変なのは先が読めないこと


──他媒体に原作のない、オリジナルアニメの音響監督はご大変でしょうか?

三間 ここは音響監督としてではなく、経営の立場として話をしたいんですが、物語の進展に従って、どんどん人が増えていく作品に予算を出さなければならない場合などは、頭を悩ませます。たとえば、最初の5話までの脚本をいただいて、そこには登場人物が5人しかいない。この段階で全話分の見積もりを求められるとします。しかし、フタを開けてみたら、5話以降に大物が出て、最終話ではキャラも50人に増え・・・、「おいおい、こんなの聞いてねーよ!」となるわけです(笑)。音楽についても同様で、結末が見えないのに、全話分の音楽メニューを求められるのは大変ですね。

──「マクロス」シリーズは、「マクロスプラス」(1994)から音響監督として関わっておられますが、作品ごとに何か変化はありますか?
三間 音楽の選曲に関しては、以前に比べて河森正治総監督から任せてもらえるようになりましたね。またステム録音になってからは、提案の幅も広がりました。

──印象に残っているお仕事を1つうかがえますか?
三間 「マクロスプラス」のイサム・ダイソンがGに耐えるシーンの収録では、ある役者さんが「Gを受ける気持ちがわからない」と言うので、俺と河森総監督と3人で後楽園に行って、ジェットコースターに乗ってアフレコの練習をやりました(笑)。

──「マクロスΔ」(2016)の「歌姫オーディション」には、約8000人が応募されたそうですね。
三間 「歌姫」募集だから、応募の段階では、河森総監督や音楽プロデューサーや他プロデューサー陣が審査しています。音響まで降りてきたのは20人ぐらいで、通常の場合とあまり変わりありませんでした。

──「甲鉄城のカバネリ」(2016)でも音響監督をされていますね。
三間 荒木哲郎監督は最初、音響監督なしでやりたいとおっしゃっていたんですよ。なので、本作ではオブザーバー的に入ってるにすぎません。一歩引いた立場でやっています。音響もいろんなやり方があったほうが、おもしろいと思うんですよね。もっとも、音楽に関してはステムを使ってさまざまな提案をしているので、監督から重宝されています。

──そういうケースもあるのですね。
三間 違うものがあるから、違う光り方をするんです。ある監督の作品でオファーをいただいたことがあったんですが、「自分がいない作品を見たい」と言ってお断りしました。その作品を見て、「くっそー」と自分を焚き付かせたかったという思いもありました(笑)。

──オリジナル作品の効果音はいかがでしょうか?
三間 ゲーム原作のアニメの場合は、監督だけではなく、ゲーム会社の許可も取りながら制作を進めていきます。オリジナルの場合は、監督の頭の中にあるものを探っていけばよいので、ひと手間減りますね。


ピカチュウは「言葉をしゃべっている」


──ゲーム原作といえば、「ポケットモンスター」のアニメ1作目は1997年スタートですが、本シリーズも長い間、音響監督をされていますね。
三間 石原恒和さん(編集注:現在は株式会社ポケモン代表取締役社長)はとても熱心な方で、制作開始から1年くらいは毎週アフレコにお見えになってましたね。今はお忙しくて、気軽にお酒も飲めなくなっちゃいましたが(笑)。

──「ポケットモンスター」ではアニメ以外に、ゲームやラジオのお仕事もされていますね。これはアニメでの実績が高く評価されたからでしょうか?
三間 そうですね。あと、ピカチュウ役の大谷育江さんの通訳として抜擢されたという経緯もあるんです。ピカチュウも、ただ「ピカチュウ」と鳴いてるんじゃなくて、「言葉をしゃべっている」んです。たとえば、明るいピカチュウの声をお願いしたいのであれば、「明るく鳴いて」ではなく、「画面の向こうのみんなに、明るく「こんにちは!」って言ってください」と伝えなければダメなんです。



水島精二監督作品について


──水島精二監督とは「ジェネレイターガウル」(1998)、「地球防衛企業ダイ・ガード」(1999~2000)、「シャーマンキング」(2001~02)、「鋼の錬金術師」(2003~04)、「機動戦士ガンダム00」(2007)、「UN-GO」(2011)、「コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜」(2015~16)など、数多くの作品でご一緒されていますが、やはりこれも監督からの信頼が厚いからでしょうか?
三間 たぶん水島監督なりにこちらにふる作品を選び、声をかけてくださるんだと思います。監督の中で消化できている作品なら、来ないと思うんだよね。難しいのだけこっちに来てる感じもしますが(笑)。もしかすると、俺のほうが5歳ほど年上なので、5年分の経験値を求められているというのもあるかもしれませんね。

──「鋼の錬金術師」については、2003年~2004年に放送された「鋼の錬金術師」で水島監督と、2009年~2010年に放送された「鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST」で入江泰浩監督と、お2人の監督の下で音響監督をされていますね。やり方に大きな違いはございましたか?
三間 音響的に大きく変えたつもりはないのですが、監督の個性の違いは出てましたね。水島さんはどちらかと言えば「ヒューマン(心情)重視の人」、入江さんは「絵重視の人」でした。たとえば、水島さんは「ここはもっと熱く訴えて、心にビンビン来たいんです」といった感じで、入江さんは「ここはもっとキャラクターの絵に合わせてください」といった感じです。

──意外なことに、三間さんは「機動戦士ガンダム00」が初ガンダム作品なのですね。

三間 水島監督から「全く新しいガンダムをつくりたいんですよ」、「僕が作りたいのは、ある意味、ガンダムのスタンダードです」と言われ、その言葉が俺の中でキラキラ輝いたので、乗っかったんです。実際、効果音なども全部違うんですよ。

「うしおととら」はゼロベースでキャスティング


──「うしおととら」はOVA版(1992)とテレビアニメ版(2015-16)で参加されていますが、これはどういったご経緯によるものでしょうか?
三間 全然わかりません・・・。ご縁だと思います。MAPPAの丸山正雄さんから指名をいただいたんですが、俺がOVA版をやっていたから指名されたのかもわかりません。

──テレビアニメ版では、大物声優の意外な起用が話題となりました。
三間 白面の者については、西村聡監督と「どんなことにも動揺しないで冷静に受け止めて返せるのは、林原めぐみ以外にいない」という話をしていたのですが、最初は藤田和日郎先生から「かわいすぎるのではないか」とのご心配の声がありました。そこで、林原さんをオーディションに呼んで、「精神的な言葉(心の声)」と「口(声帯)から出る言葉」の2種類をやってもらい、かけ合わせたものを先生に聞いてもらったんです。すると、先生は「え!?これが林原さんなんですか?」と驚かれ、「これだったらOKです!」と言って下さったので、白面は林原さんで決まりました。

──小山力也さんのとらにも驚きました。
三間 小山さんって律儀でいい人なんですが、とらって逆に態度がデカくて「なんでもいいいよ」って感じなんだよね。なので、周りの人に気を遣わないで、できるだけリラックスして演じてもらうために、「とら部屋」っていうのを作ったんです。小山さんには「誰にも見えないから、寝転がってやってもいいですよ」と伝えていました。

──若本規夫さんはOVAで鏢、テレビアニメで紅煉を演じておられましたが、この配役には何か意図があったのでしょうか?
三間 監督はすべてゼロベースで決めています。鏢と対峙してる者をお願いしようとか、OVAに出てたからとか、そういった理由ではありません。紅煉という最強の者、小山さんのとらに勝てる者は若本さんしかいなかったんです。「若本さんの紅煉が来たら、もしかしたらとらが負けるかもしれない」、というような雰囲気が出たら面白いなと思ったんです。



70歳くらいまでに効果の学校を作りたい


──今後挑戦してみたいことはありますか? 以前のインタビューでは、御社内に効果部を3班作りたいと仰っておられましたが。
三間 1班も作れてないですね(笑)。でも、70歳くらいまでには効果の学校を作って、効果の人材をもっと増やしたいと思っています。日本では音響監督の数は増えていますが、効果さんの数は増えていないんですよ。ルーカスフィルムのスカイウォーカー・サウンド(編集注:ジョージ・ルーカス監督が設立した、アメリカの映像制作会社の一部門)みたいに、20班以上の効果部がひとつの作品に携わるということをやっていかないと、日本の音響は伸びないと思います。日本のアニメーションは世界一なのに、音響が付いていっていない気がするんです。

──アニメ以外でやってみたいことは?
三間 舞台音響にも興味がありますね。今日もこの後、舞台を観に行きます(笑)。

──アニメファンの皆さんにメッセージをお願いします!
三間 監督とともにアニメを作り上げ、皆さんに喜んでもらうのが俺の生き甲斐です。これからもいろんな作品に携わり、命削って頑張りますので、楽しみにしていてください!





有限会社テクノサウンド プロフィール


三間雅文さんが代表を務める音響制作会社。主な作品は「ポケットモンスター」「妖怪ウォッチ」「蒼穹のファフナー」「鋼の錬金術師」「機動戦士ガンダム00」「黒子のバスケ」「甲鉄城のカバネリ」「マクロスΔ」「僕のヒーローアカデミア」「うしおととら」など多数。

※くわしくはテクノサウンドの公式HP(http://technosound.co.jp/)まで!




(取材・文:crepuscular)

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