前半は“黒”、後半は“白”と、イメージがはっきり分かれたアルバムです
──SawanoHiroyuki[nZk]はボーカリストとして参加したわけですが、ななみさんは本来、シンガーソングライターで、アルバム「Light in the Darkness」では、その音楽世界をたっぷり味わえます。先ほど、アニメファンにも届くようなアルバムとおっしゃっていましたが、どんな1枚になっているのでしょうか?
ななみ 白と黒の世界”をテーマに、私が作り続けてきた曲を選んで収録しました。全12曲中、前半の6曲を“黒”の世界観を持つ曲にして、後半の6曲は“白”の曲と、はっきり分けて並べました。“黒”のパートは、アニメファンの方になじみ深いサウンド感があって、“白”は、今までの私の曲が好きと言ってくださる方に楽しんでもらえるものになっています。
──ななみさんの両面が楽しめるアルバムということですね。
ななみ シリアスでダークな曲から始まって、ハッピーエンドにたどり着くという、アルバムとしての物語性を感じていただけると思います。
──1曲目の「サイレン」は、刺激的な歌詞を持つ曲です。
ななみ 「ショットガン」とか「ジャックナイフ」とか、物騒な言葉がたくさん入っています。誰かから与えられた心の痛みを、「痛い」と直接言うのではなく、銃で撃たれたとか、ナイフで斬られたという物理的なイメージに変えて表現したら、より伝わるんじゃないかと思って。こういう歌詞の書き方は、今までしたことがなかったので新鮮でした。聴くと、HP(ヒットポイント)が一気に減っちゃうような曲にできたと思います。
──たしかに(笑)。疾走感がある曲調とざらついたサウンドも、歌詞のシリアスな世界観を増幅させていますね。
ななみ テンポが速くて、歌も早口で歌っています。実は、この曲はボカロをイメージして作ったんです。私はギターでしか作曲できないので、実際にボカロをいじったわけではありませんが、歌詞を詰めに詰めて、簡単には歌えないような曲を作ろうと思って。その分、レコーディングは大変でしたけど(笑)。
──公式サイトには、ななみさんが出演している「サイレン」のミュージックビデオと一緒に、イラストによるボカロバージョンのMVも公開されています。それを聴くと、なるほど、これはボカロ曲だと納得しました。
ななみ 実はこの曲の世界観は、あるアニメからインスパイアされたものなんです。主人公がみんなに傷つけられて、もうこれ以上、彼を傷つけないでという思いが、私自身の心境と重なって。上京したばかりの頃に、スクランブル交差点を歩きながら感じた思いを曲にしていきました。
──「ビルがそびえ立つ戦場」という歌詞が印象に残りました。アニメから、インスパイアを受けて曲を作ることは、よくあるんですか?
ななみ 歌詞は私の体験を書いていますが、ファンタジーの部分はアニメからもらうものが大きいです。アニメを見るとハマってしまって、主人公を思って泣いたり、世界に入りこみ過ぎて、しばらく現実に戻ってこられないこともあります。そんな時、この感情を曲にしたいって思うんです。
──「サイレン」のほかにも、アニメからの影響が入りこんでいる曲があるのでしょうか?
ななみ 前半の6曲は多いですね。2曲目の「四文字ラブレター」は、言い争いをしている男女の歌なんですけど、四文字熟語をたくさん使って、和の雰囲気を作りました。これは和風のアニメの影響が入っています。
──「四文字ラブレター」に使われている四文字熟語には、「竜攘琥搏(りゅうじょうこはく)」とか「万古長青(ばんこちょうせい)」とか、普段あまり目にしないものが含まれています。
ななみ 知られていないからこそ、耳に引っかかるんじゃないかと思って。言葉の響きを優先して選んでいったので、「どんな意味ですか?」と聞かれると、即答できないかもしれないです(笑)。
──そういう言葉遊びがありながら、この曲に描かれている男女関係は緊張感がありますよね。
ななみ 小悪魔的な曲です。<「愛してる」『嘘だけど』>とか<「側にいて」『邪魔だけど』>とか、表に出る言葉とは裏腹に、女性の腹の内って実は怖いじゃないですか(笑)。この曲では、女性には強くあってほしいと思って。切ない片想いの曲が流行っている風潮の中で、私はむしろ女性の背中を押す曲を書きたいなと。
──なかには、洋楽のような、乾いた雰囲気を持つ曲もあって。たとえば、5曲目の「I Eye Ai」は、フォーキーかつグルーヴィーで、かっこよかったです。
ななみ この曲は、アレンジも私がやらせていただきました。アコースティックギターを弾く音と、ギターのボディを叩く音しか使ってないんです。この曲と次の「SaRieL」は、ギターとコーラスだけを重ねて作って、洋楽らしい雰囲気になっていると思います。
──「SaRieL」は、全編英語詞ですし、より洋楽らしいですよね。
ななみ 今回のアルバムは、英語詞の曲が2曲入っていることも特徴です。アニソンのような曲や、今まで歌ってきた恋愛の曲、それから洋楽のグルーヴを持った曲まで、この子は、こんなこともできるんだと思っていただきたいなと思って。
──1曲1曲、表情が違うのが刺激的でしたし、アルバムの世界にどっぷり浸れました。