ホビー業界インサイド第11回:超合金から食玩まで、オモチャに捧げた半世紀! トイ・デザイナー、野中剛インタビュー!

2016年05月14日 11:000

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28年間務めたバンダイを辞めた理由


──その後、バンダイ・アメリカ(BANDAI America Inc.)に出向したんでしたね。

野中 アメリカに行っていたのは、2011年からです。人事異動は少なかった方だと思いますが、2001年から6年間、プレックス(バンダイグループの玩具デザイン会社)に出向していました。プレックスでは超合金魂に東映の特撮ヒーロー番組と、バンダイにいた頃と、変わらない仕事をしていました。

その後、一回バンダイに戻りましたが、2010年にプレックス香港を経験した後、アメリカに渡りました。

アメリカに行ってからは、「パワーレンジャー」「サンダーキャッツ」「ベン10」、ほかに「ベイマックス」などのキャラクター商品も手がけました。アメリカでは商品開発もさることながら、プレゼンテーションの準備が大変なんです。まだ版権を取得できていない段階で、試作品まで作って、プレゼンしたけれども、NGになる場合が普通にあります。アメリカは世界最大の経済大国ですけど、“無駄”によって支えられていますね。「無駄に終わるかも知れないけど、まずは全力でトライする」独特の商習慣があります。

アメリカでは3年半、働きまして、2014年の夏に帰国して、バンダイを退社しました。

──「超合金 太陽の塔のロボ」(2014年)が、バンダイでの最後のお仕事ですか?

野中 「太陽の塔のロボ」は、僕にとっては卒業制作みたいなものですね。岡本太郎記念館の方から絶賛していただいたのは、勲章のようなものです。


──バンダイを辞めたことに、悔いはないですか?

野中 まったく悔いはありません。フリーになってからも、バンダイさんともお仕事していますし、かつての取引先だった方々とのお付き合いも続いています。コトブキヤさんのような新しい会社とのお仕事も始まっていますし……。

──そもそも、なぜバンダイを退社したのでしょうか?

野中 28年間もさまざまなオモチャを作ってきて、仕事に新鮮味を感じなくなってしまったんです。ノウハウの蓄積もあるのに、いつまでもライセンシー(商品化許諾を受ける側)の立場で仕事するのは、どうなんだろうか、と。究極的には、みずからキャラクターを作って広めていくライセンサー(商品化権を与える側)にならなければいけないのではないか……という思いで、セカンドライフを歩みはじめました。ただ、意外と目の前の仕事が忙しくて、そういう方向の仕事ができてないので、絶賛募集中です(笑)。

──具体的には独立後、どのようなものをデザインされたのですか?

野中 僕の著作物ではありませんが、バンダイから発売されている食玩「言獣覚醒ワーディアン」(2016年)。これはオモチャのために考案されたキャラクタートイですから、理想には近いんです。「ワーディアン」は、アメリカにいたころに描いたデザインが元になっていて、変形用の図面を兼ねたキャラクターデザインから、キービジュアルやロゴまで描いています。

もうひとつ、バンダイでは作れなかった、自分の好きなオモチャを作りたいと思っていて、それがコトブキヤさんから発売されたプラモデル「昭和少年模型クラブ」の第一弾「新造人間キャシャーン」のツメロボットなんです。こちらも企画だけでなく、パッケージのイラストも、自分で描きました。




年上のクリエイターに、コンプレックスを感じる


──野中さんのように「将来はトイ・デザイナーになりたい」という若者がいたら、どうアドバイスしますか?

野中 すでに「トイ・デザイナー」という目標を明確に持っている方にでしたら、「絵の勉強はもちろんですが、市販のオモチャをどんどん分解してみてください」という助言は出来ます。ところが今、専門学校で講師をやっていまして、「最近の若者」を勉強するよい機会になっている一方、やっぱり今の若い人は草食系で、控えめすぎる印象を感じています。好きなことがあるなら、ガツガツ、前のめりで行くべきです。だけどまず、自分の好きなことが何なのか、わからない若者が多い。だから、“好きなこと探し”をしていますか?――という話から始めないといけません。早くから、「俺は将来、これを仕事にしたいんだ!」と決めている人のほうが、絶対に成功率は高い。早く目標を決めていれば、そこからの時間、全部そのための勉強にあてられますから。だから、ハタチになっても自分は何が好きなのかわからない人は、ちょっと焦ったほうがいいと思います。

僕は、5歳ぐらい年上のクリエイターたちに対して、強いコンプレックスがあるんです。庵野秀明さん、出渕裕さんなど、あの世代の方々は「好きだ!」という気持ちを武器に業界に飛び込み、アクセル全開で次世代の作品を作りあげてきたと思うんですよ。そのエネルギーにはちょっとかなわないなと自覚しつつ、少しでもそれに近づきたいと意識はしています。

僕が初めて「マジンガーZ」や「仮面ライダー」を見たときの「今まで、こんなもん見たことない! カッコいい! 欲しい!」 あの気持ちを呼びおこさせるようなキャラクターを作るのが、今までも、そしてこれからも自分の仕事なんだと思っています。

「キャラクター玩具を愛でる」という行為は、僕の中では「偶像崇拝」です。ヒーローやロボットへの憧れを具現化した「ずっと大事にしたいモノ」こそが最高だと思っています。




(取材・文/廣田恵介)

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