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音響演出の面白さは、クラシックに似ている
──今まで組んでこられた監督さんは「アニメっぽい芝居にしなくてもいいよ」という方が多かったのではありませんか?
木村 そうですね、「ピンポン」や「四畳半神話大系」(2010年)で組んだ湯浅政明監督は、アニメっぽさにはこだわっていませんでした。「UC」の古橋一浩監督、「サンダーボルト」の松尾衡監督、「結界師」のこだま兼嗣監督も、皆さんそうでしたね。
──お仕事以外で、深夜アニメはご覧なっていますか?
木村 深夜に「おそ松さん」を放送していると、つい見てしまいます。声優の皆さんが、のびのびと楽しそうに演じているし、旧作の「おそ松くん」へのリスペクトを忘れないスタッフの心意気も良いですね。若い才能にあふれていて、感心します。
──今の木村さんのお仕事は、やはり外画の吹き替えが多いのですか?
木村 はい。この前、スターチャンネルで担当した仕事は「太陽がいっぱい」。新しく吹き替えしなおしたバージョンで、アラン・ドロンの声を中村悠一さんが担当しているんです。野沢那智さん亡きあと、60年前のあのアラン・ドロンを2016年版として吹き替えるなら、中村さんがピッタリだなと思いまして。
私はクラシックを聴くのが好きなのですが、同じベートーヴェンの交響曲や協奏曲でも、指揮者や楽団、独奏者が違うと、テイストも違って聴こえます。指揮者の解釈、独奏者の個性やテクニックによって、同じ楽曲でも違った楽しみ方ができる。音響演出も、クラシックに似ているのかもしれません。同じ映画なのにビデオ版、オンエア版があって、オンエア版でも局ごとに吹き替えが違っていた。同じ作品で同じ答えに向かっているのに、関わる制作スタッフが違うと、別の日本語版が生まれる。吹き替え演出には、そういう楽しみがあるんですよね。「太陽がいっぱい」は、まさにそんな感じでした。
──「音響監督になりたい」と思っている若い人がいたら、どうアドバイスしますか?
木村 私は、音響監督という仕事があるとも知らずに、この業界に入ってしまいました。ですから、音響制作会社に入社するのは、ひとつの手だと思います。いきなり音響監督になれなくても、制作の仕事をしておくといいですよ。仕事の流れをつかみ、お客さんとの顔をつなぐという意味でも制作を経験しておくことは、とても大切です。
というか、若い人には会社に入る前に、人生経験をたくさん積んでほしいです。その時その場所でしか経験できないことが、いっぱいあると思います。良いことばかりじゃないでしょうが、若いうちの経験は宝物になると思うし、色んなことにチャレンジしてほしいです。
演出という仕事は、あらゆる人の人生を糸にして物語を紡ぐことでもあります。そのためにも、沢山の人と出会って、色んなことを見て知ることは、本当に大切だと思っています。
(取材・文/廣田恵介)