“関西を第2のアニメ産業地にしたい” TVアニメ「彼女と彼女の猫 -Everything Flows-」坂本一也監督インタビュー

2016年03月28日 12:000
(C) Makoto Shinkai/CWF・彼女と彼女の猫EF製作委員会

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より広い視点を持った作品に


──原作に登場したチョビはデフォルメされた猫でしたが、ダルはリアルなデザインですね。

坂本 チョビもかわいいのですが、新海さんの原作のイメージが強く残ってしまうのを避けたかったことがリアルなデザインにした理由のひとつです。それに猫にしっかりと芝居をさせたいという気持ちもありました。リアルな猫なら擬人化して表情を作れないので、動きで感情表現をする必要が出てきます。アニメーションとして大変な作業になりますが、動きを極力リアルに作っていければと思いました。猫の動作をていねいに描くため、どういう気持ちのときにしっぽが動くのかを調べたり、スタッフを引き連れて猫カフェで観察したりしました。僕の実家は猫を3匹飼っていますが、京都スタジオには猫に触れたことがないスタッフも多かったんですよ。

──“彼女”の人物像はどのように決めていきましたか?

坂本 原作から読み取れる彼女の雰囲気と、シリーズ構成の永川成基さんが手がけた小説版の彼女・美優を合わせて作っていきました。短大の卒業を控えた20歳という年齢にしたのは、子供が大人に成長していく過程を描くのにちょうどいい設定だと思ったからです。就職活動や母親との関係に悩む中で猫の存在がどんな影響を与えるのか。そこからどのように巣立っていくのかを表現するのに最適な年頃だろうと。

──彼女とダルの年齢も絶妙でしたね。彼女が子供の頃に拾われた子猫が、今ではすっかり老猫になっている。人と猫では年の取り方が違うことを意識させられて「ほしのこえ」とも通ずる部分があるようにも感じました。

坂本 ダルはおじいちゃん猫なので、キャストの浅沼晋太郎さんにはどういうお芝居してもらうか判断に迷うところでした。やっぱり年を取った声で演じてもらってもアニメでは引き立ちませんよね。今回は青年のような声にしてもらいました。ダルが子猫のときはお芝居を微妙に変えてもらえて、とてもうまくハマりました。猫の鳴き声は効果音を使ったのですが、浅沼さんは鳴き声まで練習されていて「ゴロゴロと喉を鳴らす音が出せないんですよ」と話していたぐらい熱心に取り組んでいらっしゃいました。

 

──キャラクターの姿を見せないオフやモノローグでのセリフが多いですね。

坂本 モノローグは原作をリスペクトした意味合いが大きいです。本作では母親や友人をアクセントとして出していますが、最初は彼女と猫だけの世界を創りたかったんです。最終話で友人と話す場面も直接会うのではなく電話を通しているなど、彼女以外の存在を匂わせないようにした名残がありますね。

──浅沼さんをはじめ、豪華な声優陣がキャスティングされていて驚きました。

坂本 キャスティングは僕が案を出したうえで、音響監督の鶴岡陽太さんやプロデューサーと話し合って決めていきました。彼女役の花澤さんは「言の葉の庭」のヒロインを演じていましたが、そこはまったく意識していなかったんですよ。「言の葉の庭」でのお芝居よりは、むしろCMで普通に喋っている声を聴いて「彼女だ!」と確信したんです。友人役の矢作紗友里さんも同じような経緯で、作業中にかけていたラジオでトークを聞いているうちに「友人役にマッチしそうだな」と(笑)。

──お芝居ではなく話し声がキャスティングの決め手になったんですね。母親役の平松晶子さんはいかがでしたか?

坂本 母親のキャストは最後の最後まで決まらず、一番思い悩んだ役柄でしたね。僕の中でなかなかキャスティングが思い浮かばなかったんです。そこで鶴岡さんに一任したところ、平松さんを推してもらえました。平松さん自身も「母親役ができるか心配だったんです」とおっしゃっていましたが、アフレコはバッチリで素晴らしかったです。

──ちなみに彼女の母親はどんな経緯で登場させたのでしょうか?

坂本 原作は完全に猫の主観だけの物語ですから、彼女がなぜ泣いているのかは見る人の気持ちにゆだねられていました。そこが作品の魅力にも繋がっていましたが、テレビシリーズは合計で30分の尺があるため、同じ演出では視聴者が置いてけぼりになってしまう。彼女の悩みをわかりやすくする要素として母親を出そうと決めました。

 

──最終話ではテレビシリーズが原作の前日譚だと明かされました。このアイデアはどうやって生まれたのでしょうか?

坂本 テレビシリーズの中だけで世界観を完結させてしまうのではなく、原作や小説、コミカライズともパラレルワールドのように繋がっていれば、世界の広がりを感じてもらえるだろうと思ったんです。今回初めて「彼女と彼女の猫」を知った人に向けて、他のメディアへの橋渡しができますし、原作ファンにとってはサプライズにもなる。あと原作の彼女がチョビと出会う前の、彼女自身の生き方を描きたかったことも理由ですね。

──テレビシリーズをもう一度見てみると新たな発見もできますね。

坂本 原作と世界を繋げるために細かい仕掛けを施しました。原作で彼女が着ていたコートや、部屋で使っていた姿見をこっそりと登場させています。また第1話のアバンのシーンはダルの夢が舞台になっていて、猫の視覚から世界がどう見えているのかを研究してるサイトなどを参考にして、セルと背景を馴染ませる処理を加えました。あの場所はダルの記憶によって構成されていて、いろいろと伏線が盛り込まれています。見返すことによってわかる場面も多いので一度だけでなく何度も楽しんでもらえればうれしいです。

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  • (C) Makoto Shinkai/CWF・彼女と彼女の猫EF製作委員会

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彼女と彼女の猫 -Everything Flows-

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放送日: 2016年3月4日~2016年3月25日   制作会社: ライデンフィルム京都スタジオ
キャスト: 花澤香菜、浅沼晋太郎、矢作紗友里、平松晶子
(C) Makoto Shinkai/CWF・彼女と彼女の猫EF製作委員会

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